2020年9月1日、含糖酸化鉄(フェジン)に次ぐ2剤目の静注鉄製剤の「カルボキシマルトース第二鉄(フェインジェクト静注 500mg)」が発売されました。フェインジェクトは鉄を1回の注射で500mg投与できるのが特徴です(週1回投与)。
フェインジェクトやフェジンなどの鉄注射剤は消化器症状で経口鉄を飲み続けられない人に便利な薬剤です。
しかし、鉄注射剤は低リン血症のリスクについて報告されているので、注意が必要です。特に漫然と投与した場合、長期の低リン血症から骨軟化症を引き起こすことがあります。
フェジンの低リン血症は2009年Bone誌に報告されています。
Bone. 2009 Oct;45(4):814-6.(PMID: 19555782)
また、フェジンのインタビューフォームにも掲載され、メーカー側も注意喚起の文書を発出しています。
フェジン静注40mgを安全にご使用いただくために(2011年@日医工) |
フェインジェクトでの低リン血症についてはRMPに潜在的な副作用として以下のように注意喚起されています。
国内臨床試験において、「血中リン減少」は本剤群の45/182 例 ( 24.7% ) 、含糖酸化鉄群の24/119 例 ( 20.2% ) で発現し、そのすべてが治験薬と因果関係ありと判断された。なお、本剤投与後、多くの症例で血中リンが低下したものの、何らかの臨床症状を認めた症例や、治験薬の休薬以外の対応が必要な症例はなかった。
フェインジェクトは日本で発売される前に、海外ではすでに使用されており、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していました。
多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院ではフェインジェクトを使用した患者さんの32%に1.86mg/dL未満の低リン血症がみられたとの報告もあります。
PLoS One. 2016 Dec 1;11(12).(PMID: 27907058)
鉄注射剤における低リン血症のメカニズム
鉄注射剤の投与が、線維芽細胞増殖因子23 ( FGF23 ) を増加させることが要因ではないかと考えられています。FGF23の増加により、腎尿細管リン再吸収と腸管リン吸収の抑制により一過性の血中リン濃度低下を起こす可能性があると示唆されています。
Neth J Med. 2014 Jan;72(1):49-53.(PMID: 24457442)
日内会誌 100:3649~3654,2011 |
更に良くないことにFGF23がふえると活性型ビタミンDが減ってしまいます。もともとビタミンD欠乏があったり、栄養状態が良くないと骨関連有害事象のリスクが高まります。
鉄注射剤投与ではリンの値に注意
フェインジェクトの治験では、臨床症状を認めた症例はなかったようですが、市場にでまわり多くの人に使われることとなり、潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも投与されるようになると報告も増えてくると思われます。フェジン、フェインジェクトではリンの値に注意深い観察が必要です。
フェジンとフェインジェクトの比較
鉄注射剤はKounis症候群にも注意
EMAでは、2019年11月、臨床試験および市販後使用からのデータ,ならびに文献から得られたエビデンスを検討した結果,鉄注射剤の使用とKounis症候群との間に十分な因果関係が存在するとしてすべての鉄注射剤に対してKounis症候群(心筋梗塞を引き起こすことのある急性アレルギー性冠動脈攣縮)の注意喚起を記載するよう添付文書改訂を行いました。