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2020年12月18日金曜日

2020年度診療報酬改定 バイオ後続品導入初期加算【在宅自己注射指導管理料】



国は医療費削減の方策として、後発品の使用指針を掲げています。
80%を目標にしていましたが、目標間近で頭打ちに近くなってきていました。
そこで、バイオ医薬品の後発品、バイオ後続品の普及にも力を入れるようです。

2020年度診療報酬改定において、
在宅自己注射指導管理料について、バイオ後続品に関する情報を患者に提供した上で、患者の同意を得て、バイオ後続品を導入した場合の評価として バイオ後続品導入初期加算が新設されます。医科診療報酬の在宅自己注射指導管理料の加算です。

バイオ後続品の普及、認知度を高めていくために
「バイオ後続品を知らない患者にバイオ後続品を推奨する際の情報提供」
「バイオ後続品に切り替える場合の患者への説明や症状の観察」
を行ったことを評価するもので最初に処方した月から3カ月を限度に月1回150点を加算できます。
ただし、オンライン診療で在宅自己注射管理指導料を算定する場合にはバイオ後続品導入初期加算は算定できません。

09 令和2年度診療報酬改定の概要(個別的事項)|厚生労働省

バイオ後続品から先行バイオ医薬品が同一である別のバイオ後続品に変更した場合、例えば『インスリン グラルギン BS 注キット「FFP」』から『インスリン グラルギン BS 注カート「リリー」』へ切り替えるような場合が想定できますが、このような場合は再度算定はできないようです。 

疑義解釈資料の送付について(その1)厚生労働省保険局医療課 事務連絡令和2年3月31日
問 97 区分番号「C101」在宅自己注射指導管理料のバイオ後続品導入初期加算について、バイオ後続品から先行バイオ医薬品が同一である別のバイオ後続品に変更した場合、再度算定可能か。 

(答)算定不可。 


在宅自己注射可能なバイオ後続品(2020年12月時点)

●バイオ後続品が収載されても自動的に在宅自己注射指導管理料の対象薬剤へ追加されるわけではない!

在宅自己注射指導管理料に規定する注射薬、すなわち保険診療上、在宅自己注射可能な注射薬は「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等(平成 18 年厚生労働省告示第 107 号)」や「特掲診療料の施設基準等(平成20年厚生労働省告示第63号)別表9」に示されています。

現時点で在宅自己注射指導管理料の対象となるバイオ医薬品の注射薬が存在するのは、インスリン製剤、ヒト成長ホルモン剤、顆粒球コロニー形成刺激因子製剤、エタネルセプト製剤、テリパラチド製剤、アダリムマブ製剤です。

バイオ後続品については、化学合成の後発医薬品に比べ分子構造が複雑であることなどから、「先行バイオ医薬品との同等性」を市販後も調査するなど、慎重な取り扱いがなされています。このため、「当分の間、バイオ後続品については、後発品の取扱いと同様とせず、先行バイオ医薬品が在宅自己注射指導管理料の対象となっている場合でも、バイオ後続品の在宅自己注射指導管理料の対象薬剤への追加にあたっては、個別品目毎に中医協において、より慎重にその可否を審議する」ことになっています。

【参考】
在宅自己注射指導管理料の対象薬剤に係る運用基準(平成30年11月14日中医協総会資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000400322.pdf

バイオ先行品とバイオ後続品の代表例を以下にお示しします。
赤字は在宅自己注射指導管理料の算定対象となるバイオ後続品です。

薬効分類
一般的名称
○バイオ先行品
◆バイオ後続品

インスリン製剤
インスリン グラルギン(遺伝子組換え)
○ランタス注 100 単位/mL
○ランタス注カート
○ランタス注ソロスター
○ランタスXR 注ソロスター
インスリン グラルギン BS 注キット「FFP」
インスリン グラルギン BS 注カート「リリー」
インスリン グラルギン同 BS 注ミリオペン「リリー」


インスリン リスプロ(遺伝子組換え)
○ヒューマログ注 100 単位/mL
○ヒューマログ注カート
○ヒューマログ注ミリオペン
○ヒューマログ注ミリオペン HD
○ヒューマログミックス 25 注カート
○ヒューマログミックス 25 注ミリオペン
○ヒューマログミックス 50 注カート
○ヒューマログミックス 50 注ミリオペン
インスリン リスプロ後続 1
インスリン リスプロ BS 注 100 単位/mL HU「サノフィ」
◆インスリン リスプロBS 注カート HU「サノフィ」
◆インスリン リスプロBS 注ソロスター HU「サノフィ」


ヒト成長ホルモン剤
ソマトロピン(遺伝子組換え)
○ジェノトロピンTC注用12mg
○ジェノトロピンゴークイック注用12mg
◆ソマトロピン BS 皮下注 5mg「サンド」シュアパル
◆ソマトロピン BS 皮下注 10mg「サンド」シュアパル


顆粒球コロニー形成刺激因子製剤
フィルグラスチム(遺伝子組換え)
○グラン注射液 75
○グラン注射液 150
○グラン注射液 M300
○グランシリンジ 75
○グランシリンジ 150
○グランシリンジ M300
◆フィルグラスチムBS 注 75μ g シリンジ「F」
◆フィルグラスチムBS 注 150μ g シリンジ「F」
◆フィルグラスチムBS 注 300μ g シリンジ「F」
◆フィルグラスチムBS 注 75μ g シリンジ「NK」
◆フィルグラスチムBS 注 150μ g シリンジ「NK」
◆フィルグラスチムBS 注 300μ g シリンジ「NK」
◆フィルグラスチムBS 注 75μ g シリンジ「サンド」
◆フィルグラスチムBS 注 150μ g シリンジ「サンド」
◆フィルグラスチムBS 注 300μ g シリンジ「サンド」
◆フィルグラスチムフィルグラスチム BS 注 75μ g シリンジ「テバ」
◆フィルグラスチムBS 注 150μ g シリンジ「テバ」
◆フィルグラスチムBS 注 300μ g シリンジ「テバ」
◆フィルグラスチムフィルグラスチム BS 注 75μ g シリンジ「モチダ」
◆フィルグラスチムBS 注 150μ g シリンジ「モチダ」
◆フィルグラスチムBS 注 300μ g シリンジ「モチダ」
※顆粒球コロニー形成刺激因子製剤については、再生不良性貧血及び先天性好中球減少症の患者に対して用いた場合に限り算定する。

エタネルセプト製剤
エタネルセプト (遺伝子組換え)
○エンブレル皮下注用 10mg
○エンブレル皮下注用 25mg
○エンブレル皮下注 25mg シリンジ 0.5mL
○エンブレル皮下注 50mg シリンジ 1.0mL
○エンブレル皮下注 25mgペン 0.5mL
○エンブレル皮下注 50mg ペン 1.0mL
[エタネルセプト後続 1]
◆エタネルセプト BS 皮下注用 10mg「MA」
◆エタネルセプト BS 皮下注用 25mg「MA」
◆エタネルセプト BS 皮下注 25mg シリンジ 0.5mL「MA」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mgシリンジ 1.0mL「MA」
◆エタネルセプト BS 皮下注 25mg ペン 0.5mL「MA」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mg ペン 1.0mL「MA」

[エタネルセプト後続 2]
◆エタネルセプト BS 皮下注 10mg シリンジ 1.0mL「TY」
◆エタネルセプト BS 皮下注 25mg シリンジ 0.5mL「TY」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mg シリンジ1.0mL「TY」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mg ペン 1.0mL「TY」
◆エタネルセプト BS 皮下注 10mg シリンジ 1.0mL「日医工」
◆エタネルセプト BS 皮下注 25mg シリンジ 0.5mL「日医工」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mg シリンジ 1.0mL「日医工」
◆エタネルセプト BS 皮下注 50mg ペン 1.0mL「日医工」


テリパラチド製剤
テリパラチド(遺伝子組換え)
○フォルテオ 皮下注キット600μg
[テリパラチド後続 1]
◆テリパラチド BS 皮下注キット 600µg「モチダ」

アダリムマブ製剤
アダリムマブ(遺伝子組換え)
○ヒュミラ皮下注 20mg シリンジ 0.2mL
○ヒュミラ皮下注 40mg シリンジ 0.4mL
○ヒュミラ皮下注 80mg シリンジ 0.8mL
○ヒュミラ皮下注 40mg ペン 0.4mL
○ヒュミラ皮下注 80mg ペン 0.8mL
アダリムマブ後続 1
◆アダリムマブ BS 皮下注 20mg シリンジ 0.4 mL「FKB」
◆アダリムマブ BS 皮下注 40mg シリンジ 0.8 mL「FKB」
◆アダリムマブ BS 皮下注 40mg ペン 0.8mL「FKB」

[医科点数表]
C101 在宅自己注射指導管理料
1 複雑な場合 1,230点
2 1以外の場合
イ 月27回以下の場合 650点
ロ 月28回以上の場合 750点

注1  別に厚生労働大臣が定める注射薬の自己注射を行っている入院中の患者以外の患者に対して、自己注射に関する指導管理を行った場合に算定する。ただし、同一月に第2章第6部の通則第6号に規定する外来化学療法加算を算定している患者については、当該管理料を算定できない。

(導入初期加算)
注 2  初回の指導を行った日の属する月から起算して3月以内の期間に当該指導管理を行った場合には、導入初期加算として、3月を限度として、580点を所定点数に加算する。
注 3  処方の内容に変更があった場合には、注2の規定にかかわらず、当該指導を行った日の属する月から起算して1月を限度として、1回に限り導入初期加算を算定できる。

(バイオ後続品導入初期加算)
注 4  患者に対し、バイオ後続品に係る説明を行い、バイオ後続品を処方した場合には、バイオ後続品導入初期加算として、当該バイオ後続品の初回の処方日の属する月から起算して3月を限度として、150点を所定点数に加算する。

(オンライン在宅自己注射指導管理料)
注 5  別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、区分番号A003に掲げるオンライン診療料を算定する際に在宅自己注射指導管理料を算定すべき医学管理を情報通信機器を用いて行った場合は、注1の規定にかかわらず、所定点数に代えて、在宅自己注射指導管理料(情報通信機器を用いた場合)として、月1回に限り100点を算定する。


[留意事項 保医発0305第1号]
C101 在宅自己注射指導管理料
(1) 在宅における排卵誘発を目的とする性腺刺激ホルモン製剤を用いた治療については、在宅自己注射指導管理料は算定できない。ただし、性腺刺激ホルモン製剤に含まれるフォリトロピンベータ製剤(遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤)を「視床下部-下垂体機能障害に伴う無排卵及び希発排卵における排卵誘発」の治療のために投与した場合、又はフォリトロピンアルファ製剤(遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤)を「視床下部-下垂体機能障害又は多嚢胞性卵巣症候群に伴う無排卵及び希発排卵における排卵誘発」の治療のために投与した場合に限っては、在宅自己注射指導管理料を算定できる。
(2) インターフェロンベータ製剤については、多発性硬化症に対して用いた場合に限り算定する。
(3) インターフェロンアルファ製剤については、C型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善(血中HCV RNA量が高い場合を除く。)を目的として単独投与に用いた場合、C型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善(セログループ1の血中HCV RNA量が高い場合を除く。)を目的として単独投与に用いた場合、HBe抗原陽性でかつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性肝炎のウイルス血症の改善を目的として単独投与に用いた場合及びHTLV-1関連脊髄症(HAM)に対して用いた場合に限り算定する。
なお、ペグインターフェロンアルファ製剤については算定できない。
(4) グリチルリチン酸モノアンモニウム・グリシン・L-システイン塩酸塩配合剤については、慢性肝疾患における肝機能異常の改善に対して用い、在宅自己注射での静脈内投与について十分な経験を有する患者であって、医師により必要な指導を受けた場合に限り算定する。
(5) 顆粒球コロニー形成刺激因子製剤については、再生不良性貧血及び先天性好中球減少症の患者に対して用いた場合に限り算定する。
(6) アドレナリン製剤については、蜂毒、食物及び毒物等に起因するアナフィラキシーの既往のある患者又はアナフィラキシーを発現する危険性の高い患者に対して、定量自動注射器を緊急補助的治療として用いた場合に限り算定する。
(7) 「1」複雑な場合については、間歇注入シリンジポンプを用いて在宅自己注射を行っている患者について、診察を行った上で、ポンプの状態、投与量等について確認・調整等を行った場合に算定する。この場合、プログラムの変更に係る費用は所定点数に含まれる。
(8) 在宅自己注射の導入前に、入院又は2回以上の外来、往診若しくは訪問診療により、医師による十分な教育期間をとり、十分な指導を行った場合に限り算定する。ただし、アドレナリン製剤については、この限りではない。また、指導内容を詳細に記載した文書を作成し患者に交付すること。なお、第2節第1款の在宅療養指導管理料の通則の留意事項に従い、衛生材料等については、必要かつ十分な量を支給すること。
(9) 「2」については、医師が当該月に在宅で実施するよう指示した注射の総回数に応じて所定点数を算定する。なお、この場合において、例えば月の途中にて予期せぬ入院等があり、やむを得ずあらかじめ指示した回数が在宅で実施されなかった場合であっても、当該指示回数に応じて算定することができる。ただし、予定入院等あらかじめ在宅で実施されないことが明らかな場合は、当該期間中の指示回数から実施回数を除して算定すること。また、「2」は区分番号「B001」の「7」難病外来指導管理料との併算定は可とする。
(10) 「注2」に規定する導入初期加算については、新たに在宅自己注射を導入した患者に対し、3月に限り、月1回に限り算定する。ただし、処方の内容に変更があった場合は、さらに1回に限り算定することができる。
(11) 「注3」に規定する「処方の内容に変更があった場合」とは、処方された特掲診療料の施設基準等の別表第九に掲げる注射薬に変更があった場合をいう。また、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の変更を行った場合及びバイオ後続品から先行バイオ医薬品が同一であるバイオ後続品に変更した場合には算定できない。
なお、過去1年以内に処方されたことがある特掲診療料の施設基準等の別表第九に掲げる注射薬に変更した場合は、算定できない。
(12) 「注4」にて規定するバイオ後続品導入初期加算については、当該患者に対して、バイオ後続品の有効性や安全性等について説明した上で、バイオ後続品を処方した場合に、当該バイオ後続品の初回の処方日の属する月から起算して、3月に限り、月1回に限り算定する。
「バイオ後続品を処方した場合」とは、バイオ後続品の一般的名称で処方した場合(例えば、「○○○○○○(遺伝子組換え)[●●●●●後続1]」と処方した場合をいう。)又はバイオ後続品の販売名で処方した場合(例えば、「●●●●● BS注射液 含量 会社名」と処方した場合をいう。)をいう。
(13) 「注2」及び「注3」に規定する導入初期加算並びに「注4」に規定するバイオ後続品導入初期加算は、対面診療を行った場合に限り、算定できる。
(14) 在宅自己注射指導管理料を算定している患者の外来受診時(緊急時に受診した場合を除く。)に、当該在宅自己注射指導管理に係る区分番号「G000」皮内、皮下及び筋肉内注射、区分番号「G001」静脈内注射を行った場合の費用及び当該注射に使用した当該患者が在宅自己注射を行うに当たり医師が投与を行っている特掲診療料の施設基準等の別表第九に掲げる注射薬の費用は算定できない。
なお、緊急時に受診した場合の注射に係る費用を算定する場合は、診療報酬明細書の摘要欄に緊急時の受診である旨を記載すること。
(15) 在宅自己注射指導管理料を算定している患者については、当該保険医療機関において区分番号「C001」在宅患者訪問診療料(Ⅰ)又は区分番号「C001-2」在宅患者訪問診療料(Ⅱ)を算定する日に行った区分番号「G000」皮内、皮下及び筋肉内注射、区分番号「G001」静脈内注射及び区分番号「G004」点滴注射の費用(薬剤及び特定保険医療材料に係る費用を含む。)は算定できない。
(16) 同一月に第2章第6部の通則6に規定する外来化学療法加算を算定している患者の外来受診時に、当該加算に係る注射薬を用いて当該患者に対して自己注射に関する指導管理を行った場合については、当該管理料を算定できない。
(17) トシリズマブ製剤については、皮下注射により用いた場合に限り算定する。
(18) アバタセプト製剤については、皮下注射により用いた場合に限り算定する。
(19) 2以上の保険医療機関が同一の患者について、異なった疾患に対する当該指導管理を行っている場合には、いずれの保険医療機関においても、当該在宅療養指導管理料を算定できる。
なお、この場合にあっては、相互の保険医療機関において処方されている注射薬等を把握すること。
(20) ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム製剤については、急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)の既往のある患者又は急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)を発症する危険性の高い患者に対して、筋肉内注射により用いた場合に限り算定する。
(21) 「注5」に規定する点数は、対面診療とオンライン診療を組み合わせた診療計画を作成し、当該計画に基づいてオンライン診療による計画的な療養上の医学管理を行うことを評価したものであり、オンライン診療を行った月に、オンライン診療料と併せて、月1回に限り算定する。
(22) 「注5」に規定する点数が算定可能な患者は、在宅自己注射指導管理料を算定している糖尿病、肝疾患(経過が慢性なものに限る。)又は慢性ウイルス性肝炎の患者であって、当該管理料を初めて算定した月から3月以上経過しているものに限る。

2020年12月12日土曜日

アダラートL錠 販売中止と代替品



アダラートL錠10mg/20mgが販売中止となるようです。
2021年5月頃から出荷が終了されるようです。
https://pharma-navi.bayer.jp/static/media/pdf/products/ADL_PNS_202012070.pdf


経過措置満了期間は2022年3月末を予定されています。


アダラートL錠の成分であるニフェジピンは、1948 年ドイツ・バイエル社の化学者 Bossertが始めたセリ科の薬草 Ammi visnagaの果実の有効成分であるケリンの研究がはじまりまです

1966 年薬理学者 Vater の協力を得て,ケリンからキノリン類,さらにキノリン類を開環した構造で,強力な冠血管拡張作用を示す1,4-ジヒドロピリジン誘導体ニフェジピンの合成に成功しました。ニフェジピンの誕生です。

その後、1976 年には日本で軟カプセル剤「アダラート」(2019年販売中止)が発売され、以来,狭心症治療剤として広く使用されていました。

しかしながら、アダラートカプセルは速やか、かつ高い血中濃度が得られ、迅速、かつ確実な効果を発現する反面、作用持続時間が短く、さらに高血圧症への臨床応用に伴い、服薬コンプライアンスの改善の点でも、より作用持続性のある製剤が求められるようになりました。このような背景があって、Ca 拮抗薬では初めての持続性製剤として 1 日 2 回投与が可能な「アダラート L 錠」が開発されました。

日本においては 1985 年高血圧症・狭心症治療薬として発売されました。

そして、高血圧治療薬はさらなるコンプライアンス改善を目標に1日1回製剤が登場してくることとなり、アダラートL錠が処方される頻度は減ってきました。そして、2020年に販売中止となり発売から35年の歴史に終わりを迎えることとなります。



アダラートLは通常の高血圧治療では使われる頻度は減っていたもののニッチな場では活躍しています。例えば、妊娠高血圧症や高山病での高知肺水腫の治療です。


妊娠高血圧症候群とアダラートL

妊娠高血圧症候群(HDP)とは、妊娠20週以降、分娩12週まで高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかか、さらにこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症でないものをいいます。妊娠前からあったものも含めます。妊婦さんが血圧を測ったり尿検査をするのはこのためなんですね。

収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。

降圧目標は平均動脈圧で15%程度さげるか、重症域から脱するところまで下げます。同時に、血圧を安定させます。

血圧を下げる、安定させるためにアダラートL錠やアルドメット錠(一般名:メチルドパ錠) 、トランデート錠(一般名:ラベタロール塩酸塩錠)が使用されます。


第70回日本産科婦人科学会学術講演会専攻医教育プログラム3
「妊娠高血圧腎症の診断と管理」
http://jsog.umin.ac.jp/70/jsog70/3-1_Dr.Naruse.pdf


高地肺水腫とアダラートL

高地肺水腫は高山病のいとつで、呼吸困難、重度疲労感、せき(最初は乾いた咳で後にしめっぽい)が生じます。通常、2500mを超える高度に急速に達した後24~96時間で発生し、高山病による死亡の大部分を占めるといわれています。

高地肺水腫には下山が最も効果的ですが、救急対応として肺動脈圧を低下させる目的でアダラートL錠が使用されることがあります。またアダラートL錠の代わりに,ホスホジエステラーゼ阻害薬,例えばシルデナフィル(50mg,経口,12時間毎)またはタダラフィル(10mg,経口,12時間毎)などが用いられることもああります。


アダラートLの代替品

アダラートLには後発品があります。適応も同じものなので、代替品の第一候補となりえます。



妊娠高血圧症候群や高地肺水腫では、アダラートL以外にも使用される薬剤がありますので、病態に応じて代替薬の候補を検討してみましょう。


「後発医薬品がある先発医薬品」に変わるタイミング 2020年12月収載後発品関連



 2020年12月11日に後発品の薬価収載がありました。

各先発医薬品の後発医薬品の有無に関する情報が更新され、後発医薬品の数量シェア(置換え率)に影響があります。


「後発医薬品がない先発医薬品」が後発品の登場により「後発医薬品がある先発医薬品」に変わるタイミングは、品目によって違ってきます。

(基本的には発売月の翌月1日から)


切り替わるタイミングに関しては、厚生労働省ホームページの

「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報」

5.その他(各先発医薬品の後発医薬品の有無に関する情報)の備考欄に記載されています。

https://www.mhlw.go.jp/topics/2020/04/tp20200401-01.html


2021年1月1日から「後発医薬品がある先発医薬品」に変更

リリカOD錠25mg

リリカOD錠75mg

リリカOD錠150mg

リリカカプセル25mg

リリカカプセル75mg

リリカカプセル150mg

イクセロンパッチ4.5mg

リバスタッチパッチ4.5mg

イクセロンパッチ9mg

リバスタッチパッチ9mg

イクセロンパッチ13.5mg

リバスタッチパッチ13.5mg

イクセロンパッチ18mg

リバスタッチパッチ18mg

コンプラビン配合錠


2020年10月14日水曜日

リリカOD後発品 プレガバリンOD錠の味の違い



 2020年8月ファイザーの疼痛治療薬「リリカ」の後発品が承認されました。リリカにはカプセルと口腔内崩壊錠(OD錠)の2つの剤形があります。もちろん、後発品にもカプセル、OD錠それぞれに後発品メーカーが参入してきました。そこで注目なのは、やはり後発品OD錠の味です。リリカOD錠は【ゆず風味】でしたが、後発品はどうなのでしょうか気になるところです。

そこで、添付文書およびインタビューフォームで調べたり、メーカーに聴取してみました。
結果は以下のとおりです。

空欄はメーカからの回答を得られなかったもの。表の塗りつぶしの色は添加物の組成及び錠剤のサイズ等から共同開発(OEM)である可能性が高いものです。

先発品とおなじ【ゆず風味】がやはり多いようです。「ZE」「ニプロ」「YD」「サンド」「JG」などが該当します。

そのほかに・・・

オレンジ味の「アメル」
メントール(ミント風味?)の「サワイ」
コーヒー味の「武田テバ」
ヨーグルト味の「トーワ」
イチゴ味の「日医工」
グレープフルーツ味の「DSEP」

など、オリジナルの味で特徴を出そうとしているものもあります。

また、香料不使用でただ甘いだけの「KN」など、差別化を図ろうとしているものもあります。
(「KMP」「オーハラ」「杏林」も添付文書に香料の記載はありません)


2020年10月8日木曜日

鉄注射剤投与後は低リン血症に注意



 2020年9月1日、含糖酸化鉄(フェジン)に次ぐ2剤目の静注鉄製剤の「カルボキシマルトース第二鉄(フェインジェクト静注 500mg)」が発売されました。フェインジェクトは鉄を1回の注射で500mg投与できるのが特徴です(週1回投与)。

フェインジェクトやフェジンなどの鉄注射剤は消化器症状で経口鉄を飲み続けられない人に便利な薬剤です。


しかし、鉄注射剤は低リン血症のリスクについて報告されているので、注意が必要です。特に漫然と投与した場合、長期の低リン血症から骨軟化症を引き起こすことがあります。

フェジンの低リン血症は2009年Bone誌に報告されています。

Bone. 2009 Oct;45(4):814-6.(PMID: 19555782

また、フェジンのインタビューフォームにも掲載され、メーカー側も注意喚起の文書を発出しています。

フェジン静注40mgを安全にご使用いただくために(2011年@日医工)

フェインジェクトでの低リン血症についてはRMPに潜在的な副作用として以下のように注意喚起されています。

国内臨床試験において、「血中リン減少」は本剤群の45/182 例 ( 24.7% ) 、含糖酸化鉄群の24/119 例 ( 20.2% ) で発現し、そのすべてが治験薬と因果関係ありと判断された。なお、本剤投与後、多くの症例で血中リンが低下したものの、何らかの臨床症状を認めた症例や、治験薬の休薬以外の対応が必要な症例はなかった。

フェインジェクトは日本で発売される前に、海外ではすでに使用されており、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していました。

多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院ではフェインジェクトを使用した患者さんの32%に1.86mg/dL未満の低リン血症がみられたとの報告もあります。

PLoS One. 2016 Dec 1;11(12).(PMID: 27907058)


鉄注射剤における低リン血症のメカニズム

鉄注射剤の投与が、線維芽細胞増殖因子23 ( FGF23 ) を増加させることが要因ではないかと考えられています。FGF23の増加により、腎尿細管リン再吸収と腸管リン吸収の抑制により一過性の血中リン濃度低下を起こす可能性があると示唆されています。

Neth J Med. 2014 Jan;72(1):49-53.(PMID: 24457442)

日内会誌 100:3649~3654,2011


更に良くないことにFGF23がふえると活性型ビタミンDが減ってしまいます。もともとビタミンD欠乏があったり、栄養状態が良くないと骨関連有害事象のリスクが高まります。


鉄注射剤投与ではリンの値に注意

フェインジェクトの治験では、臨床症状を認めた症例はなかったようですが、市場にでまわり多くの人に使われることとなり、潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも投与されるようになると報告も増えてくると思われます。フェジン、フェインジェクトではリンの値に注意深い観察が必要です。


フェジンとフェインジェクトの比較


鉄注射剤はKounis症候群にも注意

EMAでは、2019年11月、臨床試験および市販後使用からのデータ,ならびに文献から得られたエビデンスを検討した結果,鉄注射剤の使用とKounis症候群との間に十分な因果関係が存在するとしてすべての鉄注射剤に対してKounis症候群(心筋梗塞を引き起こすことのある急性アレルギー性冠動脈攣縮)の注意喚起を記載するよう添付文書改訂を行いました。

https://www.ema.europa.eu/en/documents/prac-recommendation/prac-recommendations-signals-adopted-28-31-october-2019-prac-meeting_en.pdf

2020年10月6日火曜日

ポステリザンF 坐薬 販売中止と代替品



ポステリザンF 坐薬 が販売中止となるようです。

https://www.maruho.co.jp/medical/pdf/products/posterisanf/news/2007posterisanf_an.pdf


2020年12月末出荷停止予定。

経過措置期間は2021年3月31日まで(予定)


ポステリザンF坐薬は、大腸菌死菌浮遊液とヒドロコルチゾンの配合剤です。

抗炎症作用に加え、創傷治癒促進作用、局所感染防御作用があり、痔核、裂肛等に有用とされていました。


大腸菌死菌浮遊液は白血球遊走能を高めることにより局所感染防御作用を示し、また肉芽形成促進作用による創傷治癒促進作用を示すことから、急性・慢性痔疾の治療と予防に有効であることが証明されています。


ドイツのドクトル・カーデ製薬会社が創製し、1922年ポステリザン軟膏及びポステリザン坐薬を発売しました。

日本ではマルホ株式会社が 1953年8月(昭和28年8月)にポステリザン軟膏の販売を開始し、次いで 1965年11月にはこのポステリザン軟膏に抗炎症作用を有するヒドロコルチゾンを配合した強力ポステリザン軟膏の販売を開始しました。

1996年9月に強力ポステリザン軟膏と同じ処方を坐薬にしたポステリザンF坐薬が販売を開始しました。そして、2020年販売を終了するに至りました。


痔核の薬物療法

薬物療法は腫れ、脱出、痛み、出血などの症状を和らげる効果はあるのですが、慢性の痔核自体を完治させることはできません。痔核の治療に用いる外用薬には坐薬と軟膏があります。

坐薬は肛門の歯状線よりも口側の病変に、

軟膏は歯状線よりも肛門側の病変に有用と考えられています。

ステロイドを含む薬は腫れ、痛み、出血の強い急性炎症の時期に効果が期待できます。

しかし、まれにステロイド性皮膚炎や肛門周囲白癬症を生じることがあるので長期にわたる連用は避けたほうがよいです。トリベノシドを含有するものは炎症性浮腫の緩和、局所麻酔薬が配合されているものは痛みの緩和、大腸菌死菌浮遊液は創傷治癒に、ビスマス系のものは出血症状の緩和に有効です。


ポステリザンF 坐薬の代替品

同一成分の坐薬はありません。

同一成分の軟膏剤に『強力ポステリザン』があります。

軟膏の場合、歯状線より下の患部しか適応になりませんが、
注入軟膏タイプもあるので歯状線より下のきれ痔(裂肛)やいぼ痔(外痔核)だけでなく、歯状線より少し上にできやすい肛門内側のいぼ痔(内痔核)まで薬剤を届けることできます。


ポステリザンF坐薬は、抗炎症作用に加え、創傷治癒促進作用、局所感染防御作用をもつ薬剤です。同様の作用が期待できる坐薬には 抗炎症作用にヒドロコルチゾン、局所感染防御作用にフラジオマイシンを配合した『プロクトセディル』があります。


2020年10月2日金曜日

カリウム製剤等価換算の注意点




アスパラカリウムを見たら、一呼吸。
添付文書の用法用量をチェックしよう!




経口カリウム製剤には

  • 塩化カリウム 
  • グルコン酸カリウム 
  • Lアスパラギン酸カリウム 
の3種類があります。

それぞれ、換算する際にはカリウム含有量をあわせる必要があります。

塩化カリウム「日医工」    1g  あたり13.4 mEq

K.C.Lエリキシル         1mLあたり 1.34mEq

スローケー600mg        1錠あたり 8 mEq
※販売中止:経過措置2020 年 3 月末日予定 

塩化カリウム徐放錠600mg「St」 1錠あたり 8 mEq

グルコンサンK細粒4mEq/g 1g あたり 4 mEq

グルコンサンK錠2.5mEq   1錠あたり 2.5 mEq

グルコンサンK錠5mEq    1錠あたり 5 mEq

アスパラカリウム散50%     1g あたり 2.9 mEq

アスパラカリウム錠300mg  1錠あたり 1.8 mEq


よくあるミスは成分量(mg)を合わせてしまうことです。


そのようなミスをおこさないために

グルコンサンKの製品名はmEqが表示されています。


塩化カリウム徐放錠600mg「St」からグルコンサンKへ変更


塩化カリウム徐放錠600mg「St」を1日4錠服用している患者さんがいます。

錠剤が大きく飲みづらいので、グルコンサンK細粒4mEq/gに変更しようと思います。

グルコン酸K細粒4mEq/gにした場合、1日何g服用すれば良いのでしょうか?


塩化カリウム徐放錠600mg「St」1錠のカリウム含有量は8mEqです。

1日4錠服用しているので、1日量は8mEq×4錠=32mEq です。

「グルコンサンK細粒4mEq/g」 1gにはカリウムが4mEq含まれていますので、

32mEq÷4mEq/g=8g

です。


グルコンサンKの添付文書を見てみると、用法用量は「1回カリウム10mEq相当量を1日3~4回経口投与」となっています。

製剤として1回2.5gが常用量になっているようですので、2.5の倍数が都合がいいようです。

そのあたりは、患者さんの様子を考慮しながら適宜調節する必要があります。


塩化カリウム徐放錠600mg「St」からアスパラカリウムへ変更


塩化カリウム徐放錠600mg「St」を1日4錠服用している患者さんがいます。

錠剤が大きく飲みづらいので、アスパラカリウム散50%に変更しようと思います。

アスパラカリウム散にした場合、1日何g服用すれば良いのでしょうか?


塩化カリウム徐放錠600mg「St」1錠のカリウム含有量は8mEqです。

1日4錠服用しているので、1日量は8mEq×4錠=32mEq です。

アスパラカリウム散50% 1gにはカリウムが2.9mEq含まれていますので、

32mEq÷2.9mEq/g=11.0g 

・・・



これは、間違いです。



添付文書の用法用量をみてください。

アスパラカリウムの添付文書の用法用量には


1日 0.9 ~ 2.7g(錠 300mg:3 ~ 9錠,散 50%:1.8 ~ 5.4g)を 3 回に分割経口投与する。


と、記載があります。

1日の上限は5.4gです。11.0gでは過量投与です。



塩化カリウムとLアスパラギン酸カリウムは単純換算できません!

気をつけてください。


なぜ、できないのかというと


ウサギの赤血球を用いた実験で、赤血球内へのカリウム移行量は、
L-アスパラギン酸カリウムの方が塩化カリウムよりも多かった(in vitro、in vivo)。
(檜垣 鴻 他:薬学研究 1963;35(6):209-225)

カリウムの細胞内取り込みの指標として赤血球(ウサギ,ヒト)内への移行をみると、
L-アスパラギン酸カリウムは塩化カリウムより良好だった。
(高安久雄 他:泌尿器科領域アスパラギン酸塩研究会研究報告集 1965;23-25)

L-アスパラギン酸カリウムを K として 1mEq/kg/hr を 2 時間静脈内持続投与において、3 時間後の体内保有率は約 70%でした。一方、塩化カリウムは約30%でした。
(檜垣 鴻 他:臨床と研究 1970;47(10):2389-2396


という報告があるように、

塩化カリウムとLアスパラギン酸カリウムは吸収や細胞内移行が大きく異なるからです。



Lアスパラギン酸カリウムは塩化カリウムに比べ2倍以上組織移行、保持能力が良いとされているのでアスパラカリウムの常用量は塩化カリウム製剤の常用量に比べ少ないのです。


塩化カリウム徐放錠600mg「St」1日4錠からアスパラカリウム散50%へ切り替える際には、1日1.8 ~ 5.4gの中で、血中カリウム濃度を確認するなど患者さんの様子をみて加減する必要があります。


塩化カリウム徐放錠600mg「St」1日4錠からアスパラカリウム錠300mgへの切り替えのときも・・・

塩化カリウム徐放錠600mg「St」は1錠中にカリウムとして 8mEq、アスパラカリウムは1錠中にカリウムとして1.8 mEqだから、これを元に計算すると・・・

塩化カリウム徐放錠600mg「St」1錠はアスパラカリウム錠 約4.5錠と同じカリウムを含んでるわ。

塩化カリウム徐放錠600mg「St」1錠をアスパラカリウム錠4.5錠に切り替えるから、1日量は18錠ね。


なんてことはしないように!



2020年10月1日木曜日

エアーサロンパス(医療用医薬品) 販売中止と代替品



 外皮用薬〈エアゾール式消炎鎮痛剤〉『エアーサロンパス』が販売中止となるようです。


販売中止時期は在庫消尽までで、2020年の12月を予定されています。

経過措置期間は未定です。


販売中止の理由は「諸般の事情」です。

医療用のエアーサロンパスを処方箋で見かけることはめったに無いので、需要がないことから、製薬会社としてもリソース配分の最適化を図ったものと考えらられます。


ドラッグストアなどでおなじみの一般用医薬品の『エアーサロンパス』シリーズですがその歴史は古く昭和の中頃までさかのぼります。その時代の消炎鎮痛外用剤には貼付剤、軟膏剤など様々な剤形の製剤はすでに存在していましたが、手を汚すことなく迅速かつ容易に薬剤を塗布できる製剤の登場が期待されていました。東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年(1963年)にエアゾール剤であるエアーサロンパスが誕生しました。

医療用の「エアーサロンパス」は一般用医薬品に遅れること1年、昭和39年(1964年)の11月に製造承認を得ました。


「エアーサロンパス」の特徴及び有用性

  1. 迅速に、容易に患部に直接噴霧出来る。
  2. 貼付剤と異なり、有毛部や間擦部に適用できる
  3. 内容物は密封されており、空気や湿度の影響を受けず、汚染もない。
  4. エアゾールによる冷却効果が期待できる。

エアーサロンパスの代替品

医療用エアーサロンパスはサリチル酸メチル, l-メントール, dl-カンフル, グリチルレチン酸を配合したエアゾール式消炎鎮痛剤です。
医療用のエアゾール式消炎鎮痛剤はエアーサロンパス以外には存在しません。

同一成分では、外用鎮痛・消炎固形軟膏の 『スチックゼノール A』 (製造販売元:三笠製薬株式会社)が代替候補になります。


どうしても、エアゾール式消炎鎮痛剤がよいのであれば、病院で処方されるものではなく、ドラッグストアや薬局の店頭で購入する一般用医薬品の「エアーサロンパス」シリーズから選択することになります。

エアーサロンパスのラインナップは以下のとおりです。


成分が医療用のエアーサロンパスと同じ配合の一般用医薬品のエアーサロンパスは存在しません。より似ているものとしては『エアーサロンパスEX』が該当していましたが、こちらも販売終了してしまったようです。

【参考】


2020年9月30日水曜日

ロタウイルスワクチンは2020年10⽉1⽇から定期接種



  • ロタウイルスワクチンは2020年10⽉1⽇から定期接種化
  • 接種対象は2020年8⽉1⽇以降に⽣まれた赤ちゃん
  • ロタリックス、ロタテックともに使⽤が可能
  • 投与期間はロタリックス,ロタテックで違うけれど,どちらも基本的に初回接種は⽣後14週6⽇までには完了させること


ロタウイルスとワクチンの歴史

赤ちゃんの重症下痢の原因として最も多いのはロタウイルス感染によるものです。ほとんどのこどもが5歳までに感染します。感染機会は⽣後6カ⽉から2歳までが最も多いといわれています。⼀度感染しても再度感染することもありますが、通常は初めての感染が最も重症です。

ロタウイルスの感染⼒は⾮常に強く、衛⽣⽔準の向上だけでは感染は予防できません。発展途上国だけではなく先進国でも感染が起きるため、“democratic virus”と⾔われています。胃腸炎症状は1週間程度で⾃然に治ってくるのですが、痙攣、脳炎などの数々の合併症を引き起こし、死亡することもあります。

ロタウイルスは、1973年にオーストラリアのBishopにより発⾒されました。
1981年には日本の研究者である佐藤邦彦先生が初めてヒトロタウイルスの培養法を報告しています。その後、ワクチンの開発が試みられました。1998年にサル-ヒトロタウイルスのリアソータントワクチン(製品名:RotaShield)が開発され、アメリカで承認されました。1年間で100万ドース以上が投与されたのですが、投与後に副作用の腸重積症の発⽣が問題となってしまい使⽤が中⽌されました。

Murphy TV, et al:N Engl J Med. 2001;344(8):564-72.[PMID: 11207352]

同じ個体に2種類以上の異なるウイルスが同時に感染したとき、ウイルス同士の遺伝子の一部が入れ替わる場合があります。これをリアソートメント(Reassortment:遺伝子再集合)といいます。その結果生まれた新たなウイルスをリアソータントといいます。


世界標準のワクチン

2006年にNew England Journal of Medicineに1価経⼝弱毒⽣ヒトロタウイルスワクチン(製品名:ロタリックス)と5価経⼝弱毒⽣ロタウイルスワクチン(製品名:ロタテック)の臨床試験の成績が掲載されました。

Ruiz-Palacios GM, et al:N Engl J Med. 2006;354(1):11-22.[PMID:16394298]
Vesikari T, et al:N Engl J Med. 2006;354(1):23-33.


現在、世界中で主にこの2つのワクチンが接種されています。それらよって、有効性やワクチン開始後のロタウイルス感染症の減少が確認されています。2013年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)はロタウイルスワクチンに関するポジションペーパーに「世界中のすべての国の予防接種プログラムに導⼊されるべきである」と記載しています。

日本では2011年にロタリックス、2012年にロタテックが発売されました。2017年の出荷数から推定される接種率は、任意接種にもかかわらず約70%とされています。お母さん達の子供を感染症から守ろうとする意識の高さをが伺えます。しかし、地域差があるようで、50%未満の⾃治体ある反⾯、80%を上回る⾃治体もあるようです。


ロタウイルスワクチン定期接種化

2012年5⽉の予防接種部会で,定期接種化に向けたロタウイルスワクチンの評価の必要性が確認されました。

定期接種化にあたっては、最終的に、

①腸重積症のベースラインデータの整理
②リスクベネフィット分析
③費⽤対効果の推計

が課題となり、議論がなされました。

これらの検討を受け、2019年9⽉の予防接種基本⽅針部会で、有効性、安全性が総合的に判断され、定期接種化を進めることとなりました。

2020年10⽉1⽇から開始されるロタウイルスワクチンの定期接種は、2020年8⽉以降に⽣まれた赤ちゃんが対象です。ロタリックスもロタテックも定期接種で使用可能です。

ロタリックスは⽣後6週から24週までに4週以上あけて2回投与します。

ロタテックは⽣後6週から32週までに4週あけて3回投与します。

どちらのワクチンも、最初に使用したワクチンで決められた接種回数を終了する。

初回投与は⽣後14週6⽇までに⾏うことが推奨されていますが、副反応として危惧されている腸重積症の合併を減らすためにもなるべく早い投与が推奨されています。





【参考】

厚⽣科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本⽅針部会ワクチン評価に関する⼩委員会:ロタウイルスワクチンの技術的な課題に関する議論のとりまとめ. 2019. 

2020年9月29日火曜日

異なるワクチンを接種する場合の接種間隔 [2020年10月改訂]



  •  2020年10⽉1⽇から「注射の⽣ワクチン同⼠の接種間隔を27⽇以上あける」以外のワクチンの接種間隔規定が撤廃されることになりました。
  • 『注射の⽣ワクチン』同⼠以外は、いかなる間隔で接種してもワクチンの効果に影響はありません。
  • 同一ワクチンの接種間隔に関して変更はありません。


2020年10月より前までは、予防接種実施要項により、異なるワクチンの接種間隔として『⽣ワクチン』接種後は27⽇以上、『不活化ワクチン・トキソイド』接種後は6⽇以上あけるように定められていました。

しかし、2020年10⽉1⽇以降、「注射⽣ワクチン同⼠の接種間隔を27⽇以上あける」こと以外のワクチンの接種間隔規定は撤廃されることになりました。



接種間隔の変更の理由

不活化ワクチンは、異なる種類の不活化ワクチンや⽣ワクチンと免疫反応が⼲渉することはありません。

つまり不活化ワクチンは、異なる種類の不活化ワクチンや⽣ワクチンとの同時接種も含め、どのような接種間隔でも接種することができるのです。


⼀⽅、異なる⽣ワクチンを短い間隔で投与した場合には、後から投与したワクチンの免疫反応が抑制されてしまいます。

これは、最初に投与した⽣ワクチンのウイルスによって産⽣されたインターフェロンが後から投与された⽣ワクチンのウイルスの複製を抑制するためと考えられています。

⽶国、WHOなど海外では、『注射の⽣ワクチン』の接種間隔は、同時接種しない場合には規定されていますが、不活化ワクチン、経⼝⽣ワクチン接種後には規定がありません。

そこで、日本においても、不活化ワクチン・経口生ワクチンについて、他のワクチンと干渉する可能性は低いことから、諸外国と同様に、他のワクチンとの接種間隔に対する制限は見直すよう小児科学会などから要望されていました。



ワクチンの種類と接種間隔

異なる種類のワクチンとの接種間隔について図にまとめてみました。

現在日本で承認されている注射の生ワクチンには麻しん、風しん、麻しん・風しん混合ワクチン、BCG、水痘・帯状疱疹ワクチン、おたふくかぜワクチンがあります。
これら注射の生ワクチン同士の接種は、過去に干渉の報告があること等から、引き続き27日以上間をおいて接種します。




【参考】

厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知.「異なるワクチンの接種間隔に係る添付文書の「使用上の注意」の改訂について」.薬生安発0228第5号、2020.02.28.

第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料. 2019.10.2. 

第36回厚⽣科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本⽅針部会:予防接種の接種間隔に関する検討. 2019.

第37回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料. 2020.1.27.

厚生労働省|ワクチンの接種間隔の規定変更に関するお知らせ

2020年6月20日土曜日

アクリノール 販売中止と代替品



(2020年6月更新)
各社、アクリノール製剤を販売中止とするようです。


アクリノール液 0.1%「シオエ」
販売中止:2019年6月(予定)
経過措置:2022年3月31日(予定)

アクリノール消毒液0.1%「タイセイ」[2619700Q1214]
アクリノール消毒液0.2%「タイセイ」[2619700Q2130]
販売中止:未定
経過措置:未定

販売中止:未定(2020年12月頃)
経過措置:2023年3月31日

アクリノール消毒液0.1%「NP」(ニプロ)
販売中止:不明
経過措置:2020年3月31日

アクリノール消毒用液0.1%「マルイシ」
アクリノール水和物原末「マルイシ」
販売中止:2018年11月
経過措置:2020年3月31日

アクリノール「コザカイ・M」
販売中止:2018年12月
経過措置:未定(統一名収載品)

アクリノール「ホエイ」
販売中止:未定
経過措置:2020年3月31日

アクリノール0.5%液「ヨシダ」
アクリノール0.2%液「ヨシダ」
アクリノール0.1%液「ヨシダ」
販売中止:2019年3月(予定)
経過措置:2020年3月31日

0.1%アクリノール液「ヤクハン」
アクリノール液0.2%「ヤクハン」
販売中止:2019年4月(予定)
経過措置:2020年3月31日

アクリノール水和物「ケンエー」
ケンエーアクリノール液 0.1
ケンエーアクリノール液 0.1(滅菌済み)
ケンエーアクリノール液 0.2
販売中止:2018年12月~2019年10月(予定)
経過措置:2020年3月31日

アクリノール水和物原末「ニッコー」
販売中止:未定
経過措置:未定(統一名収載)

アクリノール消毒液0.1%「ニッコー」
販売中止:未定
経過措置:2020年3月31日

東海アクリノール液
アクリノール「東海」 [2619714X1105]
販売中止:未定
経過措置:2020年3月31日

アクリノール(山善)|アクリノール(乳酸エタクリジン)[2619714X1180]
アクリノール外用液0.2%「ヤマゼン」
販売中止:未定
経過措置:2020年3月31日

アクリノール消毒液0.1%「昭和」
販売中止:2018年12月
経過措置:2020年3月31日


販売中止時期がメーカーによって異なります。
販売中止理由は「諸般の事情」ということで詳細は不明です。


アクリジンから分離したアクリフラビンは第一次世界大戦時に局所消毒薬として開発されました。しかし毒性が強く、改良品としてアクリノールが1919年に開発されました。
アクリノールを製品化したのはドイツの製薬メーカーであるバイエル社です。1921年、リバノールの商品名で販売を開始しました。

アクリノールは、黄色の色素で、一般細菌類の一部(連鎖球菌、黄色ブドウ球菌などの化膿のう菌)に対する殺菌消毒作用を示すのですが、真菌、結核菌、ウイルスに対しては効果がありません。
比較的刺激性が低いというか単純にしみにくいだけで、細胞障害は起こりえます。衣類等に付着すると黄色く着色し、脱色しにくくなることがあります。

口腔粘膜や耳鼻科領域の粘膜の消毒や化膿局所の消毒に使われていました。


前時代的な消毒薬アクリノール

「傷を消毒しない。傷はきれいな水流で洗浄し、必要であればデブリードマンを行う。」この考え方は、多くの方の市民権を得てきました。
一昔前までは、傷は乾かし消毒しまくるのが当たり前でした。
そんな、一昔前の医療での消毒薬がアクリノールです。
傷に消毒をしてはいけない理由は、感染に対しての防御機能をもつ白血球、マクロファージがアクリノールで障害を受けてしまうから。
また、組織の再生をになう繊維芽細胞、上皮細胞などがアクリノールで障害を受けてしまいまうからです。
さらに、アクリノールを塗っても殺菌作用は一時的なもので、接触性皮膚炎などの副作用によるデメリットのほうが大きいからです。
化膿傷の治療では外用消毒を行うより、抗菌薬を全身投与するほうがよいです。

以前よく見かけたのが、褥瘡周囲皮膚に発赤・落屑、びらん・潰瘍化がみられ拡大しているのにもかかわらずアクリノールを染み込ませたガーゼを詰め込む・湿布を行うという、傷に塩をすり込むようなものでした。アクリノールに感作されたときは、深い潰瘍を形成する場合があります。


アクリノールガーゼの湿布


傷口の消毒以外にも『アクリノールガーゼ(リバノール湿布)』という、謎の治療法があるようです。
点滴薬剤漏出の治療や蜂窩織炎の治療に使われているそうですが、アクリノール液自体に抗炎症作用はなくほとんど意味はありません。しかも、ふくなどにアクリノールがつかないように油紙で覆って使うことが殆どで、覆うことでアクリノールが気化せず気化熱を奪って冷却するという湿布本来の機能がはたらいていません。

薬剤漏出による組織傷害の程度をアクリノール湿布を貼用した群と貼用しない群で比較検討した結果、アクリノール湿布の効果を示す知見は得られなかったとの報告があります。

石田ら、(2004)「薬剤漏出による皮膚組織傷害に対するアクリノール湿布の効果に関する実験的研究」,『日本看護技術学会誌』「3(1)」P58-65

蜂窩織炎へのアクリノールガーゼに関する海外論文を検索しても、該当するもはありませんでした。


アクリノールの代替品


傷や褥瘡には、何か薬、軟膏を塗らなければ いけないと思い込んでいませんか?
何も使わないという発想、湿潤環境を整えれば、 自然治癒するという発想を持ちましょう。

本当に必要なのか見直す良い機会です。

消毒を要する場面には手術、生検、アンギオ前の皮膚、血液培養時、カテ挿入して留置するとき(IVH挿入、心嚢や胸腔ドレナージなど)、関節腔穿刺があります。

場面に応じて、オキシドール、複方ヨード・グリセリン、ポビドンヨード含嗽剤、ベンザルコニウム塩化物液、ヨードチンキ 等から選択します。

口腔粘膜にはポビドンヨードガーグル、咽頭等には複方ヨードグリセリン、他にヨードチンキ、オキシドール液がよいでしょう。
耳鼻科領域の粘膜には1.5~3%のオキシドール液が使用できます。


歯科領域では抜歯後の消毒や歯周ポケットの消毒などにアクリノールを使用する例があるようです。ポビドンヨードや塩化ベンゼトニウム(ネオステリングリーンうがい液)などが代替としてあげられますが、消毒の効果は少なく、さらに生理食塩水で洗浄と効果に差はないとの報告もあるようです。

上でも述べていますが、蜂窩織炎など皮膚が発赤腫脹しているところへアクリノール湿布を行うことは意味がありません。湿布をするとしても水道水で十分です。水道水では心もとないのであれば、冷たく湿らせたモイスキンパッドなどのドレッシング材を使うだけで不快感を軽減できます。


一般用医薬品
医療用医薬品のアクリノールは販売中止となりましたが、一般用医薬品(含む部外品)は販売されています。

化膿性疾患用薬

殺菌消毒薬

「後発医薬品がある先発医薬品」に変わるタイミング 2020年6月収載後発品関連



2020年6月9日に後発品の薬価収載がありました。
各先発医薬品の後発医薬品の有無に関する情報が更新され、後発医薬品の数量シェア(置換え率)に影響があります。

「後発医薬品がない先発医薬品」が後発品の登場により「後発医薬品がある先発医薬品」に変わるタイミングは、品目によって違ってきます。
(基本的には発売月の翌月1日から)

切り替わるタイミングに関しては、厚生労働省ホームページの
「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報」
5.その他(各先発医薬品の後発医薬品の有無に関する情報)の備考欄に記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/topics/2020/04/tp20200401-01.html

2020年7月1日から「後発医薬品がある先発医薬品」に変更

セレコックス錠100mg
セレコックス錠200mg
メマリー錠5mg
メマリー錠10mg
メマリー錠20mg
メマリーOD錠5mg
メマリーOD錠10mg
メマリーOD錠20mg
レミニール錠4mg
レミニール錠8mg
レミニール錠12mg
レミニールOD錠4mg
レミニールOD錠8mg
レミニールOD錠12mg
ベガモックス点眼液0.5%
アマージ錠2.5mg
ゼチーア錠10mg
エリル点滴静注液30mg
アボルブカプセル0.5mg
ウリトス錠0.1mg
ステーブラ錠0.1mg
ウリトスOD錠0.1mg
ステーブラOD錠0.1mg
ザルティア錠2.5mg
ザルティア錠5mg
シュアポスト錠0.25mg
シュアポスト錠0.5mg
ピレスパ錠200mg
ザイザル錠5mg
ザイザルOD錠2.5mg
ザイザルOD錠5mg
ザイザルシロップ0.05%

2020年10月1日から「後発医薬品がある先発医薬品」に変更

メマリードライシロップ2%
エディロールカプセル0.5μg
エディロールカプセル0.75μg
ジャドニュ顆粒分包90mg
ジャドニュ顆粒分包360mg
ビビアント錠20mg
ディレグラ配合錠
ファンガード点滴用25mg
マグネスコープ静注38%シリンジ10mL
マグネスコープ静注38%シリンジ15mL
マグネスコープ静注38%シリンジ20mL
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2020年6月19日金曜日

2021年3月スタート予定 薬局等でのマイナンバーカードをつかった保険資格確認



令和元年5月に「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立したことを受けて、2021年3月からマイナンバーカードまたは被保険者証により、医療機関等の窓口においてオンラインで加入者の資格を確認する仕組み【オンライン資格確認】が導入される予定です。

オンライン資格確認を円滑に導入するため、マイナンバーカードを読み取る機械(顔認証付きカードリーダー)は、なんと医療機関及び薬局に無償提供されます。素晴らしい税金の使い方です。
さらに、カードリーダーだけでは何もできませんから、レセコンの改修などが必要になりますが、初期導入経費(システム改修等)については、医療情報化支援基金による補助金を活用でるみたいです。薬局は32.1万円を上限に補助が受けられるようです。


いつ、カードリーダーが届くのでしょうか。
カードリーダーの無償提供を受けるには申込みが必要です。
支払基金が2020年7月頃に医療機関・薬局向け専用ポータルサイトを開設する予定です。そのポータルサイトで、顔認証付きカードリーダーの申込、オンライン資格確認等システムの利用申請及び医療情報化支援基金の補助申請の受付が行われます。顔認証付きカードリーダーの申込時期や詳細はポータルサイトのアカウント登録をしたメールに届くようなので、まずはポータルサイトのアカウントを作成しましょう。

なお、改修費用の補助金はシステム改修後、オンライン資格確認の導入準備が完了した後に、支払基金に補助申請を行うことになります。つまり事前申請ではなく、精算払いとなり医療機関・薬局における申請は導入作業後の11月以降です。


オンライン資格確認とは



そもそもオンライン資格確認とはどういったものなのでしょうか。
オンライン資格確認は「ICチップ内に格納された利用者証明用電子証明書付きのマイナンバーカード」又は「健康保険証の記号・番号等」で行います。
マイナンバーカードであれば「顔認証または暗証番号による本人確認」、健康保険証であれば「記号・番号等の入力」をすることで、オンライン資格確認等システムで患者の最新の資格情報を確認することが可能になります。



オンライン資格確認を導入することで得られるメリット

①資格情報の登録作業の削減
 患者の最新の資格情報を、医療機関システムへ取り込むことが可能になります。マイナンバーカードでは自動的に取得できますが、健康保険証では最小限の情報の入力が必要です。

<医療機関のメリット>
  1. 患者の資格情報の入力・再診時のチェック作業の軽減
  2. 正確な資格情報の取得(誤入力リスクの軽減) 

<患者のメリット>
  1. 医療機関等における受付時の待ち時間の短縮


②返戻レセプトの減少による事務負担の軽減
 患者の最新の資格情報が医療機関・薬局で確認可能となるため、資格喪失等によるレセプトの返戻が減少し、患者へ資格確認を行う業務が軽減されます。


また、審査支払機関において電子レセプトの資格情報を確認し、レセプトの請求先が変更となる場合は、電子レセプトの算定日情報等に基づき、請求先の振替又は請求先ごとにレセプトを分割して請求します。


<医療機関のメリット>
  1. 受付時に最新の資格情報が確認可能 ∴請求先誤りによる返戻レセプトが減少
  2. 保険者等からの請求先誤りに関する問い合わせが減少
  3. 保険者や患者等に対する資格情報の照会業務が軽減
  4. オンライン資格確認を未実施の医療機関等においても資格喪失等による返戻レセプトが減少


③限度額適用認定証等の連携
 患者から情報閲覧の同意が得られた場合は限度額適用認定証等の情報が取得可能となり、患者から保険者への申請がなくても、患者は限度額以上の医療費を窓口で支払う必要が
なくなります。 
限度額適用認定証および限度額適用・標準負担額減額認定証の情報はマイナンバーカードもしくは健康保険証で、特定疾病療養受療証の情報はマイナンバーカードにより本人確認を行った後、本人が同意した場合に資格情報を閲覧・取得することができます。

<医療機関のメリット>
  1. 加入者(患者)へのサービスの向上

<患者のメリット>
  1. 保険者へ限度額適用認定証等の申請手続きが不要
  2. 医療機関等の窓口に、限度額適用認定証の提示が不要
  3. 医療費が高額となった場合、申請手続きを行わなくても限度額以上の医療費の支払いが不要


④薬剤情報・特定健診情報の閲覧
 医師、歯科医師、薬剤師等の有資格者は、マイナンバーカードで患者の同意を確認した上で、「薬剤情報」や「特定健診情報」を閲覧することができます。ただし、薬剤師は薬剤情報の閲覧に限ります。
※薬剤情報の閲覧は2021年3年10月から開始されます。

<医療機関のメリット>
  1. お薬手帳の提示がなくても、患者の服薬履歴を確認でき、多剤投与や重複投与を防止可能
  2. 服薬履歴や健診結果を活用した診療や服薬指導等の実現

<患者のメリット>
  1. 服薬履歴や特定健診の結果を踏まえた診療を受けることが可能
  2. マイナポータルを活用して、医療機関等が処方した医薬品、特定健診の結果、医療費情報を確認し、自己の健康管理等に活用可能
  3. マイナポータルを通じて、医療費情報を取得し、医療費控除の手続きが可能

⑤災害時における薬剤情報・特定健診情報の閲覧
 災害時は特別措置として、マイナンバーカードによる本人確認ができない場合でも薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができるよう、厚生労働省で検討されています。

<医療機関のメリット>
  1. 災害の混乱時であっても、患者の服用薬や健診結果を確認した診療が可能
<患者のメリット>
  1. 主治医以外の医師に、普段服用している医薬品等の処方を受けることが可能


2020年6月11日木曜日

処方箋や調剤録は5年間保存したほうがいい



薬局において、通常、処方箋や調剤録は3年間保存しなければならないと法律に明記されています。しかし、令和2年4月1日以降の処方箋や調剤録は5年間保存しておいたほうがよいかもしれません

保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則 
(処方せん等の保存)
第六条 保険薬局は、患者に対する療養の給付に関する処方せん及び調剤録をその完結の日から三年間保存しなければならない。


薬剤師法
(処方せんの保存)
第二十七条 薬局開設者は、当該薬局で調剤済みとなつた処方せんを、調剤済みとなつた日から三年間、保存しなければならない。

(調剤録)
第二十八条 
第3項 薬局開設者は、第一項の調剤録を、最終の記入の日から三年間、保存しなければならない。

令和2年4月1日より改正民法が施行されました。
それにともない、健康保険法等の調剤報酬請求権の消滅までの期間が3年から5年に延長されました。
また、保険者からの返還請求権等についても同様に3年から5年に延長されました。

参考:民法の一部を改正する法律等の施行について
(令和2年5月8日 保保発0508第1号 保国発0508第1号 保高発0508第1号)
https://www.jshp.or.jp/cont/20/0512-1.pdf

第3 改正民法及び改正健康保険法等の施行に伴う留意点について
1 診療報酬請求権等の時効期間について
第1の1の改正において、「医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権」に係る3年間の短期消滅時効が廃止されたため、保険医療機関等の診療報酬債権等についても、権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間、権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10 年間で消滅時効が完成することとなる。

保険医療機関等による診療報酬請求権の消滅時効については、債権者たる保険医療機関等が当該請求権を行使することができることを知っていることが通常であると考えられることから、当該保険医療機関等が診療報酬請求権を行使できることを知らなかった
と考えられる特段の事情がない限り、原則として診療月の翌月1日(国民健康保険の場合は翌々々月の1日)から起算して5年間で消滅時効が完成すると解して差し支えない。

なお、第1の4の経過措置により、上記取扱いは、改正民法の施行日(令和2年4月1日)以降の診療により発生した診療報酬請求権から適用される。

診療報酬の過払いにかかる保険者の不当利得返還請求権の消滅時効については、原則として保険者による診療報酬の支払いが行われた日の翌日から起算して10年間の消滅時効が適用されることとなるが、保険者が当該請求権を行使することができることを知ったと考えられる特段の事情がある場合には、当該事情に照らし、その事情が認められる時(当該請求権を行使することができることを知った時)から5年間で消滅時効が完成することとなる。

詳細については、「保険医療機関等に係る返還金の回収状況の把握について」(平成30年保保発0427第1号・保国発0427第1号・保高発0427第1号)も参照されたい。

保険者の申出による再審査査定により保険医療機関等に対する診療報酬の支払いが請求額よりも減額されて行われた場合における、保険医療機関等が保険者に対して有する診療報酬増額に係る請求権については、原則として当該減額後の診療報酬の支払いが行われた日の翌日から起算して10年間の消滅時効が適用されることとなるが、当該保険医療機関等が当該請求権を行使することができることを知ったと考えられる特段の事情がある場合には、当該事情に照らし、その事情が認められる時(当該請求権を行使することができることを知った時)から5年間で消滅時効が完成することとなる。

このため、請求の根拠となる文書である処方箋や調剤録などについては、薬剤師法等により保管期間が3年間とされてはいますが、請求検討の消滅時効満了までの5年間保管しておくのが良いでしょう。

なお、法律は不遡及原則があるので、この請求権5年に該当するのは令和2年4月1日以降に調剤を実施したものからとなります。




必ず、5年間保管しておかなければならないものもあります。

5年間調剤録を保管しなくてはならない場合とは、
  • 生活保護受給者
  • 障害者
  • 結核患者
  • 指定小児慢性特定疾病
  • 指定難病患者
の処方箋・調剤録です。

根拠は以下のとおり

生活保護法に基づく指定医療機関医療担当規程
第九条 指定医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及び書類を完結の日から五年間保存しなければならない。

第十二条 指定医療機関である薬局にあつては、第五条の規定は適用せず、第八条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替え適用するものとする。

指定自立支援医療機関(精神通院医療)療養担当規程
第六条 指定自立支援医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及びその他の物件をその完結の日から五年間保存しなければならない。

第九条 指定自立支援医療機関である薬局にあっては、第五条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替えて適用する。

指定自立支援医療機関(育成医療・更正医療)療養担当規程
第八条 指定自立支援医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及びその他の物件をその完結の日から5年間保存しなければならない。

第十一条 指定自立支援医療機関である薬局にあっては、第三条第2項及び第五条の規定は適用せず、第七条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替えて適用する。

感染症指定医療機関医療担当規程
第十一条 感染症指定医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及び書類をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。

第十三条 結核指定医療機関である薬局にあっては、第二条の三及び第五条の二の規定は適用せず、第十条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替えて適用するものとする。

指定小児慢性特定疾病医療機関療養担当規程
第八条 指定小児慢性特定疾病医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及びその他の物件をその完結の日から5年間保存しなければならない。

第十一条 指定小児慢性特定疾病医療機関である薬局にあっては、第五条の規定は適用せず、第七条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替えて適用する。

難病の患者に対する医療等に関する法律に基づく指定医療機関療養担当規程
第六条 指定医療機関は、診療及び診療報酬の請求に関する帳簿及びその他の物件をその完結の日から五年間保存しなければならない。

第九条 指定医療機関である薬局にあっては、第五条中「診療録」とあるのは「調剤録」と読み替えて適用する。


なお、病院や診療所などの医療機関の診療録(カルテ)の保存期間は5年間です。

保険医療機関及び保険医療養担当規則
(帳簿等の保存)
第九条 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする。


2020年6月2日火曜日

コンサータやビバンセ 卸からの納品には時間がかかる



コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)の流通管理について、「コンサータ錠登録管理システム」において管理されていましたが、2019年12月2日から「ADHD適正流通管理システム」という新しいシステムが稼働し、こちらで管理されることになりました。

これは、2019年9月4日に厚生労働省がコンサータの流通管理を大幅に変更する旨を通知したことによるものです。
患者情報の登録が新たに義務付けられ、また医師の登録要件が厳格化されました。

2020年6月30日までが新システムへの移行期間です。
2020年7月1日以降もコンサータ錠の処方及び調剤を継続するためには、2020年6月30日までにADHD適正流通管理システム(https://www.adhd-vcdcs.jp/)へ新規に登録しなおさくてはなりません。
2020年6月30日までに登録されない場合、2020年7月1日以降は未登録となり、コンサータ錠の卸からの納入及び調剤を継続することができません。

メチルフェニデート塩酸塩製剤(コンサータ錠 18mg、同錠 27mg 及び同錠 36mg)の使用にあたっての留意事項について
(令和元年9月4日付け薬生総発 0904 第1号、薬生薬審発 0904 第3号、薬生安発0904 第1号、薬生監麻発 0904 第1号厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長、医薬品審査管理課長、医薬安全対策課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)

※今般、新型コロナウイルス感染症の影響により、留意事項通知に規定する医師の登録
の事務手続き等に遅延が生じていることから、承認条件の経過措置期間を延長が9月30日まで延長されています。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴うメチルフェニデート塩酸塩製剤(コンサータ錠 18mg、同錠 27mg 及び同錠 36mg)の経過措置期間の延長について
(令和2年5月27日付薬生総発 0527 第1号薬生薬審発 0527 第5号、薬生安発 0527 第1号、薬生監麻発 0527 第1号)



今回の変更されたシステムについては日経DIで詳しくまとめられていますので、そちらをご覧ください。
・日経DI「大きく変わるコンサータの流通管理システム

日経DIでは触れられていなかったところでは、今回のシステム変更によって卸の流通管理についても大きな変更があったとの情報を入手したので、そちらを説明したいと思います。

受注元の施設登録の確認を注文の都度行うようになった


以前までのシステムでは卸は新規にコンサータの注文を受けた施設についてのみ、「コンサータ適正流通委員会」に施設登録の有無の照会を行っていたそうです。
それが、新システムでは新規納品施設、継続納品施設にかかわらず受注の都度、施設登録の有無の照会が必要となったようです。
また、受注日と受注量を都度、施設照会時に報告するようになったそうです。

そのため、継続納品については以前であれば他の薬と同じタイミングで納品されていたのですが、照会の時間分納品が遅れてしまうようです。

以前よりは余裕を持って注文するようにしています。
(卸には17:00までの注文であれば翌日朝には納品してもらうよう確約取りました)


なぜ、厳しい流通管理が行われるか

ADHDでもない患者さんをADHDだと診断し、コンサータを交付して、それを処方した医師に戻させて、医師本人が乱用していたという事例がありました。
この事件を起こした医師の適格性の問題もありますが、患者の登録なく処方できたことも問題視されて厳格なルールのもとで流通が管理されることになりました。
2019年2月21日 厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会議事録








2020年5月16日土曜日

ガストロゼピン錠25mg 販売中止(経過措置期限2020年3月31日)



胃炎・消化性潰瘍治療剤のガストロゼピン錠25mgは販売中止されており、経過措置期間も2020年3月31日に終了したようです。
http://www.bij-kusuri.jp/information/attach/pdf/ga_t_info_202002.pdf

ガストロゼピン細粒10%も以前は販売されていましたがすでに販売中止しています(経過措置期間:2011年3月31日終了)

ガストロゼピンの成分であるピレンゼピン塩酸塩水和物は、ドイツのDr.カール・トーメ社(現ベーリンガー・インゲルハイム)で開発された胃炎・消化性潰瘍治療剤です。

ピレンゼピンは、はじめから潰瘍治療薬として開発されたものではありませんでした。
もともとは新規の向精神薬を開発する目的で候補化合物※を合成していたところ、それらの中に、優れた抗潰瘍作用を示すものがあるということがわかり、詳細な薬理試験、臨床試験などが実施された結果、ピレンゼピンが潰瘍治療薬として見出されました。
※5,11-dihydro-6H-pyrido[2,3-b][1,4]benzodiazepin-6-one

日本においては胃十二指腸潰瘍治療剤ガストロゼピン錠として、1981年6月2月に承認を受け、1981年9月に発売されました。
発売から40年近く日本人の胃を守ってきたお薬です。


ガストロゼピンは、酸分泌に関連していると思われる副交感神経節のムスカリン受容体(M1)に対して、選択的に拮抗しAchの分泌を抑えて、攻撃因子を抑制する薬です。さらに胃粘膜微小循環改善、胃粘液産生亢進などにより防御因子を増強するとされています。
効果はH2受容体拮抗薬と同程度かそれより弱く、抗コリン作用による安全性の懸念から現在は、ほとんど使われなくなっていたようです。


ガストロゼピンの代替品


後発品があります。
・ピレンゼピン塩酸塩錠25mg「サワイ」
・ピレンゼピン塩酸塩錠25mg「日医工」

需要も少なく薬価も安いのでいつまでメーカーが製造してくれるかわかりません。

ピレンゼピンの他に潰瘍治療に使われるムスカリンM1受容体拮抗薬はありません。
攻撃因子を抑制する薬としてはPPIやH2受容体拮抗薬が候補となります。
PPIやH2受容体拮抗薬を使う程度ではないのでガストロゼピンが使われていたような場合では、使わない(中止する)というのも選択肢になりえるでしょう。

OTCにはピレンゼピンを配合した胃薬があります。
ガストール細粒
ガストール錠剤

速効性制酸剤(炭酸水素ナトリウム)と持続性制酸剤(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム)が出過ぎる胃酸を効果的に中和し、M1ブロッカー(ピレンゼピン塩酸塩水和物)が出過ぎる胃酸分泌を元からおさえることで、胸やけや胃痛をおさえるとともに、荒れた胃粘膜を保護します。さらに消化酵素が働き食後の胃の負担を軽くしてくれます。

パンシロンキュアSP
パンシロンキュアSP錠
「パンシロンキュアSP」は胃酸をコントロールし,胃酸から胃を守りながら痛み・胸やけを和らげる胃腸薬です。






2020年4月28日火曜日

アビガンは薬局やドラッグストアにはありません



(2020年4月28日更新)
新型コロナウイルス感染症の治療に関する知見は現時点では限られているため、厚生労働科学研究費補助金等による研究班において、既存の抗ウイルス薬のCOVID-19に対する効果を検証しているところです。「アビガン錠」(一般名:ファビピラビル)は、研究班による観察研究に参加している医療機関に供給されています。


新型コロナウイルスに対して効果が期待されている抗ウイルス薬の「アビガン錠」(一般名:ファビピラビル)ですが、2020年4月時点では薬局やドラッグストアなどで一般の方が入手することはできません。

アビガンは薬として承認されるための条件として以下を満たす必要があるとされています。

2.本剤の使用実態下における有効性及び安全性について十分な検討が必要であることから、適切な製造販売後調査等を実施すること
4.製造販売する際には、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施すること。
(添付文書より抜粋)


また、新型インフルエンザ等対策ガイドラインには
・発生後速やかに、安全性及び有効性の知見・情報を集積する体制(臨床試験等)を整備
・国が備蓄・管理したアビガンに関しては、国の指示に基づき指定された医療機関へ放出する
との記載がされています。

アビガンの流通に関してはすべて国が管理しているため、薬局が医薬品を仕入れる問屋にも在庫がなく、薬局は取り寄せることすらできませ


アビガンの流通体制

アビガンの流通について規定されているものは、平成30年に出された通知「新型インフルエンザ発生時の国が備蓄しているファビピラビルの放出方法について」(平成30年3月1日、健感発0313第1号、薬生薬審発0313第1号、薬生安発0313第1号)があります。

新型コロナウイルスにではなく新型インフルエンザ発生を想定して決められたものですが、2020年4月時点ではこれに従うものと考えられます。(今後変更される可能性はあります)

アビガンについては、胎児における催奇形性が懸念される薬剤であることから、厳格な流通管理がとられています。
さらに必要時には迅速に供給できるよう、国が備蓄・管理を行うとともに、速やかに、感染力、病原性、耐性・感受性に関する疫学情報、ウイルス学的情報、臨床医学的情報を収集し、総合的なリスク分析に努め、新型コロナウイルス感染症発生に対してアビガンを使用するか否か判断する必要があります。
国が備蓄・管理したアビガンに関しては、国の指示に基づき指定された医療機関へ放出することとし、詳細は別途定められる予定です。


参考までに、新型インフルエンザ発生時の流通体制について記載しておきます。

●アビガンは「安全性及び有効性の知見が限られていることを踏まえて、新型インフルエンザ発生初期は、感染症指定医療機関に入院した患者に限定する」とされていることから、国が備蓄・管理したアビガンは特定及び第1種感染症指定医療機関(※)に放出することとする。
安全性及び有効性の知見が得られ、患者の発生状況に応じて使用できる医療機関を拡大する。

●厳格に流通管理し、安全性、有効性の知見・情報を集積するため、アビガン使用に当たっては、厚生労働省が感染症指定医療機関からに供給依頼を受け、保管業者、富山化学に出庫、配送指示を出す。

●流通管理を厳格かつ迅速に行うため、アビガンの流通を行う医薬品等販売業者は都道府県幹事卸とし、富山化学は都道府県幹事卸に十分な情報提供を行う。



アビガンと新型コロナウイルス

アビガンは、国内では抗新型インフルエンザウイルス薬として製造販売承認を取得している薬剤です。ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を防ぐというメカニズムを有しています。インフルエンザウイルスと同種のRNAウイルスである新型コロナウイルスに対しても同様に効果があるかもしれないと期待されている薬剤です。

現在その有効性に関しては臨床試験中であり、通常の診療下では処方することはできません。

ただ、その使用方法について日本感染症学会の
に記載があります。

投与方法(用法用量):
1日目 3600 mg (1800 mg 1日2回)
2日目以降 1600 mg (800 mg 1日2回)
最長14日間投与。

1.ファビピラビルの有効性に関し、適切な重症度や投与開始のタイミングに関しては不明である。

2. 併用注意
1) ピラジナミド
2) レパグリニド
3) テオフィリン
4) ファムシクロビル
5) スリンダク

3. 簡易懸濁法による経鼻投与も可能。
被験者に経鼻胃管を挿入し,経鼻胃管が胃の中に入っていることを胸部 X 線検査で確認した後, ピストンを用いて懸濁液をゆっくりと注入する。
その後,5mLの水で経鼻胃管を洗浄する。

4.動物実験において、本剤は初期胚の致死及び催奇形性が確認されていることから、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。

5. 妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性 であることを確認した上で、投与を開始すること。
また、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間はパートナーと共に極めて有効な避妊法の実施を徹底するよう指導すること。
なお、本剤の投与期間中に妊娠が疑われる場合には、直ちに投与を中止し、医師等に連絡するよう患者を指導すること。

6. 本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合 は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと。

7. 治療開始に先立ち、患者又はその家族等に有効性及び危険性(胎児への曝露の危険性を含む)を十分に文書にて説明し、文書で同意を得てから投与を開始すること。

8. 本剤の投与にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討すること。


アビガンはどこで投与されているのか

アビガンは新型コロナウイルスに関する有効性安全性を明らかにするため治験が行われています。
また、特定臨床研究や観察研究も行われています。

これら研究実施施設では入院されたコロナウイルス陽性患者さんを対象にアビガンが投与されることもあるようです。


コロナウイルス感染症に対するアビガンの使用については、医療機関が研究班による観察研究(※)に参加し、患者本人の同意があり、医師の判断によって使用が必要となった場合に限り可能となっています。
アビガンを利用するためには、この研究班に参加している必要があります。

※ 観察研究とは、医療機関内の倫理委員会等の手続を経て患者の同意を得た上で、本来の適応とは異なる投与等を行った治療について、治療結果等を集積し、分析する研究です。

研究班に参加するための要件
(1)患者の要件
患者の同意を取得した上で、医療機関の医師の医学的判断に基づき、アビガンを使用できます。
ただし、妊娠可能な女性、妊娠させる可能性のある男性への投与は、慎重な検討が必要となっています。
(参考) 一般社団法人日本感染症学会「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」   
  1. 概ね 50 歳以上の患者で、低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった例 
  2. 糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等のある患者で低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった例 
  3. 年齢にかかわらず、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある例

(2)医療機関の要件
  • アビガン投与をご希望される施設については、医師の管理下で、確実な服薬管理・残薬管理ができること。
  • 患者さんご本人の同意を取得した上で、実際に使用頂くこと。
  • 観察研究について、倫理審査委員会の承認を受けること。
  • 薬剤を適応外で使用することについて、医療機関として通常必要な手続きを実施すること。
  • アビガンの投与に至った症例について、必要な情報を、情報をとりまとめている窓口(藤田医科大学及び国立国際医療センター)に提供可能であること。

アビガン観察研究の問い合わせ先
投与の希望が生じた場合には、必要なアビガンが速やかに納入できるよう、富士フイルム富山化学株式会社、厚生労働省等関係者により、必要な体制が整備されています。
  • 研究に関すること
    藤田医科大研究事務局 
     covid-19(at) fujita-hu.ac.jp
    NCGM レジストリ研究事務局
     registry.covid(at) hosp.ncgm.go.jp
  • 副作用等の薬剤の情報に関すること 富士フイルム富山化学株式会社
     fftc-avigan(at) fujifilm.com
  • その他、薬剤の提供等に関すること 厚生労働省医政局研究開発振興課治験推進室
     chikensuishin(at) mhlw.go.jp
※ (at) は @ に置き換えて下さい.

アビガン(ファビピラビル)観察研究に関する Q&A
「コロナウイルス感染症に対するアビガン(一般名:ファビピラビル)に係る観察研究の概要及び同研究に使用するための医薬品の提供について」(令和2年4月27日 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/000625757.pdf

(問1) 観察研究への参加を審議するための倫理審査委員会が、医療機関にない場合はどのようにしたらよいですか。
観察研究を行う代表研究機関の倫理審査委員会による中央審査を採用してください。
詳細は、代表研究機関の国立国際医療研究センター、藤田医科大学にご相談ください。 
藤田医科大研究事務局
 covid-19(at)fujita-hu.ac.jp
NCGMレジストリ研究事務局
  egistry.covid(at)hosp.ncgm.go.jp
(問2) アビガンを投与する前に、実施しなければならない医療機関内の手続きを教えてください。
各医療機関において医療安全の観点から求められている、医薬品の適用外使用に係る手続き(通常実施しているもの)を実施してください。 
〔参考〕 医療法においては、未承認新規医薬品等を用いた医療の提供の実施の適否を確認する部門の設置等の措置を講ずることが定められています(特定機能病院及 び臨床研究中核病院については義務、それ以外の病院については努力義務。医療法施行規則第9条の20の2第1項第8号等)
(問3) アビガンの供給に関する希望を窓口に依頼する際、伝達しなければならない事項を教えてください。
患者への投与前までに、問2で示した医療機関内手続きが終了する見込みがあること、また、患者への同意が確実に得られる見込みがあることについて明記してください。 このほか、投与を予定する患者数についても、併せて伝達ください。
(問4) アビガンには、どのような副作用がありますか。
動物実験において、初期胚の致死及び催奇形性が確認されていますので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないようお願いします。 また、精液中に移行することも確認されており、妊娠させる可能性のある男性への投与についても慎重な検討が必要です。あわせて、医師の管理下で、確実な服薬管理・残薬管理をお願いします。
(なお、妊娠する可能性のある女性、妊娠させる可能性のある男性へ投与する際には、催奇形性に関する危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間はパートナーとともに、極めて有効な避妊法の実施を徹底するよう指導してください。) 
また、これまでの観察研究において、アビガン投与と因果関係が疑われる有害事象は、肝機能障害、高尿酸血症、腎機能障害、嘔気、皮疹、発熱、高ビリルビン血症が報告されています。
(問5)アビガン使用に関する患者同意文書はどうすれば良いですか。
代表研究機関である国立国際医療研究センターの国際感染症センターのホームページでひな形を公開しています
 http://dcc.ncgm.go.jp/information/index.html
(問6) アビガン以外で、どのような薬剤で観察研究が行われていますか?
現在、アビガン以外には、主に、オルベスコ(一般名:シクレソニド)、フサン(一般名:ナファモスタット)の観察研究が行われています。 
オルベスコ: 吸入ステロイド薬で、抗炎症作用があり、気管支喘息が適応となっています。 基礎研究において、コロナウイルスに対する抗ウイルス活性が確認されています。 
フサン :プロテアーゼ阻害薬であり、急性膵炎等が適応となっています。 基礎研究において、ウイルスが細胞に接着する分子との結合を阻害し、ウイル スの増殖抑制効果が期待される可能性があるとの報告があります。
(問7) アビガン以外の観察研究に参加したいのですがどのようにしたらよいですか?
参加を希望される医療機関は、藤田医科大研究事務局 ( covid-19(at)fujitahu.ac.jp)へ連絡してください。
患者同意の取得や、使用にあたっての医療機関内手続き等については、基本的にアビガンの場合と同様です。
(問8) オルベスコ(一般名:シクレソニド)は、添付文書上、「有効な抗菌剤が存在し ない感染症」が禁忌となっていますが、使用してもよいのでしょうか。
オルベスコは、基礎研究において、コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス作用が示唆された薬です。
一方で、ステロイドであるため、「有効な抗菌剤が存在しない感染症」が禁忌となっていますので、観察研究にあたっては、主治医が、期待される 効果と副作用とを勘案し、患者の同意を得て、慎重に投与すべきかを検討してください。
(問9) 介護老人保健施設(老健)、重症心身障害児施設、精神科単科の病院において(転院が困難な)患者さんに対してアビガンによる治療を行いたいのですがどのようにしたらよいですか。
転院が困難な症例は、医師の経過観察下で、各施設でのアビガン投与をお願いしております。患者要件は感染症学会ガイドラインを目安にしてください。 http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_antiviral_drug_200227.pdf 
また他の医療機関と同様にアビガン観察研究への参加をお願いしております。
 アビガン投与、観察研究に関する手続きは(問1)から(問5)を参照してください。
(問10) アビガンの投与を希望する場合、どこに問い合わせればよいですか。
■研究に関すること
 藤田医科大研究事務局
 covid-19(at)fujita-hu.ac.jp

 NCGMレジストリ研究事務局
registry.covid(at)hosp.ncgm.go.jp 
■副作用等の薬剤の情報に関すること
 富士フイルム富山化学株式会社
 fftc-avigan(at)fujifilm.com 
■その他、薬剤の提供等に関すること
 厚生労働省医政局研究開発振興課治験推進室
 chikensuishin(at)mhlw.go.jp

参考:
・抗インフルエンザウイルス備蓄薬の流通について
・【通知】新型インフルエンザ発生時の国が備蓄しているファビピラビルの放出方法について
(平成30年3月1日、健感発0313第1号、薬生薬審発0313第1号、薬生安発0313第1号)
・新型コロナウイルス感染症に対する厚生労働科学研究班への協力依頼について
・新型コロナウイルス感染症に対するファビピラビルに係る観察研究の概要及び同研究に使用するための医薬品の提供に関する周知依頼について
(令和2年4月27日 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)
https://www.mhlw.go.jp/content/000625756.pdf