2016年3月21日月曜日

抗精神病薬アセナピン asenapine 舌下錠(シクレスト舌下錠)

アセナピン(asenapine)は2009年にアメリカで承認された抗精神病薬です。


日本では、MSDが開発を進めており、2016年3月に承認される予定です。


(追記)
2016年3月28日『シクレスト舌下錠』販売承認取得
日本での販売は販売は明治製菓ファルマが行なうようです。
http://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2016/detail/160328_02.html

アセナピンの作用機序


アセナピンはドパミン神経系(D2,D3,D4)、セロトニン神経系(5HT2A , 5HT2B , 5HT2C , 5HT6 and 5HT7 )そして、アドレナリン神経系(α1A,α2)の様々な受容体のアンタゴニストとしてはたらきます。

アセナピンはドパミンD2受容体よりもセロトニン5HT2A受容体に親和性を持っています。アセナピンのドパミンD2受容体に対する阻害定数(Ki)と5HT2A受容体に対する阻害定数の比は20倍程度です。このことから、セロトニンにかなり高い親和性を持っていることがわかります。


アドレナリンα2受容体拮抗が、統合失調症における陰性症状や認知機能の低下を改善させると考えられています。アセナピンもα2受容体拮抗作用を持つことから、統合失調症における陰性症状や認知機能の低下改善作用があると考えられています。しかし、α1受容体拮抗作用によって起立性低血圧が起こることがあるので注意が必要です。


アセナピンは臨床治療域においてコリン神経系には作用しません。

そのため、オランザピンやクロザピンのような非定型抗精神病薬で見られる副作用である糖尿病(メタボリックシンドローム)や抗コリン作用などを引き起こしません。


そしてまた、アセナピンはヒスタミンH1受容体拮抗作用ももつため、鎮静作用があります。

しかし、H1受容体拮抗による体重増加が引き起こされる懸念もあります。



アセナピンの薬物動態

アセナピンは高い肝初回通過効果を受けます。経口でのバイオアベイラビリティは2%以下です。そのため、もともとは静注用の製剤として研究されていました。が、後に肝初回通過効果を受けない舌下錠での開発に成功しました。


アセナピンの主要な肝代謝酵素はCYP1A2です。他の抗精神病薬の代謝酵素であるCYP3A4やCYP2D6の影響は殆ど受けません。アセナピン自体が活性を持ち、薬効を示します。肝代謝物は38種類くらいありますが、それらすべての代謝物は活性を持たず、血液脳関門も通過できず、各種受容体に対し親和性もありません。

アセナピンは血漿蛋白との親和性が高く95%という蛋白結合率を示します。



服用10分は飲食禁止

舌下投与した直後に飲食をすると、バイオアベイラビリティに影響が及ぶことがあります。飲食をすることで、肝臓に流れ込む血液量が増えます。そうなると、肝臓での薬物の代謝が促進されてしまうのです。

そのため、アセナピン舌下錠服用の10分後は飲食が禁止されています。



アセナピンの臨床試験

174人の統合失調症患者を対象とした二重盲検比較試験が行われています。アセナピン5mgを1日2回舌下投与とプラセボ、リスペリドン3mg(1日2回)を6週間投与し効果を検証しました。

効果は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて評価されました。プラセボとの比較では2週目からアセナピンの優位な有効性が示されました。


アセナピンの双極性障害に対する効果についてもプラセボと比較して有効性があることが短期臨床試験で示されています。


アセナピンと他の抗精神病薬を直接比較した臨床試験は数が少なく、データとして不足しています。



アセナピンの副作用

他の抗精神病薬にはないアセナピン独特の副作用に口腔感覚マヒがあります。舌下錠という剤形が要因にあるようです。


全身性の副作用で主なものには「眠気」があります。他には、「起立性低血圧」もよくみられる副作用です。

起立性低血圧対策として急な体位変換を避ける(寝ている状態から急に起き上がり座る、または立つ)ゆっくりと起き上がるようにするなどの非薬理学的方法を患者さんへアドバイスすることが必要です。


アセナピンはオランザピンのような体重増加を示す他の抗精神病薬よりも太りにくく、メタボリックシンドロームを引き起こしにくいと考えられています。


QTc延長についてもクエチアピンと同程度であり、ほとんど影響はないとされています。


アセナピンの長期安全性はまだ確立されておらず、中毒量における影響もよくわかっていません。




Meltzer HY,et al. Asenapine. Nat Rev Drug Discov. 2009;8:843–4.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19876039

Citrome L. Asenapine for schizophrenia and bipolar disorder: A review of the efficacy and safety profile for this newly approved sublingually absorbed secondgeneration antipsychotic. Int J Clin Pract. 2009;63:1762–84.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19840150


Saphris (Asenapine) sublingual tablets. US prescribing information.
http://www.allergan.com/assets/pdf/saphris_pi


Bishara D, Taylor D. Asenapine monotherapy in the acute treatment of both schizophrenia and bipolar I disorder. Neuropsychiatr Dis Treat.2009;5:483–90.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19851515





asenapineのクロルプロマジン換算値


海外の文献によると、アセナピンのクロルプロマジン換算値は4~5mgと考えられています。


Leucht S, et al., Dose equivalents for second-generation antipsychotics: the minimum effective dose method. Schizophr Bull. 2014 Mar;40(2):314-26.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3932104/pdf/sbu001.pdf



Woods SW,et al.,Chlorpromazine equivalent doses for the newer atypical antipsychotics.J Clin Psychiatry. 2003 Jun;64(6):663-7.