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2016年10月31日月曜日

肝性脳症における高アンモニア血症の改善 リフキシマ錠(リファキシミン)




リフキシマ錠は肝性脳症における高アンモニア血症の改善を効能効果とする薬剤です。

リフキシマ錠はリファキシミンを有効成分とするリファマイシン系抗菌薬です。
リファマイシン系抗菌薬は、細菌の RNA 合成を阻害することでグラム陽性菌、グラム陰性菌、好気性菌及び嫌気性菌に対する抗菌スペクトルを示します。
リファキシミンは他のリファマイシン系抗菌薬とは異なり、経口投与してもほとんど吸収されないのが特徴です。


肝性脳症の治療

肝性脳症は、肝硬変等の重篤な肝障害あるいは門脈体循環シャント形成に起因する重篤な疾患です。
意識障害、再発性の精神神経症状等が誘発され、肝硬変患者の約 30~45%が肝性脳症を合併します。

肝性脳症発現後は予後不良で、初回発症後の1年生存率は50%前後とされています。
また、脳症を惹起する因子であるアンモニア、低級脂肪酸、メルカプタン等のうち、腸内アンモニアが脳症発症の中心的な役割を担っているとされています。

Dbouk N, McGuire BM.Hepatic encephalopathy: a review of its pathophysiology and treatment.Curr Treat Options Gastroenterol 2006; 9:464-74
PMID: 17081480

肝性脳症に対する薬物療法として、国内診療ガイドラインでは、合成二糖類、分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤、腸管非吸収性抗菌薬、亜鉛製剤、カルニチンについて記載されています。

通常、BCAA輸液製剤、合成二糖類を主とした治療が行われます。これらの治療で改善しない場合には、腸管非吸収性抗菌薬の投与が考慮されることになっていますが、肝性脳症の症状改善の効能を有する抗菌薬は日本では承認されていなかったため海外のリファキシミン製剤を個人輸入して使用している施設もあるほどでした。




成分名 概要
合成二糖類 ラクツロース
(モニラック他)、
ラクチトール
(ポルトラック原末)
合成二糖類は、肝性脳症患者の脳症パラメーターを改善し、肝性脳症に有効であることから、投与することを推奨する
BCAA製剤
(輸液、経口)
ロイシン、
イソロイシン、
バリン

[輸液]昏睡を含む肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖 アミ酸(BCAA)製剤の投与は有効であり、投与することを推奨する。
[経口]分岐鎖アミノ酸 (BCAA)製剤の長期経口投与は、肝性脳症、栄養状態を 改善させるので投与することを推奨する。

腸管非吸収性抗菌薬 リファキシミン等
腸管非吸収性抗菌薬 投与は、初発・再発を問わず肝性脳症患者 の脳症パラメータを 改善するため、行うことを提案する。

亜鉛製剤 硫酸亜鉛
亜鉛欠乏を合併する肝性脳症には、 亜鉛製剤の補充を考慮してもよいと考える。

カルニチン レボカルニチン
カルニチン欠乏を伴う肝性脳症に対 しては、カルニチンの投与を行うことを考慮する。



肝硬変診療ガイドライン 2015 改訂第 2版, 南江堂 2015, 136-51
http://www.nankodo.co.jp/g/g9784524267811/


また、日本で承認されていた既存治療ではアンモニアの産生・吸収抑制、排泄促進等により、血中アンモニア濃度を低下させることが試みられており、最初に合成二糖類が用いられます。しかし、下痢等の副作用や味の問題、携行性や服薬の手間等により長期アドヒアランスが困難な場合がありました。

Bajaj JS,et al.,Predictors of the recurrence of hepatic encephalopathy in lactulose-treated patients.liment Pharmacol Ther 2010; 31: 1012-7
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2036.2010.04257.x/abstract
PMID: 20136802

そのため、一般財団法人 日本消化器病学会及び日本小児栄養消化器肝臓学会より、2012年1月に厚生労働省へリファキシミンの早期承認を希望する要望書が提出されました。
これに従い、肝性脳症患者を対象とした本剤の国内臨床試験成績が行われリフキシマ錠の製造販売承認申請が行われました。


海外では、リファキシミン製剤は、1985 年にイタリアで承認されて以来、肝性脳症や高アンモニア血症に係る効能・効果として50カ国以上で承認されています。

海外診療ガイドラインにおいては、リファキシミンは肝性脳症の再発予防の目的でラクツロースとの併用が推奨されています。





成分名 概要

合成二糖類
ラクツロース ラクツロースは顕性 肝性脳症の治療の第一選択である。ラクツロースは肝性脳症の初回発症後の再発予防に推奨される。

腸管非吸収性抗菌薬
リファキシミン 腸管非吸収性抗菌薬投与は、ラクツロース との併用で顕性肝性 脳症の再発予防に有効である。 ラクツロース の併用で発症 2 回目以降の肝性脳症の再発予防に推奨される。

BCAA製剤(経口)
ロイシン、
イソロイシン、
バリン
BCAA 製剤(経口)は 通常治療で効果がな い症例に対し、代替又 は追加で使用する。

LOLA

(静注)
L-オルニチン、
L-アスパラギン酸
LOLA(静注)は通常治療 で効果 がない 症例に 対 し、代替又は追加で使用 する。

抗菌薬
ネオマイシン、メトロニダゾール 顕性肝性脳症の代替選択である。

海外診療ガイドライン
Hepatic encephalopathy in chronic liver disease: 2014 Practice Guideline by the American Association for the Study of Liver Diseases and the European Association for the Study of the Liver.Hepatology 2014: 60; 715-35
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.27210/abstract;jsessionid=15493E6B14E5A990141BF501FAA5E5FC.f04t02
PMID: 25042402



リフキシマ錠の作用機序


リファキシミンは、他のリファマイシン系抗菌薬と同様に、細菌の DNA 依存性 RNA ポリメラーゼに結合し、RNA 合成を阻害することで抗菌活性を示します。
肝性脳症における高アンモニア血症の原因菌については特定されていませんが、主にアンモニア産生菌が関与していると考えられており、腸内細菌群ではClostridium属菌、Bacillus属菌、Streptococcus属菌、Bacteroides 属菌、E. coli、P. mirabilis等がアンモニア産生菌として報告されています。

Vince AJ, Burridge SM.Ammonia production by intestinal bacteria: the effects of lactose, lactulose and glucose.J Med. Microbiol 1980; 13: 177-91
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7381915
PMID:7381915

in vitro 試験において、リファキシミンはこれらのアンモニア産生菌に対して一定の抗菌活性を示します。
また、動物実験において、リファキシミン投与により腸間膜静脈血中アンモニア濃度を低下させ、肝性脳症モデルラットの昏睡発症を抑制しました。
以上より作用機序は、アンモニア産生菌に対するリファキシミンの抗菌活性が寄与していると考えられています。


リフキシマ錠の交差耐性


リファキシミン曝露により複数の菌種でリファキシミンに対する耐性化がin vitro において、確認されています。
そのため腸内細菌叢における耐性菌の発現リスクは否定できません。

一方で、リフキシマ錠は腸管で吸収されない薬剤であり、消化管内に作用が限局することから、全身的に耐性菌が発現する可能性は低いと考えることもできます。

結核菌については、結核の標準療法としてリファマイシン系抗菌薬のリファンピシンが使用されるため交差耐性の出現が懸念されますが、結核菌感染モルモットを用いた試験において、リファキシミン投与後の結核菌に対するリファキシミン及びリファンピシンのMICは接種前の値から変化は認められませんでした。
また、欧州結核サーベイランスネットワーク及び欧州抗菌剤耐性サーベイランスネットワーク(EARS-Net)における報告によると2001年~2010年にリファキシミン製剤が承認された国において、2000年~2011年の間でリファンピシン耐性及び多剤耐性の発現割合に増加傾向は認められませんでした。
ことから、リフキシマ錠の臨床使用によるリファンピシンとの交差耐性のリスクは低いと考えられます。

しかし、リファキシミンとリファンピシンの耐性機序がrpoB遺伝子変異に起因している点が共通していることや限定的な情報が多いため、耐性発現が臨床効果に及ぼす影響、並びにリファマイシン系抗菌薬とリファキシミンの交差耐性について注意が必要です。

他のリファマイシン系抗菌薬に対する結核菌の耐性化を防ぐため、肺結核及びその他の結核症を合併している肝性脳症患者における高アンモニア血症に対しては他の治療法を選択するよう添付文書にて注意喚起されています。

ECDC Tuberculosis surveillance in Europe
http://ecdc.europa.eu/en/healthtopics/Tuberculosis/epidemiological_data/Pages/tuberculosis_surveillance_Europe.aspx



リフキシマ錠200mg

効能又は効果

肝性脳症における高アンモニア血症の改善

用法及び用量

通常,成人にはリファキシミンとして1回400mgを1日3回食後に経口投与する.


2016年10月30日日曜日

バクタ配合顆粒の少量長期投与の理由




大学病院の小児科から以下の処方がありました。

患者さんは1歳5ヶ月の男児 体重10kg

バクタ配合顆粒 1回 0.1g
就寝前      7日分

バクタ配合顆粒はST合剤と呼ばれる抗生物質です。腎臓や肺への移行が良好で、慢性的な吸器疾患や膀胱炎に対して、少量を長期に用いることがあります。


この処方は、膀胱尿管逆流症(VUR)の処方です。

膀胱尿管逆流症は膀胱尿管接合部の逆流防止機構の破綻によって蓄尿時あるいは排尿時に膀胱に溜まった尿が尿管、腎盂、さらには腎実質に逆流する現象です。

原発性と続発性に分類されます。
原発性は膀胱尿管接合部の先天的な形成不全あるいは排尿機能発達異常によって発生します。
続発性は神経因性膀胱、下部尿路閉塞、炎症によって発生します。

複雑性尿路感染症の原因疾患で有熱性尿路感染を起こす小児の30−50%にVURが合併しています。


膀胱尿管逆流症の治療


尿路感染の予防により腎瘢痕化による逆流腎症を予防して腎機能の保護を最優先とします。
治療は逆流の程度、年齢、性別、瘢痕の程度、尿路感染の頻度と程度などを考慮して選択します。
原発性VURは自然消失する可能性があり一般に年齢が低いほど、また、gradeが低いほど消失率が高い傾向にあります。
思春期になっても存続する場合やgradeⅤではほとんど自然消失しないといわれています。

治療法には保存的治療法と外科的治療法があります。

保存的治療法

【持続的少量抗菌薬予防投与】
尿路感染の防止を目的として行います。

腎臓への移行生が良いバクタ配合顆粒が良く使用されます。
1歳未満の小児の場合は、ST合剤が新生児及び乳児への安全性が確立されていないため、ケフラール(セファクロル)が使用されます。

かなり少ない量を1日1回就寝前投与するという特徴的な処方なので、1度経験したら忘れない処方です。

処方例 下記のいずれかを用います。


  1. バクタ配合顆粒 1回4−8mg/kg(製剤量として) 1日1回 就寝前
  2. ケフラール細粒(小児用) 1回5−10mg/kg(成分量として) 1日1回 就寝前

JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015
http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jaidjsc-kansenshochiryo_nyouro.pdf

VURに対する予防的持続少量抗菌薬投与のエビデンスには2014年のRIVUR studyがあります。
1~2回の尿路感染エピソードをもつgradeⅠ−ⅣのVUR児に対するST合剤での持続的少量抗菌薬予防投与が尿路感染再発に有効であることが認められました。
しかし、腎瘢痕に対する効果は認められませんでした。

RIVUR Trial Investigators,et al:Antimicrobial prophylaxis for children with vesicoureteral reflux.N Engl J Med 370:2367−2376,2014
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1401811
PMID:24795142


【排泄管理】(定時排尿,便通のコントロール,抗コリン薬の服用など) 
排尿習慣が自立している小児には2~3時間を目安とした定時排尿を勧めます。
切迫性尿失禁や小児過活動膀胱に対して抗コリン薬を使用することもあるようですが、児に対する安全性は確立されていません。

外科的治療法


外科的治療法の絶対的適応は保存的治療でコントロールできない尿路感染の再発を認める場合です。相対的適応は自然治癒傾向を認めない無症候性VURで、一般的にgrade Ⅲ以上が対象となります。

【観血的逆流防止術】
従来の標準的治療法で成功率も95%以上と高いといわれています。
近年、腹腔鏡による鏡視下手術も行われていて、大きな傷が残りにくい手術が可能になっています。

【内視鏡的注入療法】
膀胱鏡下に尿管口から膀胱壁内尿管粘膜下にヒアルロン酸・デキストラノマービーズ(Deflux)を注入します。長期成績のエビデンスは十分ではありませんが低侵襲なので追加注入も可能というメリットがあります。


小児の予防的持続少量抗菌薬投与のポイント


少量のためコンプライアンスを高める説明が、予防投与成功の鍵となります。
バクタ配合顆粒は、苦いためグズりやすい寝る前に飲ませるのは一苦労です。
はちみつ、ココアパウダー、練乳、チョコレートクリーム、バニラアイスと一緒に服用させると苦味が感じにくくなります。

ブドウゼリー、ヨーグルト、リンゴジュース、乳酸菌飲料などは苦味がますのでおすすめできません。




2016年10月29日土曜日

肺動脈性肺高血圧症治療薬ウプトラビ錠(セレキシパグ)




肺動脈性肺高血圧症を含む肺高血圧は予後不良の希少疾患です。なんらかの原因で持続的に肺動脈圧が上昇し、日常的に息切れや疲労を来すだけでなく、心臓の過負荷により致死的な心不全をしばしば引き起こします。患者は21~40歳の女性が最も多いといわれています。


既存の肺動脈性肺高血圧症治療薬の問題点

これまでの点滴薬や静注薬は煩雑な治療を必要とし,疾患が進行するまで治療を受けない患者も多くいました。

日本では肺動脈性肺高血圧の治療に用いる PGI2製剤として、
エポプロステノールナトリウム(持続静脈内投与)、
トレプロスト(トレプロスチニルの持続静脈内投与及び持続皮下投与)、
ベンテイビス(イロプロスト吸入投与)及び
ドルナー、プロサイリン(ベラプロストナトリウムの経口投与)
が承認されています。

エポプロステノールナトリウムとトレプロスチニルの使用にあたっては専用の医療機器を患者が装着する必要があります。
また、イロプロストは、半減期が短く、1 日に 6~9 回の吸入が必要です。
なお、経口投与可能な PGI2 製剤としてベラプロストナトリウムが日本で承認されていますが、欧米では承認されていません。
そのため、国内外の治療ガイドラインにおいてもエビデンスレベルや推奨度は高くありません。

以上のような問題点を解決するため、経口投与可能で血中持続時間の長いプロスタサイクリン受容体作動薬である本剤のウプトラビ錠の開発が行われました。


ウプトラビ錠の作用機序


ウプトラビ錠(セレキシパグ)は体内にて活性代謝物(MRE-269)になります、主にMRE-269がプロスタサイクリン受容体に作用します。
その結果、肺動脈平滑筋細胞内のcAMPを増加させ、肺動脈平滑筋細胞の弛緩及び増殖抑制を介して、肺血行動態を改善させます。

製品インタビューフォームより



ウプトラビ錠(セレキシパグ)の有効性と安全性

プラセボ群と比べ主要評価項目(全死亡+PAHに関連した合併症)発生率が40%有意に低下しました。

第Ⅲ相ランダム化二重盲検プラセボ対照事象観察GRIPHON試験では、

肺動脈性肺高血圧治療を現在受けていない患者、
エンドセリン受容体拮抗薬かホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬、または両薬併用を継続している患者1156例を

プラセボ群とセレキシパグ群にランダムに振り分けました。

セレキシパグ群は最大用量を1600μg1日2回とし,患者ごとに用量調節を行いました。

主要評価項目は,全死亡と肺動脈性肺高血圧に関連した合併症の複合評価としました。各患者がセレキシパグ、プラセボのいずれかを最後に服用してから7日後まで追跡を行いました。

主要評価項目のイベントは合計397例で発生ししました。
発生率はプラセボ群の41.6%に比べて、セレキシパグ群では27.0%と有意に低い結果となりました
〔ハザード比(HR)0.60,99%CI 0.46~0.78,P<0.001〕。

イベントの種類は、81.9%が疾患進行と入院でした。
治療を既に受けているか否かによる解析でもセレキシパグの有効性は全体解析と同等でした。

試験終了までにプラセボ群で105例,セレキシパグ群で100例が死亡しました。死亡率については両群間で有意差は認められませんでした。
セレキシパグ群で多く見られた有害事象は、頭痛、下痢、悪心、筋痛、顎痛などで、いずれも従来のプロスタサイクリン治療による副作用と一致していました。

Sitbon O,et al.,Selexipag for the Treatment of Pulmonary Arterial Hypertension.N Engl J Med. 2015 Dec 24;373(26):2522-33. doi: 10.1056/NEJMoa1503184
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1503184
PMID:26699168


用法及び用量


肺動脈性肺高血圧治療に用いられる PGI2 製剤では、
忍容性が認められた患者には患者毎の最大耐用量まで積極的に増量することで有効性が向上することが確認されています。

一方で、高用量から治療を開始すると、低血圧、頭痛、下痢、顎痛、筋肉痛、潮紅、悪心等、PGI2 に関連した有害事象が起こり、忍容性低下又は不良になることがあります。また、その感受性には大きな個人差があることから、低用量から開始し、忍容性を確認しながら患者毎の最大耐用量まで漸増する投与方法が PGI2 製剤で一般に行われています。

ウプトラビ錠でも同様に
1 回 0.2 mg を 1 日 2 回食後経口投与から開始する。忍容性を確認しながら、7 日以上の間隔で 1 回量として 0.2 mg ずつ最大耐用量まで増量して維持用量を決定します。
最高用量は 1 回 1.6 mgです。


まとめ

肺動脈性肺高血圧症は肺動脈の血圧が何らかの原因で異常に上昇し、右心不全による突然死を招く予後不良な疾患です。
治療薬には肺動脈の血管拡張を促す経路であるプロスタサイクリンや一酸化窒素、エンドセリンに働きかける3種類の薬剤があります。
最近は3種類を治療初期から併用することが多くあります。

既存治療の課題はプロスタサイクリンです。
代謝されやすい性質のため内服薬や吸入剤では長時間効く効果的な薬がありませんでした。
静注製剤はそのなかでも最も効果的な治療法ですが、携帯型輸液ポンプを装着して持続的に投与する必要があるため患者の身体的な負担やQOLの観点から、そこまでしてやりたくないという患者もいました。

ウプトラビ錠は、世界で初めて経口投与が可能となった選択的プロスタサイクリン受容体作動薬。
経口剤なので患者負担が少なく、半減期が約8時間で既存薬よりも長い薬効が期待できます。
これまで静注製剤を使っていた患者でも同剤への切り替えが可能なケースもあり、発売を待っている患者がたくさんいると思われます。




2016年10月19日水曜日

「バファリンの16錠入りありますか?」薬局では特納品は取り扱えません





薬局に訪れたお客さんから
「バファリンAの16錠入りありますか?」

??

バファリンAの16錠入りあったかなぁ。
と調べてみましたが。

10錠、20錠、40錠、60錠、80錠入りのラインナップでした。

バファリン製品サイト
http://www.bufferin.net/a/product.htm


16錠入りというのは、発売していないと伝えると

「そんなことはない。通販にあるから」
とスマホを見せられました。


そこには
『バファリンA(16錠)配置用』の文字がありました。


『配置用』 ここでピンときました。
16錠入りは『特納品』なのだろうと。


薬局やドラッグストアでは特納品は取り扱えません


特納品とは、健康保険組合、共済組合、各種団体等で、疾病予防対策の一環として、各組合員等に特別に限定販売されている医薬品等で、通常市販はされません。
製薬メーカー各社は薬局やドラッグストア用の通常品と特納品で商品名を若干変更したり、容量を変えたりすることで、通常品との差別化を図っています。

市中の薬局では仕入れることが不可能な商品です。

バファリンA16錠以外にも以下の商品などが特納品です。


  • マキロンS40mL
  • 新オイラックスHクリーム10g
  • ムヒS 6g
  • パブロンS錠45錠入り
  • ルルアタックIB30錠
  • プレコールかぜ薬錠60錠
  • ベンザエースA錠50錠
  • 新プレコールS顆粒24包
  • パブロンゴールドA微粒14包
  • コンタック総合感冒EX18カプセル
  • 新ルルエース50錠
  • カコナール葛根湯顆粒F10包
  • プレコール咳止め錠40錠
  • プレコールのどスプレー26mL  
  • 明治Gトローチ18個
  • プレコール鼻炎カプセルA12カプセル
  • ナロンエース8錠
  • ノーシンホワイト錠12錠
  • 新ロート目薬15mL 
  • アイリス14mL 
  • サロンパスAe20枚入
  • パテックスうすぴたシップ12枚
  • のびのびサロンシップS3枚入
  • アンメルツヨコヨコ48mL

2016年10月12日水曜日

抗アレルギー薬 デザレックス錠5mg(デスロラタジン)




デザレックス錠 5 mgの有効成分であるデスロラタジンは、ヒスタミン H1受容体拮抗薬です。

2001年ヨーロッパで発売されてから、世界中で発売使用されている薬です。
海外では一般用医薬品としても販売されています。

日本では、アレルギーの薬といえば「アレグラ」ですが海外では「デスロラタジン」というくらいメジャーな薬剤です。


デザレックス(デスロラタジン)はクラリチン(ロラタジン)の主要活性代謝物です。
ロラタジンのピペリジン基から、エトキシカルボニル基を除いた構造をしています。






デザレックスとクラリチンのちがい


クラリチンとの違いとしては、最高血中濃度到達時間(Tmax)がやや延長し、血中濃度半減期(t1/2)が大幅に長くなっていることです。

また、H1受容体親和性は、非常に高いことで知られるレボセチリジンと同等に高いといわれています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3500039/

CYP関与せず効果が安定


デザレックスは、クラリチンのようなプロドラッグではないので、他の薬剤との相互作用や患者の肝機能の影響を受けにくいと考えられます。

クラリチンは、薬物代謝酵素CYPで代謝され、活性代謝物が薬効を示します。
このため、薬物相互作用や肝障害によって、クラリチンの薬効が減弱することがありました。
それがないデザレックスは併用薬が多い患者や高齢者などでは、処方しやすいと考えられます。

表.デザレックスと他の薬剤を併用したときの薬物動態学的相互作用
承認申請資料より

食事の影響は受けません


健康成人を対象とした非盲検2剤クロスオーバー試験(海外試験)において、デザレックス 5 mg を単回経口投与したときの食事(高脂肪食)の影響が検討されています。
その結果は以下の薬物動態パラメータのとおりでした。食事の影響は認められませんでした。

クラリチンは日本の添付文書で食後投与となっています。これが服用する際のネックになることもあります。

特に蕁麻疹などの痒みに使用する場合、痒みが出るタイミングは人それぞれなので、食事摂取に関係なく投与できるデザレックスは使いやすいといえます。




デザレックスの効果


効果については、他の抗ヒスタミン薬と比べて臨床的に大きな差はありません。

例えば、季節性アレルギー性鼻炎患者722人を対象に、フェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ)と二重盲検法で比較した試験が行われています。

効果は同等だったと報告がされています。

Berger WE,et,al,.Efficacy of desloratadine, 5 mg, compared with fexofenadine, 180 mg, in patients with symptomatic seasonal allergic rhinitis.Allergy Asthma Proc.2006;27:214-23.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16913264



クラリチンでの治療に不満を感じた患者で、デザレックスまたはフェキソフェナジンにスイッチした場合、デザレックスに切り替えた患者の方が夜間覚醒が少なく、重症患者でその傾向が顕著だったとする報告もあります。

Glass DJ, Harper AS.Assessing satisfaction with desloratadine and fexofenadine in allergy patients who report dissatisfaction with loratadine.BMC Fam Pract.2003;4:10.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12917016



デザレックスは脳への移行性が低く、ヒスタミン H1受容体を介した鎮静作用が弱いことが臨床試験で示されています。

さらに外国人健康成人を対象とした路上での自動車運転能力、精神運動機能又は模擬客室与圧下での操縦能力に対する影響を評価した薬力学的試験において、デザレックス5 mg単回投与後に日中の眠気増加やインペアード・パフォーマンスを示唆する結果は認められませんでした。

そのため、クラリチンと同様に添付文書には「自動車運転等の禁止等」の記載がありません。



安全性


デザレックスがQT延長を引き起こしたという報告はありませんが、親化合物であるクラリチンは、アミオダロンとの併用でQT延長やトルサード ド ポアントを引き起こしたことが報告されています。

デザレックスの代謝に関与する酵素はまだ明らかになっておらず、併用薬との相互作用によるQT延長も否定はできません。




デザレックス錠5mg

[効能又は効果]
アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)に伴うそう痒

[用法及び用量]
通常、12 歳以上の小児及び成人にはデスロラタジンとして 1 回 5 mg を 1 日 1 回経口投与する。


2016年10月11日火曜日

向精神薬の投薬期間の上限について



※2016年10月13日更新しました。(赤字部分)

向精神薬の投与上限について

基本は、14日分です。

例外的に30日分、または90日分が認められることになります。


デパス(エチゾラム)やアモバン(ゾピクロン)は向精神薬に指定されただけでは、その投与上限は14日分です。

近々、「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」が改定され30日分の処方が可能になるようですが、その時期等は不明です。

一部報道では11月1日を予定されているようです。

10月14日から10月31日までの取扱は不明です。

その、取扱について2016年10月13日「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等の一部を改正する件」として官報に告示されました。
http://kanpou.npb.go.jp/20161013/20161013h06877/pdf/20161013h068770003.pdf


あわせて、厚生労働省保険局医療課長通知が発出されました。
保医発1013第1号
平成28年10月13日


1 改正の概要について
(1) エチゾラム及びゾピクロンは、麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令(平成28年政令第306号)により、平成28年10月14日から麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第2条第6号に規定する向精神薬に指定されたが、掲示事項等告示を改正し、平成28年10月14日以降、掲示事項等告示第10第2号(1)ロに規定する向精神薬からは除外することとし、向精神薬に係る投薬期間の上限(投薬量又は投与量が14日分を限度とされる。)の例外として定めたものであること。

(2) エチゾラム及びゾピクロンについて、平成28年11月1日より、掲示事項等告示第10第2号(2)イに規定する投薬量が30日分を限度とされる内服薬として定めたものであること。


2 その他
エチゾラム及びゾピクロンの投薬量の制限(30日分を限度とする。)については、平成28年11月1日より適用されるものであるが、同年10月14日から同月31日までの間であっても、その投薬については、「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」(平成18年3月13日付け保医発0313003)の記の第10の4の(4)の規定を踏まえ、適切に行うこと。

例えば、10月31日処方のデパス90日分を11月に取りに来た場合どうなるのでしょうか?

薬剤師会が通知を出しています。

療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等の一部改正について(日薬業発第253号2016.10.13.)
【一部抜粋】
エチゾラム及びゾピクロンの保険診療(調剤)の取り扱いについて投薬量が30日分を限度とされる内服薬として定められることになりました。
今回の一部改正は平成28年11月1日より適用されますが、これに伴う保険薬局における処方せんの取り扱いは以下のとおりです。
① 平成28 年10 月31 日までに交付された処方せんについては、同11 月1日以降に受け付けた場合であっても、投薬量の制限(1 回の投薬量が30日分内)は適用されない。
② ただし、向精神薬加算(調剤料)については、同10 月14 日調剤分より算定できる。



投与制限について

厚労省に問い合わせた有志がいらっしゃいます。
勝手に掲載スミマセン






関連:
デパスとアモバンが向精神薬に指定されるようです(2016年10月14日から)
https://yakuza-14.blogspot.jp/2016/08/201610.html

●投薬期間に上限が設けられている医薬品 関連規則等(2016年10月14日改訂)

投薬期間の上限について

【「保険医療機関及び保険医療養担当規則」より該当箇所一部抜粋】
(診療の具体的方針)
第 20 条 2 投薬
ヘ 投薬量は、予見することができる必要期間に従ったものでなければならないこととし、厚生労働大臣が定める 内服薬及び外用薬については当該厚生労働大臣が定める内服薬及び外用薬ごとに1回14 日分、30日分又は 90日分を限度とする。

ト 注射薬は、患者に療養上必要な事項について適切な注意及び指導を行い、厚生労働大臣の定める注射薬に限り 投与することができることとし、その投与量は、症状の経過に応じたものでなければならず、厚生労働大臣が定 めるものについては当該厚生労働大臣が定めるものごとに 1 回 14 日分、30 日分又は 90 日分を限度とする。

●投薬期間に上限が設けられている医薬品(内服薬・外用薬・注射薬)について

【「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」より該当箇所一部抜粋】
第 10 厚生労働大臣が定める注射薬等
2 投薬期間に上限が設けられている医薬品
(1) 療担規則第 20 条第 2 号ヘ及びト並びに第 21 条第 2 号ヘ並びに療担基準第 20 条第 3 号ヘ及びト並びに第 21 条 第 3 号ヘの厚生労働大臣が定める投薬量又は投与量が 14 日分を限度とされる内服薬及び外用薬並びに注射薬
イ 麻薬及び向精神薬取締法(昭和 28 年法律第 14 号)第 2 条第 1 号に規定する麻薬((2)に掲げるものを除く。) 
ロ 麻薬及び向精神薬取締法第 2 条第 6 号に規定する向精神薬((2)及び(3)に掲げるもの並びエチゾラムおよびゾピクロンを除く。) エチゾラム、ゾピクロンは10月14日追記。その後11月1日削除。
ハ 新医薬品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)第 14 条の 4 第 1 項第 1 号に規定する新医薬品をいう。)であって、使用薬剤の薬価(薬価基準)への収載の日の属する月の翌月の初日から起算して 1 年(厚生労働大臣が指定するものにあっては、厚生労働大臣が指定する期間)を経過していないもの(次に掲げるものを除く。)

(2) 療担規則第 20 条第 2 号ヘ及びト並びに第 21 条第 2 号ヘ並びに療担基準第 20 条第 3 号ヘ及びト並びに第 21 条 第 3 号ヘの厚生労働大臣が定める投薬量又は投与量が 30 日分を限度とされる内服薬及び外用薬並びに注射薬
イ 内服薬
アルプラゾラム、エスタゾラム、エチゾラムオキシコドン塩酸塩、オキシコドン塩酸塩水和物、オキサゾラム、クアゼパム、クロキサゾラム、クロチアゼパム、クロルジアゼポキシド、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩、ゾピクロンゾルピデム酒石酸塩、トリアゾラム、ニメタゼパム、ハロキサゾラム、プラゼパム、フルジアゼパム、フルニトラゼパム、フルラゼパム塩酸塩、ブロチゾラム、ブロマゼパム、ペモリン、メダゼパム、メチルフェニデート塩酸塩、モダフィニル、モルヒネ塩酸塩、モルヒネ硫酸塩、ロフラゼプ酸エチル、ロラゼパム又はロルメタゼパムを含有する内服薬並びにクロルプロマジン・プロメタジン配合剤、メペンゾラート臭化物・フェノバルビタール配合剤及びプロキシフィリン・エフェドリン配合剤
エチゾラム、ゾピクロンは11月1日追記。 
ロ 外用薬
フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩又はモルヒネ塩酸塩を含有する外用薬
ハ 注射薬
フェンタニルクエン酸塩、ブプレノルフィン塩酸塩又はモルヒネ塩酸塩を含有する注射薬

(3) 療担規則第 20 条第 2 号ヘ及びト並びに第 21 条第 2 号ヘ並びに療担基準第 20 条第 3 号ヘ及びト並びに第21 条第 3 号ヘの厚生労働大臣が定める投薬量が 90 日分を限度とされる内服薬
ジアゼパム、ニトラゼパム、フェノバルビタール、クロナゼパム又はクロバザムを含有する内服薬及びフェニトイン・フェノバルビタール配合剤 

●投薬期間に上限が設けられている医薬品を処方する際の留意事項について

【「「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣 が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について」より該当箇所一部抜粋】
第 10 厚生労働大臣が定める注射薬等(掲示事項等告示第 10 関係)
1~3 略
4 投薬期間に上限が設けられている医薬品
(1) 投薬量又は投与量が 14 日分を限度とされる内服薬及び外用薬並びに注射薬として、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28 年法律第 14 号)第 2 条第 1 号に規定する麻薬等を定めたものである。
(2) 投薬量又は投与量が 30 日分を限度とされる内服薬及び外用薬並びに注射薬として、アルプラゾラム等を定めたものである。
(3) 投薬量が 90 日分を限度とされる内服薬として、ジアゼパム等を定めたものである。
(4) 投与期間に上限が設けられている麻薬又は向精神薬の処方は、薬物依存症候群の有無等、患者の病状や疾患の兆候に十分注意した上で、病状が安定し、その変化が予見できる患者に限って行うものとする。
そのほか、当該医薬品の処方に当たっては、当該患者に既に処方した医薬品の残量及び他の医療機関における同一医薬品の重複処方の有無について患者に確認し、診療録に記載するものとする。

2016年10月4日火曜日

エピサネートG配合顆粒 販売中止と代替品





エピサネートG配合顆粒が販売中止となるようです。


胃・十二指腸潰瘍、胃炎治療剤『エピサネート G 配合顆粒』販売中止のご案内(武田テバファーマ)
https://www.med.takeda-teva.com/di-net/kaitei/EPITHANATE_G_hanbaichushi20161003.pdf

2017年8月末をもって販売を終了。経過措置終了期日は2018年3月末を予定しているようです。


販売中止の理由は、有効成分ピペタナート塩酸塩の調達が困難になり供給が難しくなったためだそうです。

ピペタナート塩酸塩を成分とする薬剤には『イリコロンM錠』という、過敏性腸症候群治療薬がありましたが、こちらも同様の理由で製造を中止しました(2016年3月末薬価削除)。


エピサネートG配合顆粒は、胃の粘膜を保護する「L-グルタミン」、胃酸を中和する制酸薬の「水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物」、胃の痛みをとる抗コリン薬の「ピペタナート」の3成分を配合した胃・十二指腸潰瘍、胃炎治療剤です。
1969年1月発売し、50年近く日本人の胃を治してきました。


アスピリン誘発性の胃粘膜障害を強く抑制することが知られており、H2ブロッカーとの併用で使われていた印象です。

近年はPPIがNSAIDs潰瘍予防として使用されるようになると、その処方が減ってきた感はありました。



エピサネートG配合顆粒の代替品


エピサネートG配合顆粒と同様に、胃粘膜保護剤と制酸剤と抗コリン剤を配合した医療用医薬品はありません。

他にエピサネートG配合顆粒の同効薬として、プログルミド製剤、ピペリドレート塩酸塩製剤があります。

プログルミド製剤

プロミド錠200mg(科研製薬)
【効能・効果】
急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(糜爛、出血、発赤、浮腫)の改善、胃潰瘍
【用法・用量】
通常成人には、プログルミドとして、1日量1.2~1.6g(6~8錠)を3~4回に分けて経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

ピペリドレート塩酸塩製剤

ダクチル錠50mg(キッセイ)
【効能・効果】
下記疾患における痙攣性疼痛
胃・十二指腸潰瘍,胃炎,腸炎,胆石症,胆のう炎,
胆道ジスキネジー
切迫流・早産における諸症状の改善
【用法・用量】
ピペリドレート塩酸塩として,通常成人1日150~200mgを3~4回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。



一般用医薬品では、『キャベジン細粒』が似たような成分の配合となっています。

<キャベジン細粒の成分>

  • メチルメチオニンスルホニウムクロリド(胃粘膜保護修復)
  • 水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物(制酸剤)
  • 酸化マグネシウム(制酸剤)
  • ロートエキス(抗コリン薬)

ほか





2016年10月3日月曜日

キノコの成分からできた抗がん剤 クレスチン細粒販売中止




抗悪性腫瘍剤のクレスチン細粒が販売中止となるようです。

クレスチン細粒販売中止のご案内(第一三共)
https://www.medicallibrary-dsc.info/announce/other/pdf-data/2016/1610stop_psk.pdf

2017年9月末日販売を中止。2018年3月末日経過措置期間満了の予定のようです。


クレスチン細粒はキノコのサルノコシカケ科かわらたけCM-101株の菌糸体より抽出・精製したたん白多糖体を成分とする抗悪性腫瘍剤です。

呉羽化学が、1965年、“さるのこしかけ”の熱水抽出物を服用した胃癌患者が日常生活に復帰した実例に着目し、キノコ類の抗腫瘍作用に関して研究を開始しました。
そこで、様々な菌株で検討を重ねた結果、サルノコシカケ科かわらたけが抗腫瘍効果、継代安定性などから最適であること、さらにその培養菌糸体にも子実体と同様の抗腫瘍効果があることを発見し、製剤化に成功しました。


販売中止の理由


メーカー文書には「諸般の事情」との決まり文句が書かれています。

実際の理由は、原材料であるカワラタケの入手が困難になったことにあるようです。
無論、カワラタケ自体はamazonでも販売されているくらいです。しかし市場への供給はされていますが、医薬品として使用可能な品質のものが、今までの価格で調達が難しくなっているようです。


クレスチン細粒の代替品


クレスチンの抗悪性腫瘍剤としての大きな特徴は、担癌宿主の低下した免疫応答を改善・回復する免疫賦活作用だと言われています。
臨床上では、
他の化学療法剤との併用により、胃癌患者、結腸・直腸癌患者の術後補助療法、及び小細胞肺癌患者において有用性が確認されています。

胃癌患者、結腸・直腸癌患者の術後補助療法については、複数の探索的試験が行われエビデンスも揃ってきました。


胃癌術後補助化学療法

ACTS-GC試験によりS-1の有効性が示され,これがわが国における標準治療となった(推奨度1)

胃癌治療ガイドライン(日本胃癌学会編)
http://www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-e.html#H1_E

大腸癌術後補助化学療法

大腸がんの術後補助化学療法に使用される抗がん剤としては、古くから用いられているフルオロウラシル(商品名:5-FUなど)、5-FU系の飲み薬であるテガフール・ウラシル配合剤(商品名:UFT)、カペシタビン(商品名:ゼローダ)などと、2009年に補助化学療法で使用できるようになったオキサリプラチン(商品名:エルプラット)が挙げられます。

大腸癌治療ガイドライン2014年版(大腸癌研究会)
http://www.jsccr.jp/guideline/2014/particular.html#no5


小細胞肺癌

進展型小細胞肺癌では以下のレジメンが使用されます。
PI療法
シスプラチン+イリノテカン

PE療法
シスプラチン+エトポシド

CE療法
カルボプラチン+エトポシド

肺がん診療ガイドライン(日本肺癌学会)
https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3


免疫賦活剤

シイタケから抽出した『レンチナン』。
溶連菌という細菌の死菌製剤である『ピシバニール』
ベスタチンという、白血病に使えるキノコ製剤もあります。
これらは免疫賦活による延命効果を期待する「抗癌剤」として収載されています。





クレスチンの過去


このクレスチン「効かない薬」として避難された過去があります。

現在のがん治療の功罪~抗がん剤治療と免疫治療
http://umezawa.blog44.fc2.com/blog-entry-62.html

このクスリも、本当に効きません。
まったく効きません。
私はかつて相当数の患者さんに使ってきましたが、効きませんでした。
(中略)
腫瘍の縮小効果はまったく認められませんでしたが、増大抑制効果は確実に存在すると思われます。
副作用のない増大抑制効果は、その抑制されている期間だけは確実に延命できているものと考えられます。

クレスチン - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%B3

1977年の販売開始後、単独でかなり多く使われた時期があった。 しかし、現在では本剤単独では効果がないことが判明しており、他剤との併用で用いられる。

伝説の抗がん剤トップ製品クレスチン(Lymphocyte-bank Co.,Ltd)
http://ank-therapy.net/archives/590391.html

世界中で承認しているのは、日本だけである、というのも非難の理由の一つでした。 日本の英断で、素晴らしい薬を認めている、のであれば、堂々と誇りに思っていいのですが、なにせ、この薬、中身は、サルノコシカケの一種です。 キノコ、なのです。 
(中略)
まあ、所詮、キノコです。 それで、がんが治る、ということはないでしょう。 

がん補完代替医療としてのクレスチン


最近は、分子標的薬の登場など抗がん剤も進化しており、クレスチンの使用は減ってきました。
最近では、クレスチンは副作用がほとんどない点から、「副作用が軽微で、自宅で内服するだけで延命が得られる」非常に有効な、「良く効くクスリ」として、がん補完代替医療として利用されているようです。

しかし、乳がんにおける化学療法とクレスチンの併用療法に有効性は認められていません。

Yokoe T, et al,.Anticancer Res. 1997 Jul-Aug;17(4A):2815-8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9252721
Iino Y,et al,.Anticancer Res. 1995 Nov-Dec;15(6B):2907-11.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8669887
Toi M,et al,.Cancer. 1992 Nov 15;70(10):2475-83
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1423177

食道がんにおいても生存期間に差はありません。

Ogoshi K,et al.,Am J Clin Oncol. 1995 Jun;18(3):216-22
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7747709

さらに成人急性非リンパ性白血病の維持化学療法へのクレスチン併用療法で寛解期間、生存期間ともに延長は認められていません。

Ohno R,et al.,Cancer Immunol Immunother. 1984;18(3):149-54.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6391658


このように、その効果に対するエビデンスは乏しいのが現状です。



2016年10月2日日曜日

日本初、降圧3成分を含有した配合剤 ミカトリオ配合錠





ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン、アムロジピンベシル酸塩及びヒドロクロロチアジドという作用機序の異なる3種類の有効成分を含有している日本初の降圧薬です。


各成分の作用機序


テルミサルタン(ミカルディス)は、ドイツで合成されたアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)です。
テルミサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体に選択的に結合し、アンジオテンシンⅡの生成経路に影響を与えることなく AT1 受容体を介した血管収縮及びナトリウム貯留ホルモンであるアルドステロンの遊離を抑制し、降圧作用を発現します。

高血圧症患者に対してテルミサルタンの降圧効果は 24 時間以上持続することが国内外の臨床試験から確認されています。


アムロジピンベシル酸塩(ノルバスク、アムロジン)は、作用時間の持続を目的として開発されたジヒドロピリジン系カルシウム(Ca)拮抗薬です。
ジヒドロピリジン受容体と高い親和性を示します。
作用の発現は緩やかかつ持続的であり、1 日 1 回の投与により 24 時間にわたり降圧効果を示すことが明らかにされています。


ヒドロクロロチアジドは、チアジド系の利尿薬として1959年から販売されている歴史の長い薬です。
その作用機序は、腎でのナトリウムの再吸収を抑制し、体内のナトリウムと水
分の排泄を促進することです。
その結果、循環血液量が減少し、長期的には末梢血管抵抗が低下し、降圧作用を示すと考えられています。


ミカトリオ配合錠は患者アドヒアランスを向上させるのか


日本では、テルミサルタンを含有する配合剤として、ミコンビ配合錠(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド配合錠)とミカムロ配合錠(テルミサルタン/アムロジピンベシル酸塩配合錠)が発売されています。

降圧薬の併用療法について、高血圧治療ガイドライン 2014 では、2 剤の併用として ARB と Ca 拮抗薬又は利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)と Ca 拮抗薬又は利尿薬、あるいは Ca 拮抗薬と利尿薬を推奨しています。
また、2 剤で十分な降圧が得られない場合、ARB あるいは ACE 阻害薬と Ca拮抗薬、利尿薬の3種類の薬剤の併用を推奨しています。

併用療法が推奨されている一方で、服薬錠数が増えることで患者のアドヒアランスが低下し、血圧コントロール不良とともに心血管病の発生が増加することが報告されています。
この点が現在の高血圧症治療の問題点となっています。


そこで、3つの薬を1つにしてしまえば、患者さんもの服薬も楽になるのではと考えられ開発されたのが『ミカトリオ配合錠』です。


錠剤が大きいけれど


ミカルディス錠80mgも大きさが1cmくらいあって、でかくて飲みづらいイメージがありますが、3つの成分をまとめているだけあります。
更にでかくなっています。

直径:11mm
厚さ:約4.9mm
重さ:約0.49g


ただ、ミコンビBPと直径が同じ、ミカムロBPとは直径・厚さが同じです。
これらが服用できている人に切り替えて使うものですから、飲みにくいとは思いますが、問題ない範囲でしょう。


使いにくそう


ミカトリオ配合錠は2成分で十分な効果が得られていない場合の選択肢という位置付けですが、厚労省の新薬審議会で「3成分を配合する意義をもっと調べた方がよい」などとする意見が出て、一度承認が見送られたことがあります。

ガイドラインでは血圧コントロール不良の患者さんには3種類の薬剤の併用を推奨していますが、実臨床の治療では薬剤を増やすこともあれば、減らすこともあります。例えば、冬場は血圧が上がりやすいので3剤併用を行なうが、暖かくなってくると2剤併用に減らしていくといった、いわゆる、さじ加減でコントロールされているものです。3成分配合剤を飲み始めてしまうと、なかなか減らしにくくなってしまう懸念があります。

ともあれ、安易に切り替えるべき薬ではないようです。

【2016年12月追記】
平成28年12月26日厚生労働省保険局医療課長通知「ミカトリオ配合錠の保険適用に係る留意事項について」が発出されました。
概要は以下のとおりです。


  1. ミカトリオ配合錠については、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課において適正使用の指針が定められ、今般、別添のとおり連絡されているところであるので、使用に当たっては十分留意すること。
  2. 原則として、テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgを8週間以上、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本製剤への切り替えを検討すること。
  3. 本製剤への切り替えに当たっては、次の事項を切り替えた月の診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
    (1) テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgの併用療法として使用していた品名及び使用期間
    (2) テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgの併用療法における血圧コントロールの状況及び安定した血圧コントロールが得られていると判断した際に参照した血圧測定値及び当該血圧測定の実施年月日
  4. 本製剤の継続使用に当たっては、本製剤へ切り替えた月の翌月以降の診療報酬明細書の摘要欄に、本製剤へ切り替えた診療年月を記載すること。

以上は平成29年1月1日から適用されます。


ミカトリオ配合錠

[効能・効果]
高血圧症

過度な血圧低下のおそれ等があり、本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと。

[用法・用量]
成人には1日1回1錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジドとして80mg/5mg/12.5mg)を経口投与する。
本剤は高血圧治療の第一選択薬として用いない。

原則として、テルミサルタン80mg、アムロジピン5mg及びヒドロクロロチアジド12.5mgを一定の期間、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本剤への切り替えを検討すること。

事務連絡
平成28年11月25日
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課

ミカトリオ配合錠の適正な使用について

【はじめに】
ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の配合剤であり、本邦で初めて承認された 3剤配合降圧薬である。
降圧目標を達成するためには、多くの場合 2、3 剤の降圧薬併用が必要となる。異なる機序の降圧薬の併用は、お互いの降圧効果を増強しあうことにより降圧効果が大きくなり、降圧目標を達成するために有用である。さらに、配合剤に期待される利点は、服用錠数の減少による服薬アドヒアランスの改善と維持である。服薬アドヒアランスは血圧コントロールの良否とともに心血管病の発
症・予後に関係することが報告されており、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン 2014 においても、その重要性が示されている。
その一方で、配合剤は用量が固定されており、初期投与により過剰な血圧低下の恐れがある、投薬の調整をすることが難しい、副作用が生じた際に原因となる薬剤の特定が困難である等の懸念点がある。そこで、本剤が臨床現場で安全に適正に使用されることを目的とし、本邦における適正使用の指針として本ガイドラインを策定した。
なお、本ガイドラインは、厚生労働省の依頼により、一般社団法人日本循環器学会及び特定非営利活動法人日本高血圧学会(50 音順)の協力のもとに策定された。

【目的】
本ガイドラインは、医師(特に、一般臨床医)、薬剤師などの医療従事者に対し、3 剤配合降圧薬であるミカトリオ配合錠に関する情報提供を行うとともに、本剤の適正で効果的な使用を促すことを目的とする。

【ミカトリオ配合錠について】
ミカトリオ配合錠は、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の配合剤である。本剤の配合成分であるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、カルシウム拮抗薬(Ca 拮抗薬)および利尿薬の組み合わせは、2 剤併用で降圧目標が達成されない、コントロール不良高血圧患者に用いられる併用成分として国内外のガイドラインで推奨されている組み合わせの一つである。
本剤の配合成分の特徴として、テルミサルタンは、アンジオテンシンⅡタイプ 1(AT1)受容体に選択的に結合し、アンジオテンシンⅡの生成経路に影響を与えることなく AT1 受容体を介した血管収縮及びナトリウム貯留ホルモンであるアルドステロンの分泌を抑制し、降圧作用を発現する。アムロジピンは、作用時間の持続を目的として開発された Ca 拮抗薬で、ジヒドロピリジン受容体と高い親和性を示し,細胞内へのカルシウムの流入を減少させることにより,末梢血管の平滑筋を弛緩させることで降圧作用を発現する。ヒドロクロロチアジドは、腎でのナトリウムの再吸収を抑制し、体内のナトリウムと水分の排泄を促進することで循環血漿量を減少させ、長期的には末梢血管抵抗が低下し、降圧作用を示すと考えられている。


【適正な使用について】
-添付文書より抜粋-
【効能・効果】
高血圧症
<効能・効果に関連する使用上の注意>
過度な血圧低下のおそれ等があり、本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこ
と。
【用法・用量】
成人には1日1回1錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジドとして 80mg/5mg/12.5mg)を経口投与する。本剤は高血圧治療の第一選択薬として用いない。

<用法・用量に関連する使用上の注意>
原則として、テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg を一定の期間、同一用法・用量で継続して併用し、安定した血圧コントロールが得られている場合に、本剤への切り替えを検討すること。

原則として、以下の併用療法を「8 週間以上」継続して有効性と安全性の観点から継続が妥当と主治医が判断した場合に、本剤への切り替えを検討する:
①テルミサルタン 80mg、アムロジピン 5mg 及びヒドロクロロチアジド 12.5mg の単剤併用、
②テルミサルタン 80mg/アムロジピン 5mg 配合剤とヒドロクロロチアジド 12.5mg の併用、
③テルミサルタン 80mg/ヒドロクロロチアジド 12.5mg配合剤とアムロジピン 5mg の併用。
高血圧治療において、配合剤は第一選択薬とはならない。まずは単剤、2剤の併用から治療を開始し、原則として、本配合剤の同一用法・用量(降圧薬単剤の併用や 2 剤配合剤の併用)の組み合わせにより安定した血圧コントロールが得られている場合に本剤へ切り替える。

本剤に変更後に、副作用の出現や過降圧等が見られた場合には速やかに中止して、変更前の治療薬に戻したり、その際に一部の成分を減量したり、他の薬剤による降圧療法に変更したりするなど、適切な高血圧管理を行うこと。
本剤の使用時には、降圧効果の判定や過降圧の早期発見などに朝夕の家庭血圧による評価が有用である。また、過降圧に関連して、過度の発汗、嘔吐、下痢などによる脱水がみられた場合等の注意点(血圧測定、服薬中止、速やかな医療機関の受診)を十分に情報提供することが重要である。

<補足:適切な高血圧管理>
高血圧治療における降圧目標は 140/90mmHg 未満とする。ただし、糖尿病や蛋白尿陽性の慢性腎臓病では降圧目標は 130/ 80mmHg 未満とする。後期高齢者は 150/90mmHg 未満を降圧目標とし、忍容性があれば140/90mmHg 未満を目指す。

降圧薬治療は、Ca 拮抗薬、ARB/ACE 阻害薬、少量利尿薬、β 遮断薬を主要降圧薬とし、積極的な適応や禁忌もしくは慎重使用となる病態や合併症の有無に応じて適切な降圧薬を選択する。積極的な適応がない場合の高血圧に対しては、最初に投与する降圧薬は第一選択薬となる Ca 拮抗薬、ARB、ACE 阻害薬、利尿薬の中から選択する。異なる種類の降圧薬の併用は、降圧効果が大きく降圧目標を達成するために有用である。

血圧の日内変動や季節変動の異常、仮面高血圧、血圧の不安定性(動揺性)には降圧薬の薬効や作用時間、生活習慣、精神的ストレス、高度の動脈硬化など様々な原因がある。その詳細と対策は日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン 2014 を参照にされたい。

本剤のような Ca 拮抗薬、ARB/ACE 阻害薬および利尿薬の 3 成分(配合剤、併用療法を問わない)により降圧目標に達しない治療抵抗性の高血圧患者の管理においては、高血圧患者の診療に必要な総合的な知識と技量を有する医師への紹介が推奨される。

アモキシシリン1回2000mgも投与する理由




とある基幹病院の循環器内科からの処方

アモキシシリンカプセル250mg 8カプセル
(歯科治療1時間前に服用) 5回分


通常のアモキシシリンの使い方(ヘリコバクター・ピロリ感染症を除く感染症)は以下のとおりです。


成人:アモキシシリン水和物として、通常1回250mg(力価)を1日3~4回経口投与する。


上記の処方は、明らかに通常用量を超えた過量投与です。


では、これは処方ミスかというと、そうではありません。
この謎を解く鍵は『循環器内科からの処方』と『歯科治療1時間前に服用』です。



感染性心内膜炎という病気をご存知でしょうか。


感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆う内膜(心内膜)に細菌の病巣ができて炎症を起こす敗血症のひとつで、早期診断と適切な治療が重要です。
本来、心内膜はなめらかでつるつるしていますが、心臓病のある人や心臓の手術後などでは、心臓内の異常な血液の流れによって、心内膜に細かい傷ができることがあります。そこに血小板などが付着し、たまたま血液に入り込んだ細菌が付着して増殖すると、いぼ状の感染巣―疣腫(ゆうしゅ)をつくります。
血液中に細菌が入り込む原因は、抜歯など歯科治療や虫歯から口腔内の常在菌が侵入する場合や、泌尿器科や産婦人科の手術の際に侵入する場合などが考えられます。通常は細菌が血液内に侵入しても、白血球が働いて退治してくれますが、一時的に心臓に入り込んだ菌が、心内膜に傷があるとそこに付着し増殖して心内膜炎が発症するのです。

日本心臓財団
http://www.jhf.or.jp/heartnews/vol47.html


先天性心疾患がある、人工弁置換をされている方やペースメーカーを埋め込んでいる、心内膜炎リスクが高い患者さんは菌血症を誘発しうる歯科の手技・
処置を実施する場合には,抗菌薬の予防投与が推奨されています。

米国のガイドラインではアモキシシリンが消化管からの吸収が良く、より高い血中濃度が達成され、より長く維持されることから、アモキシシリンの単回経口投与が標準的予防法として推奨されています。

成人用量はアモキシシリン2.0 g
(小児用量は50 mg/kgで成人用量を超えない用量)
を処置予定の一時間前に投与する。

López-Cedrún J L, Pijoan J I, Fernández S, Santamaria J, Hernandez G: Efficacy of amoxicillin treatment in preventing postoperative complications in patients undergoing third molar surgery: a prospective, randomized,double-blind controlled study. J Oral Maxillofac Surg 2011; 69: e5-14
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21470751

また、日本化学療法学会ガイドラインでは、アモキシシリン大量投与による下痢の可能性、およびアンピシリン2g点滴静注とアモキシシリン500 mg経口投与で抜歯後の血液培養陽性率がともに約20%程度で大差なかった、という論文を踏まえて、リスクの少ない患者に対しては、アモキシシリン500mg経口投与を提唱しています。

術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン
http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou_jissen.pdf


ペニシリンアレルギーでアモキシシリンが使えない場合


ペニシリン(アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンなど)にアレルギーのある患者には別の経口抗菌薬を使用します。

クリンダマイシン
成人:600 mgを処置1時間前に経口投与
小児:20 mg/kgを処置1時間前に経口投与

セファレキシンあるいはセファドロキシル
成人:2.0 gを処置1時間前に経口投与
小児:50 mg/kgを処置1時間前に経口投与

アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシン
成人:500 mgを処置1時間前に経口投与
小児:15 mg/kgを処置1時間前に経口投与



術前のアモキシシリン大量投与は感染性心内膜炎予防に効果があるのか?


イギリスでは2008年のガイドラインで、感染性心内膜炎の予防抗菌薬を完全に中止する勧告を出したことがあります。

その結果イギリスでは、この勧告以降、予防抗菌薬の投与は減少しました。しかし、感染性心内膜炎の発生率は、有意に増加していたことが、後ろ向き研究の結果で示されました。

因果関係は明確ではありませんが、感染性心内膜炎の発生率は、ハイリスクの患者さんでもローリスクの患者さんでも、有意に増加していました。

Dayer MJ, et al. Lancet. 2015 Mar 28;385(9974):1219-28.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21470751


術前のアモキシシリン大量投与は感染性心内膜炎予防は可能性の域は出ませんがある程度効果はあるのではないかと考えられます。

ただし、予防抗菌薬そのもののリスクも常に同時に考慮して適切に使用したいものです。


術前薬は病院でもらうものです。


手術や検査にかかわる薬剤は、院外処方せんによる供給にはなじみません。
それは、医療機関の請求において、「投薬」ではなく「手術」や「検査」の項目に記載されるものであり、処方料も調剤料も算定することはできないとされているからです。
従って、手術前・検査前の薬のみが記載された院外処方せんを発行した場合、医療機関では処方せん料を算定することはできません。
また、これを受けた薬局は、調剤基本料や薬剤服用歴管理指導料等を算定することは出来ず、薬剤料のみ請求せざるを得ません。