パキシル錠が販売中止となるようです。
2024年12月販売中止。
経過措置期間は2025年3月までを予定しています。
中止理由は諸般の事情です。
パキシルの有効成分であるパロキセチンは、1975年にデンマークのFerrosan社で合成されました。
Ferrosan社はFemoxetineも開発しており、パロキセチンは持続性はあるもののFemoxetineには及ばないと考え、1980年にイギリスのスミスクライン ビーチャム社(現:グラクソ・スミスクライン社)に売却されました。
1970年代という早い段階で合成されていましたが、ビーチャム社もパロキセチンは安全性は高いが効果では三環系に劣ると考えており開発に力はいれられていませんでした。
合成はパロキセチンより後ですが、いち早く市場に登場したフルボキサミンがアメリカで評判が高まると、ビーチャム社も本気でうつ病の治療薬として開発に取り組み、1990 年に抗うつ薬として初めてイギリスで承認された後、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害等の治療薬として各国で承認を取得しました。
日本では2000年9月にうつ病・うつ状態のみならず、パニック障害の適応を取得しています。
パキシルといえば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)の代名詞と言っても過言ではありませんが、この「SSRI」という名を最初に使ってプロモーションをしたのはパキシルです。
市場進出に後塵を拝していいたパキシルですがこの「SSRI」という響きの新鮮さや、選択性という余計な受容体に作用しないシンプルな作用、これまでも三環系とは一線を画すものという宣伝文句に医者を乗せることに成功し抗うつ薬の一時代を築くことになります。
パキシル発売後6年間、ジェイゾロフトの登場まで日本に新規の抗うつ薬は登場せず、日本の抗うつ薬市場の1/4を占める規模にまで成長しました。
パキシルの抗うつ効果はフルボキサミンと比較すると初期からはっきり現れます。
これはパキシルのセロトニントランスポーターへの親和性の高さによるものです。
また、パキシルはそれ自身が代謝酵素を阻害し分解されにくい状態を作り投与量以上の働きをします。
さらに、パキシルはアドレナリン受容体やセロトニン受容体には結合しないため三環系抗うつ薬のような心毒性がありません。
三環系の過量服用は致命的ですが、パキシルなら過量に服用されても致命的な状態にはなりません。
わかりやすさと、効きを患者が実感しやすい点や長期投与しやすさが精神科のみならず、知識のない内科などでもウケて爆発的に売上を伸ばすことになります。
しかし、しかしこれだけ売れると影の部分が目立つわけでして、特に服用をやめたときの離脱症状の激しさは他のSSRIの比ではないと言われています。
パキシルは半減期が他のSSRIと比べると短く更に、自身が代謝酵素を阻害するので服用をやめると血中濃度は一気に下がります。
これによりシナプス間隙のセロトニンが急激に減少しセロトニン系の副作用である頭痛、めまい、倦怠感、知覚異常を引き起こします。
金属音のような「シャンシャン」という耳鳴りと、電気が流れたような「ビリビリ」というしびれる感じ、いわゆる「シャンビリ感」です。
シャンビリ感は急な断薬が原因と考えられています。
投与量を微調整するためにも低用量の規格が求められていました。
そして2010年9月に5mg錠が発売されました。5mg錠は日本でしか発売されていない規格で、それだけよく売れて、それなりに影響を与えた薬なのだと実感させられます。
そんなパキシルですが、2025年には処方されることはなくなります。一時代を築いた薬がなくなるのは寂しいものです。
パキシル錠の代替品
パキシル、パロキセチンには後発品が存在します。
後発品が代替品の候補になります。
また、パロキセチン錠の徐放製剤、パロキセチンCR錠も存在しています。
ただし、パロキセチンCR錠は適応が「うつ病・うつ状態」しかなく、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害へは使用できない点に注意が必要です。