2018年8月20日月曜日

めまいがするんです!

めまいは、その症状の起こり方や程度、訴え方、随伴する症状などが多様です。この違いは、障害の部位、程度、患者自身の感じ方などの要素が絡んでいます。めまいは、内耳性めまいと中枢性めまいとに大きく分けられるが、他には心因性めまい、更年期症状としてのめまい、整形外科的・眼科的めまいなど多岐にめまい症状として扱われることが多いで。めまい症状の訴えがあるものの、病態や原因がはっきりしない場合、所見が取れない場合などもあり、その扱いに苦慮することも少なくありません。

めまい発作を起こした時に、最もつらい症状は自律神経症状の悪心・嘔吐です。ほかに、冷や汗、便意、震え、血圧の異常とともに不安、過呼吸などを伴いやすいです。

抗めまい薬といわれる薬剤の分類は明確ではありませんが、その作用から悪心・嘔吐を抑制する制吐剤が含まれる場合も多いです。通常は、鎮静剤や循環改善剤などがその作用として総称的に使われているのが実情です。非常に曖昧に受け取られかねませんが、薬剤は効果として、即効性や特攻性が期待されます。しかし、めまい症状は、主に体平衡系の器官が急に障害を受けたときに起こる症状であり、眼振・ふらつきを含めた平衡障害症状を即効的に治癒させることは難しいです。しかし、自律神経症状を軽快させる治療は可能であることから、抗めまい薬として急性期には抗不安薬や鎮静薬などの薬剤が使われます。慢性期には障害器官の改善薬が抗めまい薬として使われることが多いようです。症状としては乗り物酔いと同じ症状を落ち着かせるためには、酔い止め薬が好んで使われます。

めまい疾患とその治療

メニエール病

内耳性めまい疾患では最も古くから知られていた疾患です。聴覚症状として、耳閉感・難聴・耳鳴とともにめまい発作が起こり、数十分から3~4時間、長くても班日くらいのめまいが続きます。落ち着くと耳閉感や耳鳴りが軽快します。これらが繰り返し起きるのが特徴です。めまい発作の数が増えてくるに従い、聴力の回復は悪くなり、難聴が進行します。
原因は、内耳内リンパ水腫が起こるためだと言われていますが、水腫が起こるメカニズムは明らかになっていません。
治療は、病態が内リンパ水腫であることから水腫の改善をさせるためにステロイドホルモン剤、利尿薬を使用します。軽いめまい感が続く場合には抗めまい薬や内耳循環改善薬の投与とともに利尿薬を続け、吐き気が出てくるようであれば酔い止め役を頓服で使用します。耳鳴りやじへいかんのが強くなってくるのはめまいの準備状態でもあるので、精神を落ち着けるようにします。
薬により半年以上聴覚症状が悪化せず、めまいもない時期が続いてくると薬の中止が可能です。しかし、神経質な性格の人はメニエール病にかかりやすいと言われ、そのような人がストレスを与えられると発症しやすいためストレスを与えない環境の整備なども治療には必要です。神経質で不安症な性格の人は治ったからとすぐに薬を中止してしまうことは再発時の不安を逆に煽ってしまい悪化してしまいがちなので、中止する時は3~6ヶ月かけて減量して中止します。
よく使用されるイソバイドは、即効性に乏しい利尿薬で、短期の投与で効果を期待することは難しいです。最低数ヶ月投与して効果を確認します。めまい改善についての効果は大きいのですが、聴覚障害の改善は乏しいという報告があることは知っておいたほうが良いでしょう。

前庭神経炎、突発性難聴

前庭神経炎は、突然強いめまいが始まり、数日~数週間持続します。非常に強いめまいが続き、平衡感覚を司る内耳半規管機能が高度に低下することによって、急な左右内耳機能のアンバランスがおきます。内耳機能の回復が悪い場合にはめまいは長く続き、半規管機能が戻らない場合には内耳機能の左右差が残るために動いたときのふらつきやめまい感が続くことがあります。
突発性難聴は、急に耳の聞こえが悪くなるとともにめまいを起こすことがあり数日持続します。
発作時の治療にはステロイドホルモン剤の点滴を行います。半規管機能低下が残る場合には、抗めまい薬と内耳循環改善薬などの薬物治療とともに、運動療法をおこないます。左右の耳の平衡感覚のアンバランスの影響を改善させるための運動を含めたリハビリを行います。こごくことでフラツキをもろに感じてしまうのでどうしても動かない生活をしてしまいがちですが、頭部の動きを与えるリハビリを行うことで、耳だけでなく脳が慣れていきふらつきの軽減を図ることができます。

良性発作性頭位めまい症

内耳性めまいの中では最も多いめまいの病気です。内耳性めまいの6割がこの病気と言われるほどです。頭を動かしたときにめまいが起こり、安静にしていると起こらないという特徴があります。これは内耳内の傾きセンサーである耳石器から耳石が半規管に入り込んで塊を作り出すことで生じます。内耳半規管の耳石の塊が頭を動かしたときに移動するとめまいが生じます。このため、起床時や寝るとき、髪を洗うとき、うがいするときなどに起こりやすいです。
基本的な治療は耳石を元の耳石器に戻す理学療法、浮遊耳石置換法です。抗めまい薬や酔い止め薬を症状に合わせて投与することもありますが、根本治療にはなりません。あくまで補助的なものです。しかし、浮遊耳石置換法と薬の併用で早期治療を図ることができます。頭部の動きが少ない生活で繰り返しやすいので、普段の運動も再発予防には重要です。

めまいに使用する薬

ベタヒスチンメシル酸塩(メリスロン)

日本で最も一般的に使われている抗めまい薬です。海外ではベタヒスチン二塩酸塩が使用されています。ベタヒスチンメシル酸塩のRCTでは、メニエール病において少なくとも1日あたり24mg以上の服用でプラセボに対するめまいへの有効性が示唆されています。また副作用が多いという印象はありません。
James AL, Burton MJ.Betahistine for Menière's disease or syndrome.Cochrane Database Syst Rev. 2001;(1)

薬理作用はヒスタミンH1受容体作動作用とH3受容体拮抗作用です。H1受容体作動作用によって脳や内耳の血管を拡張させ、H3受容体拮抗作用で前庭機能の左右差で生じる興奮性のアンバランスを調整することで症状を緩和していると考えられています。
副作用は稀ではありますが、吐き気や嘔吐、発疹などがみられることがあります。
めまいに対する明確な予防効果が確立されている薬ではないので基本症状がなくなれば飲む必要はありません。

ジフェニドール(セファドール)

ベタヒスチンとともに抗めまい薬として、よく使用されています。薬理作用としては、延髄にある嘔吐中枢を抑制することにより、前庭性嘔吐を含む様々な嘔吐を抑制します。このため海外では制吐薬としての適応もあります。比較的短時間で効果が出るので、眠気の少ない、めまい時の頓服としても利用可能で、めまいの原因疾患にかかわらず効果が期待できます
副作用は抗コリン作用による喉の渇きが比較的頻度が高いです。さらに抗コリン作用があるため緑内障や前立腺肥大症の病気にかかっている方は症状を悪化させる恐れがあり注意が必要です。

ジフェニドールにはめまいの予防効果はありません。喉の渇きの副作用も強く出ることがあるので、ダラダラ飲み続けることはおすすめできません。症状がなくなった時点で中止するのが望ましいです。

ATP(アデホス、トリノシン)

ATPは体内ですぐにアデノシンになり、プリン受容体を介して血管を拡張させます。これにより椎骨動脈の血流を増加させ内耳の血流循環を改善させることが知られています。

イソソルビド(イソバイド)

浸透圧利尿薬という分類の薬です。内リンパ水腫が原因となるメニエール病などが適応になります。ブーンという低音の耳鳴りが数時間続くようなめまいであればメニエール病の可能性が高く効果も期待できます。一方で、内リンパ水腫のない他のめまいには無効です。イソソルビドの長期投与は血漿浸透圧を上昇させ、ストレスホルモンの一つである抗利尿ホルモン(ADH)を上昇させるとの報告があります。ADHは近年、メニエール病の発生機序としての関与が示唆されているため、漫然とした長期投与は避けたほうが良いでしょう。

ジフェンヒドラミン(トラベルミン)

血液脳関門を通過する抗ヒスタミン薬です。脳幹にある嘔吐中枢に作用してめまいに伴う吐き気や嘔吐を抑制します。
副作用には眠気があります。しかし、めまいの急性期では睡眠も回復のために重要な場合が多いのでこの眠気の副作用を利用することもあります。アレグラなど新しい抗ヒスタミン薬は脳に作用しないため眠気は誘発しないのですが、同様にめまいにも効果は期待できません。また、緑内障にかかっている患者さんには、緑内障を悪化させる恐れがあるため慎重に投与します。ただ、頓用で用いられることがほとんどなので問題になることは少ないと考えられます。

7%炭酸水素ナトリウム注射液(メイロン)

めまいの発作の治療として注射で使用します。作用機序については明らかではありません。経験的に汎用されていますが、めまい症状の抑制効果については疑問視されるようなことはありません。メイロンは炭酸水素ナトリウムの濃度が下がると効果が減弱するとされているので、他の輸液や薬剤に混合して投与すると効果が少なくなるので注意です。

漢方薬

漢方では、めまいを「水」の流れの異常によるものと考え、「水」の流れを正す苓桂朮甘湯がよく使用されます。胃腸虚弱で冷え性や頭痛を伴う場合には半夏白朮天麻湯、更年期障害で抑うつ傾向のある女性のめまいには加味逍遙散などを使うこともあります。



薬局やドラッグストアで薬を買ってなんとかしたい

「めまいがするんですけど・・・」というお客さんの訴えは、ドラッグストアで従事しているなかで一番困ると言っていいものかもしれません。すでに上で述べているように、めまいには様々な原因や症状があって、回転するようなものか、ふわふわする揺れる感じなのか、訴える人と聞き手のニュアンスが合致しないことがほとんどです。さらにめまいには脳梗塞など直接命に関わる緊急性の高い病気の一つの症状であったりするので、薬だけ購入してもらって帰すのは、とても不安です。しかし、症状を訴えている人は、「なんとかしたい」と藁にもすがる思いでしょうから、薬を薦める場合には医療用に使われるものをとりあえず紹介して、服用していただき病院への受診を促します。
ドラッグストアや薬局で買えるもので効果が期待できるのは、乗り物酔い止め薬や漢方薬です。医療用のトラベルミンの類似薬となりますが、一般用医薬品OTCの酔い止め薬には多くの種類があり、それぞれに特徴を持っています。OTCにはスコポラミン製剤が多く配合されています。スコポラミンは中枢神経及び副交感神経を抑制する作用や唾液分泌抑制、鎮痛作用、消化管運動の抑制などの作用があります。

【第2類医薬品】トラベルミン 6錠

ジフェンヒドラミンサリチル酸塩 40mg
ジプロフィリン 26mg

【第2類医薬品】ツムラ漢方苓桂朮甘湯エキス顆粒 20包

本品2包(3.75g)中、下記の割合の苓桂朮甘湯エキス(1/2量)0.75g
を含有します。
日局ブクリョウ 3.0g 日局ソウジュツ 1.5g
日局ケイヒ 2.0g 日局カンゾウ 1.0g

【第2類医薬品】ルビーナ 180錠

9錠(1日服用量)中に次の成分を含有する。
連珠飲エキス散・・・3,150mg
〔トウキ・・・・・・1,500mg
シャクヤク・・・・・1,500mg
センキュウ・・・・・1,000mg
ジオウ・・・・・・・・500mg
ブクリョウ・・・・・2,000mg
ケイヒ・・・・・・・1,500mg
ソウジュツ・・・・・1,500mg
カンゾウ・・・・・・・500mg
上記生薬より抽出〕