2016年4月12日火曜日

帯状疱疹予防ワクチンは5割しか効かない?


2016年3月、『乾燥弱毒生水痘ワクチン』に「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」の効能・効果が追加承認されました。

http://www.biken.or.jp/WP/wp-content/uploads/info_3_fa-v_tk_20160318.pdf


日本で承認されている帯状疱疹ワクチンは、「岡株」という種類のワクチンです。

岡株は、水痘及び帯状疱疹の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の弱毒株です。

また、岡株はWHOによって、水痘及び帯状疱疹に対するワクチン製造株とされているワールドスタンダードな株です。

Varicella and herpes zoster vaccines: WHO position paper, June 2014.WHO Weekly Epidemiol Rec. 2014; 89:265-288.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24983077



VZVは、感染すると水ぼうそう(水痘)を発症します。水痘が治癒した後もウイルスは神経節に潜伏しています。

そして何年か後、加齢、疲労、ストレス、悪性腫瘍、免疫抑制剤の使用などの免疫機能の低下によって、ウイルスが再活性化します。

神経節に潜んでいたウイルスは、神経近くの皮膚に帯状疱疹を発症させます。


Oxman MN,Zoster vaccine: current status and future prospects.Clin Infect Dis. 2010 Jul 15;51(2):197-213. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20550454


Levin MJ,et al.,Varicella-zoster virus-specific immune responses in elderly recipients of a herpes zoster vaccine.J Infect Dis. 2008 Mar 15;197(6):825-35.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18419349




帯状疱疹の初期症状は、片側の神経分布領域に知覚異常や疼痛、痒みが現れます。

症状は数日から1週間続きます。

その後、紅い斑点が現れ、その上に多数の水ぶくれが帯状に出現します。

水ぶくれは2〜3日で膿疱や血疱となり、4〜5日で破れて、びらんとなり、次第にかさぶたとなります。

約3週間でかさぶたが剥がれて、帯状疱疹は治っていきます。


高齢者では、帯状疱疹が治った後の2割程度において、帯状疱疹後神経痛が見られることが報告されています。


帯状疱疹後神経痛はとても痛い、管理が難しいことから患者の負担が大きなものとなっています。


Takao Y, Miyazaki Y, Okeda M, et al. Incidences of herpes zoster and postherpetic neuralgia in japanese adults aged 50 years and older from a community-based prospective cohort study: The SHEZ study. J Epidemiol 2015;25:617-625.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4626391/



日本における帯状疱疹発症率は、1997年から宮崎県で実施された大規模疫学研究において、50歳未満は2.06〜2.85/1000人年、50歳以上では5.30〜8.25/1,000人年と報告されています。

毎年約60万人が帯状疱疹を発症し、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を発症すると推定されています。



IASR Vol. 34 p. 298-300: 2013年10月号
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2256-related-articles/related-articles-404/4014-dj4048.html



海外では、岡株ワクチン『ZOSTAVAX』が帯状疱疹の予防を効能・効果として、米国、欧州を含む60以上の国又は地域で承認されていました。


しかし、日本では2004年に水痘ワクチンの添付文書が改訂され、水痘予防の一環として、VZVに対する免疫能が低下した高齢者に本剤を接種することが可能とされてはいましたが「帯状疱疹の予防」は、効能・効果に明記されていませんでした。


そのような状況を踏まえ、2009年11月に日本皮膚科学会、2010年4月に日本ペインクリニック学会、2012年2月に日本感染症学会から、日本においても水痘ワクチンに帯状疱疹の予防適応の追加を求める要望書が厚生労働省に提出されました。



水痘ワクチンが帯状疱疹予防となる根拠


水痘が流行すると帯状疱疹が減少することが経験的に知られています。

また、小児や水痘患者との頻繁な接触が成人の帯状疱疹の発症を抑制することが報告されています。

これらから、VZVに対する免疫が帯状疱疹の発症に関わっていると考えられています。


その他には、岡株ワクチンを接種された免疫の低下した白血病の患児で、ワクチンの追加接種または水痘への暴露で帯状疱疹の発症が抑制されたという報告があります。


高齢者において、岡株ワクチンの接種が抗VZV抗体価、及びVZV特異的細胞免疫を増強させ、VZVに対する免疫強化が期待され、帯状疱疹の発症予防に繋がると考えられています。



発症予防効果があるのは50%?


ワクチンにによって、帯状疱疹の頻度を約半分にすることができます。

また、帯状疱疹後神経痛を約3分の1に有意に減少させることがわかっています。

しかし、見かたを変えるとワクチン接種にもかかわらず半数は発症を予防できていないことになります。


これをどう理解するか。


帯状疱疹治療薬のアシクロビルは無治療に比べ、ウイルス排泄を約1日、治癒を約1.5日短縮させます。

このような帯状疱疹治療標準治療法である抗ウイルス薬でも、治療期間を1~2日短縮する程度の効果なのです。

それに比べれば、たとえワクチン接種者の半数であっても帯状疱疹が発症しないということは非常に大きな効果であると考えられます。さらに、非常につらい帯状疱疹後神経痛を減らせることは臨床的に大きなことです。



参考:
感染症学雑誌 第84巻 第 6 号. 帯状疱疹とその予防に関する考察.