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2018年7月19日木曜日

セロトニン5HT3受容体拮抗薬が相次いで販売中止




抗がん剤による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬である以下のセロトニン5HT3受容体拮抗薬が販売中止となるようです。

・ゾフラン注/錠/ザイディス/小児用シロップ(経過措置2019年3月末)
https://drs-net.novartis.co.jp/siteassets/common/pdf/discontinued_list/an_zfr.pdf

・セロトーン錠10mg/静注液10mg(経過措置2019年3月末)
https://www.torii.co.jp/iyakuDB/data/notice/sr1704.pdf

・シンセロン錠 8mg(経過措置2020年3月末予定)
http://www.yakult.co.jp/ph/news/files/?type=news&id=149196894459.pdf

いずれも、諸般の事情とのことです。新しい世代の制吐薬が登場してきたことによる需要減によるところが大きいと推察されます。

それでは
販売中止となる薬剤の特徴と歴史を振り返ってみましょう。

ゾフラン

ゾフランの成分名はオンダンセトロン。グラクソ・スミスクライン社によって開発されました。
時は1970 年代、固形癌に対し極めて有効な抗癌剤シスプラチンが導入され始めた頃、シスプラチンによる強い催吐作用が副作用として問題視されていました。シスプラチンなどのプラチナ系抗がん剤投与後に生ずる悪心・嘔吐には、抗がん剤により惹起されたセロトニンが一因となり、5-HT3 受容体が関与していることが明らかとなっていました。そこで製薬メーカー各社がセロトニンの基本骨格であるインドール基を有する化合物を中心に、5-HT3 受容体に対し拮抗作用を有する化合物の合成・探索を行いました。その結果、グラクソ・スミスクライン社においてはオンダンセトロンの制吐効果確認につながりました。
日本では1994年に注射と錠剤が承認され、 小児領域における剤形選択の幅を広げるために、シロップ剤が開発され、1999 年 6 月に承認を取得。 さらに、高齢患者や嚥下障害を有する癌患者にも服用が容易になるように、舌の上で瞬時に溶解し、水なしでも服用できる口腔内速溶錠(ザイディス)が1999 年 12 月に登場しました。
水も飲むのも辛いくらい吐き気がつよく、すぐ服用できるザイディス錠はそこそこ重宝されていました。
また、小児適応を持つできる5HT3受容体拮抗薬の経口剤がゾフラン小児用シロップ剤のみであったことからグラニセトロン注射薬に小児適応が追加されるまでは活躍していたと記憶してます。

セロトーン

セロトーン錠は成分名すアザセトロン塩酸塩です。三菱ウェルファーマ株式会社(現 田辺三菱製薬株式会社)が開発した国産の5-HT3 受容体拮抗薬です。三菱はメトクロプラミドが弱いながらも 5-HT3 受容体拮抗作用を有していることに着目し、その活性の増強を目的として、metoclopramide のようなベンズアミド誘導体に比べてより安定な活性コンフォメーションをとると考えられる 2,3-dihydro- benzoxazine-8- carboxamide を基本骨格に、アミノエチル側鎖を組み入れた環状アミンを有する構造をデザインしました。そしてこの基本骨格に、環状アミンとして 1-azabicyclo[2.2.2]oct-3-yl 基を導入することにより、抗ドパミン作用を有することなく、強い 5-HT3受容体拮抗作用を示すことを見出し、アザセトロン塩酸塩が 1987 年に創製されました。
セロトニンのインドール基ではなく、メトクロプラミドのベンズアミドに着目する発想が素敵ですね。この頃の国内の製薬メーカーはとてもユニークな創薬をしていました。
その後開発が進み、1994 年 1 月にセロトーン注の、1999 年 6 月にセロトーン錠 10mg の製造承認を取得しています。
ベンズアミド系の水溶性 5-HT3受容体拮抗薬というユニークな薬なのですが、他に目立った特徴もなく、メトクロプラミドでいいんじゃね?というような感じです。

シンセロン

シンセロン錠は成分名インジセトロン塩酸塩です。1993 年より開発が開始され、2004 年 1 月に臨床試験において有用性が認められ、に日清キョーリン製薬(株)(現:杏林製薬(株))が「シンセロン®錠 8mg」として製造販売承認を取得し、同年 9 月に(株)ヤクルト本社より販売を開始しました。ヤクルトはプラチナ系抗がん剤を扱っている手前、自分のところの薬の副作用は自分でなんとかしたいという思いがあったとかなかったとか。ただ、出てくるのが遅すぎた感は否めませんでした。


抗がん薬による悪心・嘔吐に使用する5-HT3受容体拮抗薬

第1世代

  • グラニセトロン(カイトリル)
  • ラモセトロン(ナゼア)


第2世代

  • パロノセトロン(アロキシ)


有効性の面では第2世代のパロノセトロンが目立ちます。
パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群とグラニセトロンとデキサメタゾンの併用群の制吐効果を検討した第Ⅲ相ランダム化比較試験において,パロノセトロンとデキサメタゾンの併用群が有意に急性嘔吐の予防だけでなく遅発性嘔吐の予防にも有効であることが報告されています(遅発期嘔吐完全制御割合:グラニセトロン群44.5% vs. パロノセトロン群56.8%)
PMID:19135415

しかし、パロノセトロンは注射しかなく経口剤のあるグラニセトロンやラモセトロンはそれなりに使用されています。
グラニセトロンには後発品ですがゼリー剤もあり剤形のバリエーションが広いです。また、グラニセトロンには他の5-HT3受容体拮抗薬にはない放射線照射に伴う消化器症状(悪心、嘔吐) の適応があり、化学放射線療法実施時には考慮したい薬剤です。また、小児がん治療における悪心・嘔吐には使用経験の豊富なグラニセトロン注射薬が頻用されています。
ラモセトロンはOD錠があるのがいいですね。

【補足】
NCCN ガイドラインではシスプラチンとAC 療法を含む高度リスク抗がん薬投与に際し、抗精神病薬のオランザピンが、パロノセトロンとデキサメタゾン併用下においてアプレピタントと同等であることが示された第Ⅲ相ランダム化比較試験の結果を受けて、オランザピン(10 mg 経口投与,1~4 日目)をパロノセトロンとデキサメタゾンとの3 剤併用で用いるオプションが示されています。
PMID:22024310