高コレステロール血症治療薬「レパーサ®皮下注」は、一般名をエボロクマブ(遺伝子組換え)といいます。
レパーサ皮下注は2016年1月22日に厚生労働省より製造販売承認を取得しました。
2016年4月20日薬価収載。同21日発売。
レパーサ皮下注の作用機序
レパーサ皮下注はヒトIgG2モノクローナル抗体で、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン 9 型(PCSK9)を阻害します。
PCSK9とは、「悪玉」コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを血中から取り除く肝臓の働きを低下させるタンパク質です。
PCSK9の阻害については別ページで解説していますのでそちらをご覧ください。
抗PCSK9抗体の作用機序(YG研究会)
http://yakuza-14.blogspot.jp/2015/12/pcsk9.html
肝臓には血中のLDLコレステロールを取り込むLDL受容体があります。
LDL受容体が血中LDLコレステロールを下げるはたらきをします。
PCSK9というタンパク質は、このLDL受容体とくっつき、LDL受容体を分解してしまいます。
そのため、肝臓のLDLコレステロールを取り込む機能が低下してしまい血中コレステロールが上昇してしまいます。
レパーサ皮下注はPSCK9にとくっつくことで、PCSK9がLDL受容体を分解するのを阻害します。
肝臓のLDL受容体数が増え、より多くの血中LDLコレステロールを肝臓が取り込める状態にします。
このようにして、血中LDLコレステロールを下げます。
どのような人にレパーサ皮下注は使われるのか
家族性高コレステロール血症や高コレステロール血症の患者さんで、飲み薬(スタチン)が効果の無い人が適応です。
特に、冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病、慢性腎臓病等、心血管イベントの発現リスクが高いひとに使用されます。
家族性高コレステロール血症とは、LDL受容体やPCSK9の遺伝子異常などにより、高LDLコレステロール血症を呈する優性遺伝の遺伝性疾患です。
若いうちから重篤な動脈硬化を引き起こすため、早期発見・早期治療が重要です。
家族性高コレステロール血症には、ホモ接合体とヘテロ接合体の2つがあります。
ホモ接合体は難病指定されています。
一方、ヘテロ接合体は日本人の500人に1人の割合で罹患している病気です。
家族性高コレステロール血症について(日本動脈硬化学会)
http://www.j-athero.org/specialist/fh_s.html
レパーサの使い方
病院で注射をうってもらう場合と家で自分で注射する場合の二通りあります。
在宅自己注射可能な薬剤としては認められませんでした(2016年4月20日時点)。
家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体及び高コレステロール血症:
140mgを2週間に1回又は420mgを4週間に1回皮下投与する。
家族性高コレステロール血症ホモ接合体:
420mgを4週間に1回皮下投与する。
効果不十分な場合には420mgを2週間に1回皮下投与できる。
なお、LDLアフェレーシスの補助として本剤を使用する場合は、開始用量として420mgを2週間に1回皮下投与することができる。
単独投与での有効性及び安全性は確立していないので、原則、
スタチンと併用することになっています。
※在宅自己注射は執筆時点(2016年1月)では、海外の情報です。日本での適応は、2016年4月の薬価収載時に明らかになる予定です。
ホモ型家族性高コレステロール血症患者さん以外に投与する場合は、
原則として140mgを2週間に1回投与すること。
レパーサ皮下注はスタチン効果不十分例の一条の光となるのか?
スタチン投与を受けてもまだLDLコレステロールが高い高コレステロール血症患者を対象とした試験(国内第Ⅲ相試験)があります。
アトルバスタチンとレパーサ皮下注を併用したところ、LDLコレステロールが70%近く低下していました。
PCSK9はスタチンを飲み続けると、増えてくるとも言われています。
スタチン治療によりPCSK9の合成が高まり,LDL受容体の分解を促進するためにスタチンの効果を減弱するという、いわゆる「スタチンの弱点」「スタチン6%ルール」と言われるものです。
家族性高コレステロール血症の患者さんは当然のこと、スタチンが効果がなくなってきた心血管リスクの高い高コレステロール血症の患者さんにとって重要な治療選択肢になる薬です。
LAPLACE-2(循環器トライアルデータベース)
http://circ.ebm-library.jp/conferences/acc2014/acc2014_LAPLACE2.html
【2017年4月追記】
2017年3月31日、レパーサとプラルエントの最適使用推進ガイドラインが策定され、保険適用上の留意事項通知が発出されました。以下訂正
平成28年4月19日 使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部改正等について(保医発0419 第1号)
① 本製剤の効能・効果は 「家族性高コレステロール血症、 高コレステロール血症。 ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で 効果不十分な場合に限る」 であることから、心血管イベントの発現リスクが高く、 HMG-CoA還元酵素阻害剤の最大耐用量を服用しているが、十分な治療効果 が得られていない患者に限り使用すること。 また、本製剤の使用上の注意において、 「本剤投与にあたっては、あらかじめ 高コレステロール血症治療の基本である食事療法を行い、更に運動療法、禁煙、 他の虚血性心疾患のリスクファクター(糖尿病、高血圧症等)の軽減等も十分考慮すること」とされているので、患者に対して必要な治療及び指導を十分に行っ た上で、本製剤の使用を考慮すること。
② 本製剤の使用に当たっては、次の事項を診療報酬明細書の摘要欄に記入すること。
ア 本製剤の使用が必要と判断するに当たって参照したLDL-コレステロールの検査値及び当該検査の実施年月日
イ 食事療法を行っている旨、及び患者の状況に応じて、運動、喫煙等に関する 指導又は糖尿病、高血圧症等の虚血性心疾患の危険因子に対する治療若しくは指導を行っている旨
ウ 投与中のHMG-CoA還元酵素阻害剤の成分名及び1日投与量。なお、1 日投与量が最大用量でない場合は、最大耐用量である旨もあわせて記載すること。
エ 家族性高コレステロール血症以外の患者では、心血管イベントの発現リスクが高いと判断した理由(冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病若しくは慢性腎臓病に罹患していること若しくはそのいずれかの既往歴を有すること、又は複数の危険因子が認められること) 。
③ 家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体及び高コレステロール血症の患者における本製剤の使用に当たっては、原則として140mgを2週間に1回投与すること
平成 29 年3月 31 日抗 PCSK9 抗体製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項の 一部改正について(保医発 0331第9号)
① 本製剤については、
最適使用推進ガイドラインに従い、有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間、本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに、副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件を満たす医療機関で使用するよう十分留意すること。
② 本製剤の効能・効果は「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症。ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る」であることから、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤の最大耐用量を服用しているが、十分な治療効果が得られていない患者に限り使用すること。また、本製剤の使用上の注意において、「本剤投与にあたっては、あらかじめ高コレステロール血症治療の基本である食事療法を行い、更に運動療法、禁煙、他の虚血性心疾患のリスクファクター(糖尿病、高血圧症等)の軽減等も十分考慮すること」とされているので、患者に対して必要な治療及び指導を十分に行った上で、本製剤の使用を考慮すること。
③ 本製剤の投与開始に当たっては、次の事項を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。本製剤の継続投与に当たっては、投与開始時の情報を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
1)次に掲げる施設のうち、該当するもの(「施設要件ア」又は「施設要件イ」と記載)
ア 医師免許取得後、満6年以上の臨床研修歴を有し、このうち3年以上は循環器診療に関する臨床研修歴を有する医師が所属する施設
イ 医師免許取得後、満6年以上の臨床研修歴を有し、このうち3年以上は動脈硬化学に関する臨床研修歴を有する医師が所属する施設
2)本製剤の使用が必要と判断するに当たって参照したLDL-コレステロールの検査値及び当該検査の実施年月日
3)食事療法を行っている旨、及び患者の状況に応じて、運動、喫煙等に関する指導又は糖尿病、高血圧症等の虚血性心疾患の危険因子に対する治療若しくは指導を行っている旨
4)投与中のHMG-CoA還元酵素阻害剤の成分名及び1日投与量。なお、1日投与量が最大用量でない場合は、最大耐用量である旨もあわせて記載すること。
5)家族性高コレステロール血症以外の患者では、以下の心血管イベントのリスク因子のいずれに該当するか(「リスク因子ア」から「リスク因子オ」までのうち該当するものを記載)。
ア 冠動脈疾患(安定狭心症に対する冠動脈形成術を含む)の既往歴
イ 非心原性脳梗塞の既往歴
ウ 糖尿病
エ 慢性腎臓病
オ 末梢動脈疾患
6)家族性高コレステロール血症以外の患者で、5)の「リスク因子ウ」から「リスク因子オ」までのいずれかに該当する場合、投与中のHMG-CoA還元酵素阻害剤の投与期間
④ 家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体及び高コレステロール血症の患者における本製剤の使用に当たっては、原則として 140mg を2週間に1回投与すること。ただし、重症の家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体患者に対する、利便性の向上による投薬アドヒアランスの向上を目的とした投与である場合、420mg の4週間に1回投与が認められる。
⑤ ①にかかわらず、次の場合においては投与が認められるものとする。
1)平成29年3月31日以前に既に本製剤の投与を受けている患者については、医学薬学的に本製剤の投与が不要となるまでの間は投与が認められるものとする。その際、③を記載できない場合は、従前のとおり次の事項を診療報酬明細書の摘要欄に記載するとともに、投与中である旨(「投与中患者」と記載)及び当該患者に初めて本製剤を投与した年月を記載すること。
ア 本製剤の使用が必要と判断するに当たって参照したLDL-コレステロールの検査値及び当該検査の実施年月日
イ 食事療法を行っている旨、及び患者の状況に応じて、運動、喫煙等に関する指導又は糖尿病、高血圧症等の虚血性心疾患の危険因子に対する治療若しくは指導を行っている旨
ウ 投与中のHMG-CoA還元酵素阻害剤の成分名及び1日投与量。なお、1日投与量が最大用量でない場合は、最大耐用量である旨もあわせて記載すること。
エ 家族性高コレステロール血症以外の患者では、心血管イベントの発現リスクが高いと判断した理由(冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病若しくは慢性腎臓病に罹患していること若しくはそのいずれかの既往歴を有すること、又は複数の危険因子が認められること)。
2)平成 29 年3月 31 日以前に本製剤の使用実績がある保険医療機関において、本製剤を初めて投与する必要が生じた患者に対しては、平成 29 年4月 30 日までの間は投与開始が認められ、また、医学薬学的に本製剤の投与が不要となるまでの間は投与が認められるものとする。その際、③を記載できない場合は、従前のとおり⑤1)に掲げる事項を診療報酬明細書の摘要欄に記載するとともに、当該保険医療機関での使用実績がある旨(「使用実績有」と記載)及び当該患者に初めて本製剤を投与した年月を記載すること。
【2017年5月追記】
2017年5月1日エボロクマブ製剤が在宅で保険医が投与可能な薬剤として定められました。
これによりレパーサも在宅での処方が可能となりました。
療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等の一部改正等について(保医発0428第3号平成29年4月28日)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T170501S0040.pdf
ただし、レパーサ皮下注の自己注射を行っている患者に対して指導管理を行った場合、「在宅自己注射指導管理料」を算定できるのは『
レパーサ皮下注140mgペン』だけです。
レパーサ添付文書の使用上の注意において、「自己投与にはレパーサ皮下注140mgペ
ンを用いること。」とされているため、
『レパーサ皮下注140mg
シリンジ』については、「在宅自己注射指導管理料」は算定できません。
なお、『レパーサ皮下注140mgペン』は針付注入器一体型のキットなので、在宅自己注射指導管理料を算定する場合において「注入器加算」や「注入器用注射針加算」は算定できません。
レパーサ皮下注140mgシリンジ
レパーサ皮下注140mgペン
[効能・効果]
家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMGCoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る。
[用法・用量]
家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体及び高コレステロール血症:
通常、成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として140mgを2週間に1回又は420mgを4週間に1回皮下投与する。
家族性高コレステロール血症ホモ接合体:
通常、成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として420mgを4週間に1回皮下投与する。効果不十分な場合には420mgを2週間に1回皮下投与できる。なお、LDLアフェレーシスの補助として本剤を使用する場合は、開始用量として420mgを2週間に1回皮下投与することができる。