(2018年10月)
暗順応改善薬のアダプチノールが海外製造工場の製造遅延に伴い十分な供給がされない状態になるようです。過去、2008年にも供給停止になったことがあります。そのときは原薬の調達困難が原因でした。
アダプチノール錠5mg 供給遅延に関するお知らせ(バイエル薬品)
https://pharma-navi.bayer.jp/omr/online/notice_info/ADP_PNS_201810020_1538024006.pdf
網膜色素変性症とは
網膜色素変性症は目の内側にあってデジタルカメラでいえばCCDセンサーやCMOSセンターに相当する網膜という部分に異常をきたす遺伝性、進行性の病気です。
日本では人口10万人に対し18.7人の患者がいると推定されています。
特徴的な症状は、夜盲(暗いところでものが見えにくい)、視野狭窄(視野が狭い)、視力低下の3つです。
網膜は眼球の後面一番内側の薄い膜で、その厚さはわずか0.1~0.4mmほどしかありません。新聞紙の厚さがおよそ0.1mmですので、そのうすさがわかると思います。でも網膜はこれだけ薄いのに、ハイテク装置並みの機能が満載されています。網膜には光に反応する視細胞が片目だけで1億個以上も存在しており、光の刺激を信号に変えて脳に映像を伝えているのです。視細胞には錐体(すいたい)細胞と桿体(かんたい)細胞の2種類があります。錐体細胞は、明るい場所で色を認識することができますが、暗闇ではそのはたらきが低下してしまいます。逆に、桿体細胞は色を区別できませんが、わずかな光でも感知できるため、暗い所で主にはたらいています。
網膜色素変性では普通、桿体細胞から障害されるために、夜盲が最初に現れることが多く、進行すると周辺の視野が狭くなって、物にぶつかりやすくなったり、物が見えたり消えたりするという症状が現れます。さらに病気が進行すると錐体細胞も障害され、視力低下を自覚するようになります。
参考:
参天製薬
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/eyecare/wonders/retina.jsp
日本眼科学会
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_shikiso.jsp
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp/entry/196
網膜色素変性症には確立した治療法はありません。
そのため対症療法、いわゆる「進行を遅らせる」ための治療法としてのサプリメントや内服薬が使用されることがあります。
効果に関しては明確な結論は出ていません。
服薬に関しての精神的・生活への影響を含めたメリットとデメリットを十分に相談されたうえで使用されます。
アダプチノール (ヘレニエン)
カロテノイドの一種。その構造の基本はビタミンAの二量体で、その両端にエステル結合を有しています。アダプチノールは桿体細胞に存在する光感受性色素ロドプシンの再生に関与し暗順応が改善すると1950年代にStudnitzにより報告され保険適用となった歴史のある薬です。
日本では比較的広く使用されていますが進行の抑制効果などは現在まで十分に解明されていません。
化学構造からブルーベリーでおなじみの「ルテイン」と同様の効果を持つと考えられています。
Studnitz GV:Increase of the dark adaptation by helenium and vitamin A emulsions. Albrecht Von Graefes Arch Ophthalmol 154:137-141, 1953
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/13124214
カリクレイン(カリジノゲナーゼ)
膵由来の蛋白質分解酵素で、血中のキニンを遊離させることで血管が拡張し網膜循環が改善するとされています。
チョコラA(ビタミンA)
ヒトは光を受けて視覚を感じます。これは桿体細胞の視物質であるcis-レチナールが光刺激を受けて trans-レチナールへと変化して、この変化を刺激として視神経から脳へ視覚として認識するからです。
つまり、ビタミンAの誘導体である cis-レチナールは視覚に不可欠なのです。
ビタミンAの内服(15,000 U/日)を年単位で継続すると、網膜色素変性症での暗順応網膜電図悪化を数パーセント遅らせるという報告があります。そのため臨床では比較的よく使われています。
しかし視力と視野に関しては改善した報告はありません。
長期間に及ぶ過剰摂取では肝機能障害などの副作用が報告されていた、喫煙者では肺癌リスクの増加や妊娠中の過剰摂取では胎児の催奇形性の可能性もあるので投与する人を選ぶ薬です。
Berson EL, et al:Arandomized trial of vitamin A and vitamin E supplementation for retinitis pigmentosa. Arch Ophthalmol,111:761-772, 1993
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8512476
Farhangi MA, et al:Vitamin A supplementation, serum lipids, liver enzymes and Creactive protein concentrations in obese women of reproductive age. Ann Clin Biochem 50:25-30, 2013.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23148279
Lammer EJ, et al:Retinoic acid embryopathy.N Engl J Med 313:837-841, 1985.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3162101
ユベラ(ビタミンE、トコフェロール)
抗酸化作用に伴い網膜の変性を抑制する可能性があるとされています。過剰摂取では変性を進行させるという報告もあります。