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2017年5月29日月曜日

医療用麻薬ヒドロモルフォン塩酸塩 (ナルサス錠・ナルラピド錠)




ナルサス錠、ナルラピド錠は両剤ともヒドロモルフォン塩酸塩を有効成分とする麻薬性鎮痛薬です。
2017年3月に「中等度から高度の疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」を効能・効果として承認されました。

ナルサス錠とナルラピド錠の違い


ナルサス錠とナルラピド錠は両方共ヒドロモルフォン塩酸塩ですが、
ナルサス錠は徐放錠
ナルラピド錠は即放錠
というちがいがあります。

ナルサス錠は1日1回ヒドロモルフォンとして 4 ~24mgを経口投与します。
ナルラピド錠はヒドロモルフォンとして 1 日 4 ~24mgを 4 ~6 回に分割経口投与します。

ナルサス錠のなかま
オキシコンチン錠
MSコンチン錠

ナルラピド錠のなかま
オキノーム散
オプソ内服液


ヒドロモルフォン塩酸塩製剤の歴史と位置づけ


ヒドロモルフォン塩酸塩製剤は、1921 年にμ オピオイド受容体作動薬として初めてドイツで合成され、海外では、80年以上販売されておりWHOのがん疼痛治療のためのガイドラインなどで疼痛管理の標準薬に位置付けられています。

また、がん性疼痛の治療においては、同じ薬剤を使い続けることにより鎮痛効果が減弱し、増量しても十分な鎮痛効果が得られない場合や副作用の発現により必要な鎮痛が得られる用量での投与ができない場合に、必要に応じて他のオピオイド鎮痛剤への変更が行われます。これをオピオイドスイッチングといいます。
「中等度から高度のがん性疼痛」に関する効能・効果で承認されているオピオイド鎮痛剤として日本にはモルヒネ塩酸塩、オキシコドン塩酸塩、フェンタニル、タペンタドール塩酸塩があります。
そして今後、これらに加えて、ナルサス錠とナルラピド錠が新たな選択肢として使用可能となります。
さらに、がん性疼痛の治療においては、定時投与には徐放性製剤を使用し、用量調節や突出痛への対処には同一成分の即放性製剤を使用することが適しているとされています。
徐放性製剤ナルサス錠と即放性製剤であるナルラピド錠も目的に応じて使い分けることで良好な疼痛コントロールが可能となります。


ヒドロモルフォンとモルヒネの等価換算


薬剤 経口投与量
モルヒネ 10mg
コデイン 100mg
トラマドール 100mg
オキシコドン 5-7.5mg
ヒドロモルフォン 2mg
メサドン 1mg

ヒドロモルフォン経口剤のモルヒネ経口剤に対する効力比は 1:5


ナルサス錠、ナルラピド錠の安全性


ヒドロモルフォンによるμ オピオイド受容体の活性化による有害事象としては、鎮静、悪心・嘔吐、呼吸抑制、消化管運動抑制、徐脈、情動性等が報告されています。安全性薬理試験では嘔吐、鎮静、下痢、呼吸数減少、血圧低下、攻撃性及び異常行動が認められました(被験体イヌ)。臨床使用時には、中枢神経系、呼吸系及び心血管系に及ぼす影響に十分に注意する必要があると考えられます。

悪心及び嘔吐について

臨床試験において薬剤と因果関係が否定できない重篤な悪心及び嘔吐が認められています。ナルサス錠、ナルラピド錠投与に際しては悪心及び嘔吐に対する注意が必要です。
また、オキシコドン徐放錠投与群と比較してナルサス錠投与群における投与 1 日目の悪心及び嘔吐の発現割合が高かったというデータもあります。

意識障害について

臨床試験において薬剤との因果関係が否定できない重篤な意識障害に関連する有害事象が認められています。ナルサス錠、ナルラピド錠投与に際しては意識障害に関連する有害事象に対する注意が必要です。
また、オキシコドン徐放錠投与時と比較してナルサス錠投与時に傾眠の発現割合が高い傾向が示唆されています。

65歳以上の高齢者への投与について

第Ⅲ相比較試験及び長期投与試験において、65 歳未満と比較して 65 歳以上のほうが、ナルサス錠、ナルラピド錠投与後の有害事象の発現割合が高かったという結果がでています。
ナルサス錠、ナルラピド錠を高齢患者に投与する際には、患者の状態を慎重に観察し、呼吸抑制等の有害事象の発現に十分注意する必要があります。
なお、オキノーム散又はオキシコンチンと比較して、ナルサス錠、ナルラピド錠の 65 歳以上における有害事象の発現状況に明らかな差は認められませんでした。

肝機能障害者への投与

ヒドロモルフォンの主な代謝経路は 3 位のグルクロン酸抱合です。
ヒトでは UGT2B7 の関与が報告されています。
Smith HS.Opioid metabolism.Mayo Clin Proc 2009; 84: 613-24

肝機能障害を有する患者では投与時の血漿中ヒドロモルフォンの曝露が増加すると考えられます。
実際、外国人被験者に海外のナルラピド錠4 mg を空腹時単回経口投与したとき、肝機能が正常な被験者と比較してChild-Pugh 分類スコア 7~9 点の中等度の肝機能障害を有する被験者において、ヒドロモルフォンの Cmax及び AUC0-48hが約 4 倍となったことが報告されています。

腎機能障害者への投与

ヒドロモルフォンは肝代謝型の薬物ですが代謝に関与するとされる UGT2B7 については、腎機能低下者において活性が低下し、UGT2B7 で代謝される薬物の血漿中濃度が変化する
ことが報告されています。
Dreisbach AW, Lertora JJ.The effect of chronic renal failure on drug metabolism and transport.Expert Opin Drug Metab Toxicol 2008; 4: 1065-74

Lalande L.et.al,.Consequences of renal failure on non-renal clearance of drugs.Clin Pharmacokinet 2014;53: 521-32

実際、外国人被験者に海外のナルラピド錠4 mg を空腹時単回経口投与したとき、腎機能が正常な被験者と比較して中等度の腎機能障害を有する被験者(CLcr40~60 mL/min)ではヒドロモルフォンの Cmax 及び AUC0-∞がそれぞれ約 1.4 倍及び約 2 倍となったことが報告されています。
また、透析を含む重度の腎機能障害を有する被験者(CLcr 30 mL/min 未満)ではCmax 及び AUC0-∞が1.0倍及び約 4 倍となったことが報告されています。

さらに、代謝産物の蓄積にも注意が必要です。
ヒドロモルフォンの代謝産物はhydromorphone-3-glucoronide (H3G)ですが、H3Gは神経毒性をもっています。腎機能低下例ではH3G濃度が上昇する恐れがあります。

Tawfic QA, Bellingham G.Postoperative pain management in patients with chronic kidney disease.J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2015 Jan-Mar;31(1):6-13.


ヒドロモルフォンとモルヒネの臨床効果比較


ヒドロモルフォンとモルヒネの臨床効果を比較したメタアナリシスでは、モルヒネに比べて鎮痛効果が高いけれども、副作用については差がほぼないという結論がでています。

Felden L,et.al,.Comparative clinical effects of hydromorphone and morphine: a meta-analysis.Br J Anaesth. 2011 Sep;107(3):319-28.


投与制限


一般的に麻薬には成分ごとに1回に処方できる日数に制限が設けられています。
しかし、薬価収載後1年間は新医薬品としての投与制限である14日が優先されるため、成分としての投与制限は設けられていません。
2018年6月1日に新医薬品の投与制限が解除された後に成分としての投与制限が定められます。