リフキシマ錠は肝性脳症における高アンモニア血症の改善を効能効果とする薬剤です。
リフキシマ錠はリファキシミンを有効成分とするリファマイシン系抗菌薬です。
リファマイシン系抗菌薬は、細菌の RNA 合成を阻害することでグラム陽性菌、グラム陰性菌、好気性菌及び嫌気性菌に対する抗菌スペクトルを示します。
リファキシミンは他のリファマイシン系抗菌薬とは異なり、経口投与してもほとんど吸収されないのが特徴です。
肝性脳症の治療
肝性脳症は、肝硬変等の重篤な肝障害あるいは門脈体循環シャント形成に起因する重篤な疾患です。意識障害、再発性の精神神経症状等が誘発され、肝硬変患者の約 30~45%が肝性脳症を合併します。
肝性脳症発現後は予後不良で、初回発症後の1年生存率は50%前後とされています。
また、脳症を惹起する因子であるアンモニア、低級脂肪酸、メルカプタン等のうち、腸内アンモニアが脳症発症の中心的な役割を担っているとされています。
Dbouk N, McGuire BM.Hepatic encephalopathy: a review of its pathophysiology and treatment.Curr Treat Options Gastroenterol 2006; 9:464-74
PMID: 17081480
肝性脳症に対する薬物療法として、国内診療ガイドラインでは、合成二糖類、分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤、腸管非吸収性抗菌薬、亜鉛製剤、カルニチンについて記載されています。
通常、BCAA輸液製剤、合成二糖類を主とした治療が行われます。これらの治療で改善しない場合には、腸管非吸収性抗菌薬の投与が考慮されることになっていますが、肝性脳症の症状改善の効能を有する抗菌薬は日本では承認されていなかったため海外のリファキシミン製剤を個人輸入して使用している施設もあるほどでした。
成分名 | 概要 | |
---|---|---|
合成二糖類 | ラクツロース (モニラック他)、 ラクチトール (ポルトラック原末) | 合成二糖類は、肝性脳症患者の脳症パラメーターを改善し、肝性脳症に有効であることから、投与することを推奨する |
BCAA製剤 (輸液、経口) | ロイシン、 イソロイシン、 バリン | [輸液]昏睡を含む肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖 アミ酸(BCAA)製剤の投与は有効であり、投与することを推奨する。 [経口]分岐鎖アミノ酸 (BCAA)製剤の長期経口投与は、肝性脳症、栄養状態を 改善させるので投与することを推奨する。 |
腸管非吸収性抗菌薬 | リファキシミン等 | 腸管非吸収性抗菌薬 投与は、初発・再発を問わず肝性脳症患者 の脳症パラメータを 改善するため、行うことを提案する。 |
亜鉛製剤 | 硫酸亜鉛 | 亜鉛欠乏を合併する肝性脳症には、 亜鉛製剤の補充を考慮してもよいと考える。 |
カルニチン | レボカルニチン | カルニチン欠乏を伴う肝性脳症に対 しては、カルニチンの投与を行うことを考慮する。 |
肝硬変診療ガイドライン 2015 改訂第 2版, 南江堂 2015, 136-51
http://www.nankodo.co.jp/g/g9784524267811/
また、日本で承認されていた既存治療ではアンモニアの産生・吸収抑制、排泄促進等により、血中アンモニア濃度を低下させることが試みられており、最初に合成二糖類が用いられます。しかし、下痢等の副作用や味の問題、携行性や服薬の手間等により長期アドヒアランスが困難な場合がありました。
Bajaj JS,et al.,Predictors of the recurrence of hepatic encephalopathy in lactulose-treated patients.liment Pharmacol Ther 2010; 31: 1012-7
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2036.2010.04257.x/abstract
PMID: 20136802
そのため、一般財団法人 日本消化器病学会及び日本小児栄養消化器肝臓学会より、2012年1月に厚生労働省へリファキシミンの早期承認を希望する要望書が提出されました。
これに従い、肝性脳症患者を対象とした本剤の国内臨床試験成績が行われリフキシマ錠の製造販売承認申請が行われました。
海外では、リファキシミン製剤は、1985 年にイタリアで承認されて以来、肝性脳症や高アンモニア血症に係る効能・効果として50カ国以上で承認されています。
海外診療ガイドラインにおいては、リファキシミンは肝性脳症の再発予防の目的でラクツロースとの併用が推奨されています。
成分名 | 概要 | |
---|---|---|
合成二糖類 | ラクツロース | ラクツロースは顕性 肝性脳症の治療の第一選択である。ラクツロースは肝性脳症の初回発症後の再発予防に推奨される。 |
腸管非吸収性抗菌薬 | リファキシミン | 腸管非吸収性抗菌薬投与は、ラクツロース との併用で顕性肝性 脳症の再発予防に有効である。 ラクツロース の併用で発症 2 回目以降の肝性脳症の再発予防に推奨される。 |
BCAA製剤(経口) | ロイシン、 イソロイシン、 バリン | BCAA 製剤(経口)は 通常治療で効果がな い症例に対し、代替又 は追加で使用する。 |
LOLA (静注) | L-オルニチン、 L-アスパラギン酸 | LOLA(静注)は通常治療 で効果 がない 症例に 対 し、代替又は追加で使用 する。 |
抗菌薬 | ネオマイシン、メトロニダゾール | 顕性肝性脳症の代替選択である。 |
海外診療ガイドライン
Hepatic encephalopathy in chronic liver disease: 2014 Practice Guideline by the American Association for the Study of Liver Diseases and the European Association for the Study of the Liver.Hepatology 2014: 60; 715-35
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.27210/abstract;jsessionid=15493E6B14E5A990141BF501FAA5E5FC.f04t02
PMID: 25042402
リフキシマ錠の作用機序
リファキシミンは、他のリファマイシン系抗菌薬と同様に、細菌の DNA 依存性 RNA ポリメラーゼに結合し、RNA 合成を阻害することで抗菌活性を示します。
肝性脳症における高アンモニア血症の原因菌については特定されていませんが、主にアンモニア産生菌が関与していると考えられており、腸内細菌群ではClostridium属菌、Bacillus属菌、Streptococcus属菌、Bacteroides 属菌、E. coli、P. mirabilis等がアンモニア産生菌として報告されています。
Vince AJ, Burridge SM.Ammonia production by intestinal bacteria: the effects of lactose, lactulose and glucose.J Med. Microbiol 1980; 13: 177-91
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7381915
PMID:7381915
in vitro 試験において、リファキシミンはこれらのアンモニア産生菌に対して一定の抗菌活性を示します。
また、動物実験において、リファキシミン投与により腸間膜静脈血中アンモニア濃度を低下させ、肝性脳症モデルラットの昏睡発症を抑制しました。
以上より作用機序は、アンモニア産生菌に対するリファキシミンの抗菌活性が寄与していると考えられています。
リフキシマ錠の交差耐性
リファキシミン曝露により複数の菌種でリファキシミンに対する耐性化がin vitro において、確認されています。
そのため腸内細菌叢における耐性菌の発現リスクは否定できません。
一方で、リフキシマ錠は腸管で吸収されない薬剤であり、消化管内に作用が限局することから、全身的に耐性菌が発現する可能性は低いと考えることもできます。
結核菌については、結核の標準療法としてリファマイシン系抗菌薬のリファンピシンが使用されるため交差耐性の出現が懸念されますが、結核菌感染モルモットを用いた試験において、リファキシミン投与後の結核菌に対するリファキシミン及びリファンピシンのMICは接種前の値から変化は認められませんでした。
また、欧州結核サーベイランスネットワーク及び欧州抗菌剤耐性サーベイランスネットワーク(EARS-Net)における報告によると2001年~2010年にリファキシミン製剤が承認された国において、2000年~2011年の間でリファンピシン耐性及び多剤耐性の発現割合に増加傾向は認められませんでした。
ことから、リフキシマ錠の臨床使用によるリファンピシンとの交差耐性のリスクは低いと考えられます。
しかし、リファキシミンとリファンピシンの耐性機序がrpoB遺伝子変異に起因している点が共通していることや限定的な情報が多いため、耐性発現が臨床効果に及ぼす影響、並びにリファマイシン系抗菌薬とリファキシミンの交差耐性について注意が必要です。
他のリファマイシン系抗菌薬に対する結核菌の耐性化を防ぐため、肺結核及びその他の結核症を合併している肝性脳症患者における高アンモニア血症に対しては他の治療法を選択するよう添付文書にて注意喚起されています。
ECDC Tuberculosis surveillance in Europe
http://ecdc.europa.eu/en/healthtopics/Tuberculosis/epidemiological_data/Pages/tuberculosis_surveillance_Europe.aspx
リフキシマ錠200mg
効能又は効果
肝性脳症における高アンモニア血症の改善
用法及び用量
通常,成人にはリファキシミンとして1回400mgを1日3回食後に経口投与する.