鉄剤とビタミンCを一緒に摂取してもあまり意味はありません
小腸にある鉄を細胞内に吸収するトランスポーターは還元型の鉄(Fe2+)しか輸送できないため、鉄を還元状態に保つことが鉄剤の吸収効率を上げると考えて、医薬品である鉄製剤とビタミンCの同時投与が、かつては行われていました。
しかし明らかなエビデンスがないため、現在は行われていません。
では、ビタミンCが鉄の吸収を助けるというのは嘘なのか?というと、そうではありません。あくまで、薬としての鉄剤との併用メリットの確証がないだけで、食事から摂取される鉄の吸収にはビタミンCは多いに関与しています。
2018年8月理研と兵庫県立大学によって、ビタミンCが鉄分の吸収を促進するメカニズムを原子レベルで解明されました。
http://www.u-hyogo.ac.jp/outline/media/press/2018/monthly/pdf/20180820.pdf
ビタミンCだけでなく食物に含まれる有機酸もFe3+の還元反応を促進する補助に関与していることがわかりました。
食べ物からの鉄は非還元型のFe3+で存在しているため、ビタミンCや有機酸が吸収に大いに寄与しますが、還元型の鉄Fe2+として体内に供給可能な硫酸鉄徐放剤や、フェロミアやフェルムなどの有機酸鉄であるため、ビタミンC併用による吸収効率増加の寄与は大きくないと考えられます。
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出典:兵庫県立大学プレスリリースより |
鉄剤は食後に服用してはいけないの?
低いpHで鉄吸収の効率がよいと考えられていたことから、かつては空腹時の投与が望ましいと考えられていました。
しかし、空腹時に投与しても吐き気などの胃腸症状が頻発するだけで、食後投与と対して効果も変わりません。
そのため、胃腸症状の発現を抑える目的で、現在は食後に投与するのが一般的です。
鉄剤とお茶は一緒に飲んでもいいの?
大量でないのであれば、お茶を飲んでも問題ありません。
茶類が含むタンニン酸が鉄イオンと結合するため吸収効率が低下すると考えられていたことから、鉄剤服用前後にお茶類を飲むことを制限していた歴史があります。
確かに健常男子において、鉄剤服用後3時間までお茶により吸収に影響があることは報告されています。しかし女性や貧血患者などの場合には、鉄吸収能が健常男子に比較して亢進しているので鉄剤の吸収への影響は小さくなると考えられています。
鉄欠乏性貧血の治療において、臨床上の支障をきたすほどの影響があるとは考えにくいことから現在は多量の茶類摂取でなければ問題はないと考えられています。
鉄剤服用患者にお茶を飲むなということは、日常生活上の不自由を強制することになります。お茶を飲むことが鉄欠乏性貧血の治療に障害を与えるほどの影響がないなら、鉄剤服用患者に対してノンコンプライアンスを避ける意味でもお茶を控えるということは見直す必要があります。
鉄剤はいつまで飲むの?
体に鉄を貯めるために最低でも4週間以上。
鉄剤を投与開始して4週間後には、検査を実施してヘモグロビン値の上昇を確認します。
投与開始後2週間後の網赤血球数を測定して、赤血球造血の亢進を確認することもあります。
投与4週間後のヘモグロビン値が上昇して基準値内に入った場合、
それでもすぐに鉄剤の投与を中止しません。
血清フェリチン値をモニターしながら、十分に貯蔵鉄が蓄積したのを確認してから治療を終了します。
血清フェリチンの基準値は幅が広いので、少なくとも100ng/mL以上に達するまで継続されます。
投与4週間後のヘモグロビン値が投与開始前の値から上昇が認められない場合は、
鉄吸収障害やほかの病因による貧血の合併などを考慮します。
子宮筋腫など明らかな出血源が確認されている場合には、鉄剤の中止により再度鉄欠乏状態に陥ることがあるので、3〜6か月ごとに血算と血清フェリチン値を測定しながら、注意深く投薬を続ける必要があります。貯蔵鉄を保つ意味で50mg/日程度の鉄剤を隔日投与することもあります。