ページ

2018年3月1日木曜日

ゾフルーザ錠は小児に投与できますか?



※2018年3月13日更新

抗インフルエンザ薬のゾフルーザが申請からわずか4ヶ月という異例の速さで承認されました。(通常、申請から1年くらい)
https://www.shionogi.co.jp/med/download.php?h=c8cb0a5ab334af94d045d8cf17144b5d

発売は3月頃を予定しているようです。
(一部報道では5月)
2018年3月14日発売です。

「1回飲むだけ」ということで注目されている薬です。
特徴などをまとめてみました。



小児に投与できますか?


小児にも適応があるので投与は可能です。
ただし条件が2つあります。

『体重10kg以上』と『錠剤が飲める』ことです。
体重10kgなので1歳半位から投与できると考えられますが、錠剤を飲み込めるかどうかは分かりません。
さらに、小児に使用する10mg錠は素錠であるため苦味があります。
薬局で渡されていざ飲ませてみたら、吐き出したとなれば1錠数千円が水の泡です(小児なので医療費の負担は少ないと思いますが・・・)。

というわけで、小児に投与するとしてもオススメするのは小学生以上でしょうか。
タミフルが10代の小児には原則使用を差し控えることになっているので、10代の小児に経口薬の選択肢ができたと考えるのがいいかもしれませんね。

ちなみに、錠剤がそのまま飲み込めないなら潰してはだめなの?と思われるかもしれませんが、上にも記載したように苦いです。
小さな子供に、苦い薬を無理やり飲ますのは薬嫌いを助長してしまうのでオススメはできません。
どうしても飲ませたいのであれば、潰して「お薬飲めたね」などの服薬補助ゼリーを使えば飲ませることができるかもしれません。

治験でも服薬補助ゼリーや以下に記載するジュースなどで飲ませていたようです。

  • アイスクリーム
  • オレンジジュース
  • ブドウジュース
  • リンゴジュース
  • プリン
  • 服薬補助ゼリー

(メーカ聴取)

参考までに粉砕時の安定性データも載せておきます。(1回完結なので意味ないですが)
・室温25℃、湿度60%RH、暗所(褐色瓶・開栓)、保存期間1ヶ月
→水分の増加はみられたが、規格内だった
・ 室温25℃、湿度60%RH、暗所(開栓)、保存期間24時間
→ 水分の増加はみられたが、規格内

2018年9月に顆粒製剤が承認されました。
しかし顆粒剤は体重20kgからしか投与できません。

ゾフルーザ錠の作用機序


ゾフルーザ錠はタミフルやリレンザ、イナビルなどとは異なるユニーク作用機序を有しています。
インフルエンザウイルスは人間の細胞の中に入り込むと、自らの遺伝情報を複製してコピーを大量に作り増殖します。タミフルはコピーされたウイルスが侵入していた細胞から飛び出すのを邪魔します。これに対し、ゾフルーザは遺伝情報の複製を邪魔してコピーを作らせなくします。

ゾフルーザはウイルスの転写反応を妨げることでウイルスの増殖を抑制する薬剤ですが、ウイルス自体を直接破壊する作用はありません。
そのためタミフルなどと同じく身体の中で増殖しきってしまったインフルエンザには効果が期待できないため発熱後48時間以内に飲む必要があります。

ゾフルーザ錠の効果


効果に関しては他の薬剤師さんやお医者さんのブログなどで詳しく取り上げられていますので簡単に。

ゾフルーザは有症状期間や発熱期間の短縮に関してはタミフルと同程度の効果のようです。
治療開始後の1,2,4日目のインフルエンザウイルスの陽性患者の割合とウイルスが体内から検出されなくなるまでの期間については、タミフル群より有意に少なかったそうです。陽性患者の割合は治療開始1日目でタミフルの半分くらいまで抑えられるようです。

Open Forum Infect Dis. 2017 Fall; 4(Suppl 1): S734.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5631501/

症状短縮がタミフルと有意差がつかなかったことについては、ゾフルーザは熱を下げたり咳を止めたりする薬ではないので、人間の防御反応として一度スイッチが入ってしまったものが自然にもともに戻るまでにはある程度時間がかかるし個人差も大きいからだろうと推測できます。

ただ、症状が治まる期間がタミフルと変わらないとしてもウイルス排出の期間が短くなることで、介護や保護者へのウイルス暴露リスクが減らせる点では、間違いなくメリットは有ると思います。

N Engl J Med 2018; 379 : 913 - 23.
https://www.nejm.jp/abstract/vol379.p913


ゾフルーザ錠は食事の影響を受けますか?


うけます。
空腹時投与と比べ食後投与で Cmax は 48%,AUC は 36%減少しました。(Tmax の中央値はいずれも 4 時間)
空腹のほうがよく吸収するみたいです。


腎機能障害・肝機能障害の患者への投与


ゾフルーザの活性代謝物の尿中排泄率は 3.28%で、腎排泄の寄与は小さく、主に胆汁を介した糞中排泄によるものと考えられています。
そのためタミフルやラピアクタのような腎障害患者への投与量の調を行うことなく投与することができます。

治験では重度(Child-Pugh 分類 C)の肝機能障害患者に対する本剤の薬物動態は検討されていませんが、ゾフルーザは肝臓で代謝・排泄されることから、重度の肝機能障害患者では血中濃度が上昇し副作用が発現するおそれがあるので慎重投与に設定されています。
中等度(Child-Pugh 分類 B)の肝機能障害患者への治験は行われており、健常者と比べAUCが1.1倍増加したというデータはあるようです。


ゾフルーザ錠の用法用量


体重別に飲む錠数および量が異なります。
体重80kgの人は一度に4錠又は8包飲まないといけませんが、1回で済むのであまり気になりませんね。

1. 成人及び 12 歳以上の小児
20mg錠 2 錠又は顆粒4包を単回経口投与する。
80 kg以上の患者には20mg錠4錠又は顆粒8包を単回経口投与する。 
2. 12歳未満の小児には,以下の用量を単回経口投与する。
<40 kg 以上>
20mg錠 2錠又は顆粒4包
<20kg以上40kg未満>
20mg錠 1錠又は顆粒2包
<10kg以上20kg未満>
10mg錠 1錠
※2018年9月顆粒剤追加による用法用量改訂

この添付文書の用法用量の記載だと、12歳未満で80kgの小児には20mg4錠ではなくて2錠ということなのでしょうか?よく分かりませんね。
あと、錠剤の規格と錠数が丁寧に記載されているため、10mg錠が使えるのは10kg以上20kg未満の小児のみに限定されるということなのでしょうか・・・。もし、成人に10mg錠4錠1回の処方は疑義照会?在庫も2規格置かないとダメ?んー。。。

メーカーに確認したところ「20mg1錠のところを、10mg2錠で代用することはできません。添付文書通りでお願いします。」とのことでした。

顆粒剤が投与できるのは体重20kg以上の小児又は成人です。
10kg以上20kg未満には顆粒剤は投与できません。

添付文書にはゾフルーザ錠20mg1錠と顆粒2包分の生物学的同等性試験のデータしか掲載されていません。それが要因かもしれませんね。推測ですが、10mg錠 1錠と顆粒剤1包の生物学的同等性データが得られていないため承認が得られなかったのかもしれません。

顆粒剤は小児向けというよりは嚥下困難な高齢者向けということでしょうか。


ゾフルーザは内服薬?頓服薬?


頓服薬の定義には以下の通知があります。
頓服薬は1日2回程度を限度として臨時的に投与するものをいい。
1日の服用回数が2回以上で、かつ、服用に時間的、量的に一定の方針がある場合は、内服薬とする。頓服薬は、症状に応じて臨時的内服を目的として投与するものをいう(昭和24.10.26保険発310)
このように、ポイントは『臨時』であり、ゾフルーザのように単回で終了してしまうものには臨時という概念自体生じないと考えられるため、頓服薬にはなじまないと解釈できます。

処方箋には「1日1回1日分」とし服用時点に縛りはないので、なるべく早めで患者さんの都合のいいタイミングを指示することになるでしょう。


どうして10mg錠は素錠で割線が入っているの?


5mgを体重10kg未満の小児に対する用量として臨床試験を行ったため、割りやすくする目的で素錠かつ割線を入れたそうです。しかし、試験に割り振られた被験者は1名だったためデータ不足として体重10kg未満の小児に対する用法は承認されませんでした。
かわりに散剤を開発中だそうです。


服用後吐いてしまいました


一般的な話になりますが、服用後どれくらいの時間が経ってから吐いてしまったのかによります。
服用直後に吐いてしまった場合、錠剤が吐瀉物に確認できる場合などは、再度服用する必要があります。
一方、空腹時であれば服用後1時間程度で胃を通過します(消化の悪いものでは4時間くらいです)。食前に服用して1時間以上経って吐いてしまっても吸収されていると考えて良いと思われます。
そういう点からも空腹時に服用するのがいいかもしれません。


インフルエンザ薬の使い分け


最後にこれまでのインフルエンザ薬とのちがいと使い分けを独断と偏見でまとめてみました。