ある薬剤には、男性の乳房を肥大させるという副作用があります。
これを「女性化乳房」と言います。
症状として、乳房が腫れたり、痛みや張りといったものがあります。ときには乳汁が出ることもあります。
女性化乳房がおきるメカニズムとして考えられているのが、女性ホルモンと乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)に何らかの影響が起こり発生しているというものです。
特に、男性ホルモンであるアンドロゲンと女性ホルモンであるエストロゲンのバランスの乱れが原因となることが多いです。
男性ホルモン(テストステロン)と女性ホルモン(エストロゲン)のバランスの乱れ
前立腺がんなどの治療では、エストロゲン製剤や内因性のエストロゲンを増加させるような薬剤が使われます。
フルタミド(オダイン)やビカルタミド(カソデックス)などを投与すると、アンドロゲンと競合しアンドロゲン受容体に結合できないジヒドロテストステロンが過剰となります。そうなると男性ホルモンの合成が低下します。
一方でジヒドロテストステロンが過剰になり、男性ホルモンが過剰な状態になると、不要な男性ホルモンはアロマターゼという酵素によって女性ホルモンの1つであるエストラジオールに変換されます。そのため血中の男性ホルモン/女性ホルモン比が上昇し、女性化乳房を引き起こしてしまいます。
前立腺肥大症の治療薬や壮年性脱毛症治療薬に使われるデュタステリド(アボルブ・ザガーロ)やフィナステリド(プロペシア)などは、男性ホルモンをジヒドロテストステロンに変換するために必要な5α還元酵素を阻害することで、活性の高いジヒドロテストステロンを低下させ抗アンドロゲン作用を示します。この、抗アンドロゲン作用、すなわち男性ホルモンの低下によって女性化乳房を引き起こすことが知られています。
また、抗真菌薬のケトコナゾールも5α還元酵素を阻害する作用をもっているため、上記と同じ機序で女性化乳房を引き起こす可能性があります。
利尿薬のスピロノラクトン(アルダクトンA)は、アルドステロン受容体に結合し、アルドステロンの結合を阻害することで降圧作用を示します。
しかし、アルドステロンだけではなく、アンドロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモン受容体にも作用してしまいます。これによって男性ホルモンの血中濃度が上昇し、フィードバック機構によって男性ホルモンの合成が低下してしまい、女性ホルモンの割合が高くなってしまいます。
H2ブロッカーであるシメチジン(タガメット)やファモチジン(ガスター)にも抗アンドロゲン作用あるため、女性化乳房を来す恐れがあります。
また、ジギタリス製剤にも女性化乳房の副作用があることが知られています。ジゴキシンの構造が女性ホルモンに似ていることや女性ホルモンの合成や放出に影響するためと考えられています。
乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)への影響
プロラクチンは脳下垂体から放出されるホルモンです。ドパミンなどによって調節されています。睡眠不足やストレスによっても分泌が増大することが知られています。
プロラクチンが多くなると男性でも女性のように乳腺の発達が刺激され乳房が肥大しお乳が出てくることがあります。
抗精神病薬のフェノチアジン系やブチロフェノン系薬剤、三環系の抗うつ薬、制吐薬のメトクロプラミド(プリンペラン)、抗ヒスタミン薬のオキサトミド(セルテクト)などの持つドパミン受容体遮断作用によって、プロラクチンの分泌抑制が阻害され、高プロラクチン血症となってしまうため、女性化乳房が起きてしまうことがあります。
他にも、ドパミンの産生を抑制するレセルピンやメチルドパ、ベラパミル(ワソラン)などの降圧薬でも女性化乳房がおきることがあります。
また、モルヒネμ受容体の刺激でプロラクチンが増えることが知られています。モルヒネやフェンタニルでも乳汁分泌の報告がなされています。
カルシウム拮抗薬やイソニアジドのように、女性化乳房の報告はありますが、なぜおきるのかメカニズムが分かっていないものも多くあります。
添付文書に副作用として「女性化乳房」の記載がある内服薬一覧(後発品除く)
商品名 |
一般名 |
薬効分類名(標榜薬効) |
---|---|---|
ザガーロ |
デュタステリド |
5α還元酵素1型/2型阻害薬男性型脱毛症治療薬 |
アボルブ |
デュタステリド |
5α還元酵素阻害薬前立腺肥大症治療薬 |
ニューロタン |
ロサルタンカリウム |
A-IIアンタゴニスト |
ヘルベッサー |
ジルチアゼム塩酸塩 |
Ca拮抗剤 |
エパデール |
イコサペント酸エチル |
EPA製剤 |
タガメット |
シメチジン |
H2受容体拮抗剤 |
プロテカジン |
ラフチジン |
H2受容体拮抗剤 |
ガスター |
ファモチジン |
H2受容体拮抗剤 (ファモチジン口腔内崩壊錠) |
アイセントレス |
ラルテグラビルカリウム |
HIVインテグラーゼ阻害剤 |
レイアタッツ |
アタザナビル硫酸塩 |
HIVプロテアーゼ阻害剤 |
リピトール |
アトルバスタチンカルシウム |
HMG-CoA還元酵素阻害剤 |
クレストール |
ロスバスタチンカルシウム |
HMG-CoA還元酵素阻害剤 |
タケルダ配合錠 |
アスピリン/ランソプラゾール |
アスピリン/ランソプラゾール配合剤 |
セルテクト |
オキサトミド |
アレルギー性疾患治療剤 |
アモキサン |
アモキサピンカプセル・アモキサピン |
うつ病・うつ状態治療剤 |
ジゴキシン |
ジゴキシン |
ジギタリス配糖体製剤 |
グラマリール |
チアプリド |
チアプリド製剤 |
ネキシウム |
エソメプラゾールマグネシウム水和物 |
プロトンポンプ・インヒビター |
オメプラゾン |
オメプラゾール |
プロトンポンプ・インヒビター |
オメプラール |
オメプラゾール |
プロトンポンプ・インヒビター |
タケプロン |
ランソプラゾール |
プロトンポンプインヒビター |
パリエット |
ラベプラゾールナトリウム |
プロトンポンプ阻害剤 |
ラベキュア |
ラベプラゾールナトリウム、アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン |
ヘリコバクター・ピロリ除菌治療剤 |
ラベファイン |
ラベプラゾールナトリウム、アモキシシリン水和物、メトロニダゾール |
ヘリコバクター・ピロリ除菌治療剤 |
ランサップ |
ランソプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシン |
ヘリコバクター・ピロリ除菌治療剤 |
ランピオン |
ランソプラゾール、アモキシシリン、メトロニダゾール |
ヘリコバクター・ピロリ除菌治療剤 |
ルプラック |
トラセミド |
ループ利尿剤 |
オノン |
プランルカスト水和物 |
ロイコトリエン受容体拮抗剤気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療剤 |
ムコスタ |
レバミピド |
胃炎・胃潰瘍治療剤 |
ノピコール |
ナルフラフィン塩酸塩 |
経口そう痒症改善剤 |
レミッチ |
ナルフラフィン塩酸塩 |
経口そう痒症改善剤 |
セレジスト |
タルチレリン |
経口脊髄小脳変性症治療剤 |
イスコチン |
イソニアジド |
結核化学療法剤 |
ネオイスコチン |
イソニアジドメタンスルホン酸ナトリウム水和物 |
結核化学療法剤 |
ヒドラ |
イソニアジド |
結核化学療法剤 |
カルデナリン |
ドキサゾシンメシル酸塩 |
血圧降下剤 |
テグレトール |
カルバマゼピン |
向精神作用性てんかん治療剤躁状態治療剤 |
インテレンス |
エトラビリン |
抗ウイルス化学療法剤 |
ストックリン |
エファビレンツ |
抗ウイルス化学療法剤 |
コンビビル配合錠 |
ジドブジン・ラミブジン |
抗ウイルス化学療法剤 |
レトロビル |
ジドブジン |
抗ウイルス化学療法剤 |
プリジスタ |
ダルナビル エタノール付加物 |
抗ウイルス化学療法剤 |
マイスタン |
クロバザム |
抗てんかん剤 |
リマチル |
ブシラミン |
抗リウマチ剤 |
フルツロン |
ドキシフルリジン |
抗悪性腫瘍剤 |
グリベック |
イマチニブメシル酸塩 |
抗悪性腫瘍剤(チロシンキナーゼインヒビター) |
タシグナ |
ニロチニブ塩酸塩水和物 |
抗悪性腫瘍剤(チロシンキナーゼインヒビター) |
ネクサバール |
ソラフェニブトシル酸塩 |
抗悪性腫瘍剤キナーゼ阻害剤 |
スプリセル |
ダサチニブ |
抗悪性腫瘍剤チロシンキナーゼインヒビター |
アイクルシグ |
ポナチニブ塩酸塩 |
抗悪性腫瘍剤チロシンキナーゼインヒビター |
コンプラビン配合錠 |
クロピドグレル硫酸塩/アスピリン |
抗血小板剤 |
プラビックス |
クロピドグレル硫酸塩 |
抗血小板剤 |
インヴェガ |
パリペリドン |
抗精神病剤 |
ロナセン |
ブロナンセリン |
抗精神病剤 |
リスパダール |
リスペリドン |
抗精神病剤 |
アダラート |
ニフェジピン |
高血圧・狭心症治療剤 (Ca拮抗剤) |
ミニプレス |
プラゾシン塩酸塩 |
高血圧・排尿障害治療剤 |
コニール |
ベニジピン塩酸塩 |
高血圧症・狭心症治療剤 (持続性Ca拮抗薬) |
アムロジン |
アムロジピンベシル酸塩 |
高血圧症・狭心症治療薬持続性Ca拮抗薬 |
ノルバスク |
アムロジピンベシル酸塩 |
高血圧症・狭心症治療薬持続性Ca拮抗薬 |
ザイロリック |
アロプリノール |
高尿酸血症治療剤 |
オステン |
イプリフラボン |
骨粗鬆症治療剤 |
バイミカード |
ニソルジピン |
持効性Ca拮抗剤 |
ヒポカ |
バルニジピン塩酸塩 |
持効性Ca拮抗剤 |
プレミネント配合錠 |
ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド |
持続性ARB/利尿薬合剤 |
ザクラス配合錠 |
アジルサルタン/アムロジピンベシル |
持続性AT1レセプターブロッカー/持続性Ca拮抗薬配合剤 |
カルスロット |
マニジピン塩酸塩 |
持続性Ca拮抗降圧剤 |
バイロテンシン |
ニトレンジピン |
持続性Ca拮抗剤 |
カデュエット配合錠 |
アムロジピンベシル酸塩・アトルバスタチンカルシウム水和物 |
持続性Ca拮抗薬HMG-CoA還元酵素阻害剤 |
ユニシア配合錠 |
カンデサルタン シレキセチル・アムロジピンベシル酸塩 |
持続性アンジオテンシンII受容体拮抗薬/持続性Ca拮抗薬配合剤 |
ロコルナール |
トラピジル |
循環機能改善剤 |
ナウゼリン |
ドンペリドン |
消化管運動改善剤 |
ガナトン |
イトプリド塩酸塩 |
消化管運動賦活剤 |
トリラホン |
ペルフェナジン |
神経安定剤 |
ドグマチール |
スルピリド |
精神・情動安定剤 |
デパス |
エチゾラム |
精神安定剤 |
コントミン |
クロルプロマジン塩酸塩 |
精神神経安定剤 |
インプロメン |
ブロムペリドール |
精神神経安定剤 |
ピーゼットシー |
ペルフェナジンフェンジゾ酸塩 |
精神神経安定剤 |
クレミン |
モサプラミン塩酸塩 |
精神神経安定剤 |
レボトミン |
レボメプロマジンマレイン酸塩 |
精神神経安定剤 |
ウインタミン |
クロルプロマジンフェノールフタリン酸塩 |
精神神経用剤 |
ノバミン |
プロクロルペラジンマレイン酸塩 |
精神神経用剤 |
ニューレプチル |
プロペリシアジン |
精神神経用剤 |
ヒルナミン |
レボメプロマジンマレイン酸塩 |
精神神経用剤 |
エックスフォージ |
バルサルタン/アムロジピンベシル酸塩 |
選択的AT1受容体ブロッカー/持続性Ca拮抗薬合剤 |
ユリーフ |
シロドシン |
選択的α1A遮断薬前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬 |
ジェイゾロフト |
塩酸セルトラリン |
選択的セロトニン再取り込み阻害剤 |
エストラサイト |
エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物 |
前立腺癌治療剤 |
イクスタンジ |
エンザルタミド |
前立腺癌治療剤 |
フリバス |
ナフトピジル |
前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤 |
ハルナール |
タムスロシン |
前立腺肥大症の排尿障害改善剤 |
ミカトリオ配合錠 |
テルミサルタン/アムロジピンベシル酸塩/ヒドロクロロチアジド |
胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー/持続性Ca拮抗薬/利尿薬合剤 |
ミカムロ配合錠 |
テルミサルタン/アムロジピンベシル酸塩配合 |
胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー/持続性Ca拮抗薬合剤 |
アイミクス配合錠 |
イルベサルタン/アムロジピンベシル酸塩 |
長時間作用型ARB/持続性Ca拮抗薬配合剤 |
プラザキサ |
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩 |
直接トロンビン阻害剤 |
アンカロン |
アミオダロン塩酸塩 |
不整脈治療剤 |
サンディミュン |
シクロスポリン |
免疫抑制剤 |
ネオーラル |
シクロスポリン |
免疫抑制剤 |
リリカ |
プレガバリン |
疼痛治療剤 (神経障害性疼痛・線維筋痛症) |