2017年7月に新しい作用機序を持つ抗ヘルペスウイルス薬のアメナリーフ錠(成分名:アメナメビル)が承認されました。8月に薬価収載される予定です。
既存の経口抗ヘルペスウイルス薬にはゾビラックス(アシクロビル)、バルトレックス(バラシクロビル)、ファムビル(ファムシクロビル)があります。いずれも核酸類似体として、デオキシグアノシン三リン酸と競合的に拮抗してウイルスDNAの複製を阻害することで抗ウイルス作用を示します。
アメナリーフはヘルペスウイルスDNAの複製に必須の酵素であるヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の活性を阻害することで、二本鎖DNAの開裂及びRNAプライマーの合成を抑制することで抗ウイルス作用を示します。
このようにアメナリーフは既存の経口抗ヘルペスウイルス薬と作用機序が異なるので、交差耐性を示さないと考えられています。
そのため、チミジンキナーゼが欠損しているようなアシクロビル耐性ヘルペスウイルスが発現したHIV陽性患者に対するオプションにもなると期待されています。
Chono, K. et al. ASP2151, a novel helicase-primase inhibitor, possesses antiviral activity against varicella-zoster virus and herpes simplex virus types 1 and 2. J. Antimicrob. Chemother. , 65(8) , 1733 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20534624
アメナリーフ錠の作用機序
改めて、作用機序を説明します。
ウイルスは自分のちからだけでは増殖することができないので、人間の細胞の増殖力を借りて増えていきます。
ウイルスが増殖するためには、感染した人間の細胞の核にウイルスのDNAをコピーさせる必要があります。
このコピーの段階で邪魔をするのが、薬の作用点です。
DNAは2重らせん構造をしています。
DNAをコピーするためにはまず、この2重らせん構造をほどく必要があります。
この「ほどく」作業を行うのがヘリカーゼ・プライマーゼ複合体という酵素です。
ファスナーのスライダーをイメージするといいでしょう。
アメナリーフ錠はファスナーのスライダーの役目をするヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を邪魔することで、ウイルスの増殖を抑制します。
出典:アメナリーフ錠 インタビューフォーム |
一方、ゾビラックス、バルトレックス、ファムビルは、1本鎖になったウイルスDNAが、相補的な鎖を作るのを中断させることでコピーを抑制します。
アメナリーフ錠のほうが、ウイルスDNA複製の上流をブロックしているため、より高い効果が期待できます。
アメナリーフの抗ウイルス活性
アメナメビル又はアシクロビルの水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗ウイルス活性を調べた非臨床試験では、アシクロビルとアメナメビルのEC50比が31~76倍を示しました。
アメナメビルが水痘・帯状疱疹ウイルスにたいして高い抗ウイルス活性を持つことがわかります。
さらに、アシクロビル低感受性水痘・帯状疱疹ウイルスに対しても同様に高い抗ウイルス活性を示しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20534624
アメナリーフの腎機能低下者への投与
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ちなみに、腎機能障害患者における単回投与試験ではアメナメビルの腎クリアランスの平均は、腎機能障害の重症度が高いほど低下しています。
アメナリーフの肝機能低下者への投与
Child-Pugh分類Bに該当する中等度肝機能障害患者に対して投与した際の薬物動態パラメーターは、肝機能正常者のそれと差はありませんでした。
アメナリーフの食事の影響
食事の影響を受けるので、必ず食後に服用するようにしましょう。
空腹時投与と食後投与と薬物動態パラメーターを比べたとき、tmax の中央値は、空腹時投与が 2 時間、食後投与が 4 時間と食事によって延長していました。さらに、Cmax、およびAUCは空腹時の投与のほうが半分近く低下する傾向が見られました。
アメナリーフの相互作用
リファンピシンを投与中の患者には禁忌です。
アメナメビルはCYP3A及び2B6を誘導するため、リファンピシンの代謝を促進し、血中濃度を低下させるおそれがあります。
さらにリファンピシンもCYP3Aを誘導するためCYP3Aで代謝されるアメナメビルの代謝を促進することが考えられ、両剤の作用が減弱するおそれがあります。
CYP3Aを阻害するグレープフルーツは、アメナメビルの血中濃度を上昇させてしまうかもしれないので注意が必要な食品です。
アメナリーフの安全性
承認時に臨床試験で報告された主な副作用は、β-NアセチルDグルコサミニダーゼ増加、α1ミクログロブリン増加、フィブリン分解産物増加でした。いずれも、臨床検査値異常で、それぞれ、近位尿細管障害の指標、尿細管機能の指標、血小板減少の指標です。
アメナリーフの投与は原則7日間
ウイルスのDNA複製を抑制する薬剤である抗ウイルス剤は、ウイルスが盛んに増殖している早い時期、つまり紅斑期や水疱期の帯状疱疹に使用すべきです。目安として皮疹出現後5日以内に投与を開始しましょう。
投与期間の目安は原則7日間です。症状の改善が見られない、あるいは、症状の悪化が認められた場合には、漫然と長期にわたり投与することは避け、速やかに他の治療法に切り替えましょう。
7日投与の理由は国内第三相試験において、十分な有効性が示されたからです。
その、国内第三相臨床試験では、水疱が完全にかさぶたになるまでに9日間かかっています。さらに完全に治るまで11日かかっています。7日間飲み終わった後、4日程度は様子を見る必要があります。
【2017.09.04追記】
単純疱疹に対する適応
アメナリーフ錠は単純疱疹に対する適応を取得していません(2017年8月時点)。これは、単純疱疹に対する臨床試験を行っていないのかというと、そうではないようです。単純疱疹は、再発型性器ヘルペスを対象とした第II相試験を 米国で実施し、単純疱疹を対象とした第III相試験を国内で実施していたようですが、第III相試験ではプラセボに対する優越性が確認できなかったことから、単純疱疹の開発を一時見合わせ、帯状疱疹の開発のみ進めることとした経緯があります。