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2015年11月2日月曜日

高リン血症改善薬 スクロオキシ水酸化鉄(ピートルチュアブル錠)



スクロオキシ水酸化鉄(ピートルチュアブル錠)は、酸化水酸化鉄(III)/スクロース/デンプンから成るカルシウムを含まないリン吸着薬です。


作用機序

消化管内で、食物由来のリン酸イオンと本薬中の酸化水酸化鉄(III)が結合し、消化管からのリンの吸収を抑制します。

ピートルチュアブル錠 インタビューフォームより


高リン血症

血清リン濃度は、主に消化管からの吸収、骨からの遊離、骨への取込み及び腎臓から尿中への排泄により調節されています。

しかし、慢性腎不全患者では腎機能低下によりリン排泄が低下し、高リン血症を発症してしまいます。

慢性腎不全に伴う高リン血症は、カルシウム・リンの上昇を招き、軟部組織(血管壁、心臓弁膜、関節周囲等)にリン酸カルシウムが沈着し、異所性石灰化を引き起こす原因となります。

また、慢性腎不全患者では腎臓におけるビタミンD活性化が障害されており、消化管からのカルシウム吸収低下により低カルシウム血症が生じ、副甲状腺ホルモンの分泌が亢進し、二次性副甲状腺機能亢進症が誘発されます。

二次性副甲状腺機能亢進症では骨ミネラル代謝異常を生じており、高回転型骨病変や心不全等の心血管系疾患との関連が示唆されています。

エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013(日本腎臓学会編、東京医学社、2013 年)
http://www.jsn.or.jp/guideline/ckdevidence2013.php

このような背景から、日本では2012年に一般社団法人 日本透析医学会より「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」が発出され、CKD 患者では、さまざまな骨ミネラルの代謝異常が発現しているが、特に透析患者では高リン血症は生命予後と関連し、血清リン濃度の管理は重要とされています。

ガイドラインでは透析患者における血清リン濃度、補正血清カルシウム濃度、血清 intact PTH 濃度の管理目標値が示され、血清リン濃度の管理目標値は 3.5~6.0mg/dL と設定されています。

日本透析医学会ガイドライン
透析会誌 45: 301-356, 2012



既存の高リン血症治療薬の問題点

現在、透析患者における高リン血症の治療では、食事指導によるリン摂取制限、透析によるリンの除去に加え、消化管からのリン吸収を抑制する経口リン吸着薬の投与が行われています。

既存経口リン吸着薬としては、沈降炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、ビキサロマー、炭酸ランタン水和物及びクエン酸第二鉄水和物が用いられています。

それぞれの薬剤の特性により、高カルシウム血症、胃腸障害(便秘、腹部膨満等)、長期投与時における希少金属の組織蓄積の懸念等の問題点があります。

沈降炭酸カルシウムは、カルシウム負荷による高カルシウム血症に注意が必要で、日本では投与量は 3g/日を上限とすることが妥当とされています。

そのため沈降炭酸カルシウム単剤では血清リン濃度を管理するための十分量を投与できない場合があります。

セベラマーはカルシウム非含有リン吸着薬ですが、便秘、腹部膨満等の消化器系の副作用が高頻度に認められ、便秘のある患者では腸閉塞や腸管穿孔のおそれもあります。

また、セベラマーの投与量は 3~9g/日(服薬錠数 12~36 錠/日)であり、患者さんにとって服薬する錠数が多いのはかなりの負担となります。

ビキサロマーはセベラマーと比較して便秘、腹部膨満等の消化器系の副作用が軽減されてはいますが、投与量は 1,500~7,500mg/日(服薬カプセル数 6~30 カプセル/日)でセベラマーと同様に服薬の数の面で負担があります。

炭酸ランタン水和物は便秘の副作用は少ないものの、嘔吐及び悪心の発現が他のリン吸着薬と比較して多く、また長期投与によるランタンの骨及び他の臓器への蓄積とその影響は明らかではありません。

透析患者は他にも服薬する薬剤数量が多く、リン吸着薬の服薬錠数の負担の増大は服薬アドヒアランスの低下と血清リン濃度の上昇を引き起こすと報告されています。

Arenas MD et al., Challenge of phosphorus control in hemodialysis patients: a problem of adherence?J Nephrol. 2010 Sep-Oct;23(5):525-34.


ピートルチュアブル錠はカルシウムを含有しないため、投薬によるカルシウム負荷がありません。

また、非ポリマー性なので、ポリマー性の経口リン吸着薬(セベラマー塩酸塩及びビキサロマー)で認められる便秘や腸閉塞・腸管穿孔等の重篤な胃腸障害の発現リスクが低いと考えられています。

さらに、生体内必須金属元素である鉄を主成分としており、炭酸ランタン水和物で危惧される、生体内非必須金属元素であるランタンの長期投与に伴う骨への蓄積のような懸念は少ないと考えられます。

そのため、ピートルチュアブル錠は安全性上の懸念が少ないリン吸着薬と言えるでしょう。

またピートルチュアブル錠は、80%以上の被験者で服薬錠数が 1 回 1 錠(250mg 錠又は 500mg 錠)であり、既存の高リン血症治療薬と比較して少ない錠数で血清リン濃度低下効果を示しています。



既存の高リン血症治療薬とのリン吸着作用の比較

スクロオキシ水酸化鉄,セベラマー塩酸塩,炭酸ランタン水和物及び沈降炭酸カルシウムのリン吸着能を比較検討したデータが有ります。

この試験は臨床での効果を推測するため、消化管内の条件を模したpH3.0,5.5及び8.0にてリン吸着能を評価し、1000mgのリン酸の吸着に必要なリン吸着薬の量を求めたものです。

吸着能が高いほど少ない量ですみます。

セベラマーやスクロオキシ水酸化鉄はどの環境においても高いリン吸着作用を示したのに対し、炭酸ランタンや沈降炭酸カルシウムは環境のpHによってりん吸着能が左右されるのがわかります。

ピートルチュアブル錠 インタビューフォームより



既存の高リン血症治療薬との併用について

CKD における高リン血症の血清リン濃度管理は単剤では困難な場合があり、臨床現場ではピートルチュアブル錠と他の高リン血症治療薬が併用されることも想定されます。

沈降炭酸カルシウムについては、血液透析患者を対象としたピートルチュアブル錠との炭酸カルシウム併用試験が行われています。

その結果では併用時の安全性及び有効性に特段の問題は認められませんでした。

しかし、その他の高リン血症治療薬について併用した臨床試験成績はありません。

そのため、ピートルチュアブル錠の有効成分に含まれる鉄と既存の経口リン吸着薬の相互作用について公表資料を参考に検討されています。


有効性について、セベラマーは、微量金属元素への吸着性を in vitro 試験で検討した結果、2価及び 3 価の鉄への吸着性は示されていません。

また、米国の添付文書においても、無水硫酸鉄の薬物動態に影響を及ぼさないことが記載されています。

ビキサロマーは、陽イオンの吸着作用を in vitro 試験で検討した結果、2 価及び 3 価の鉄を含めたいずれの陽イオンもほとんど吸着しませんでした。

炭酸ランタン水和物及びクエン酸第二鉄水和物に含まれるランタン及び鉄は陽イオンであるため、ピートルチュアブル錠の有効成分に含まれる鉄と結合する可能性は低いと考えられます。

以上より、ピートルチュアブル錠の有効成分に含まれる鉄により既存の経口リン吸着薬の有効性が減弱する可能性は低いと推察されます。

しかし沈降炭酸カルシウム以外の既存の経口リン吸着薬の相互作用について直接検討した情報はないので、併用時には定期的に血清リン濃度、血清カルシウム濃度及び血清 intact PTH 濃度を測定しながら投与する必要があります。


安全性については、ポリマー製剤であるセベラマー及びビキサロマーは、水分を吸収し腸内で膨潤することにより腸管内容物の通過障害を来すおそれがあることから、便秘を発現・悪化させます。

あるいは腸管の虚血状態を悪化させ、腸管穿孔及び腸閉塞を引き起こす可能性があると考えられます。

炭酸ランタン水和物は、便秘の副作用は少ないものの、嘔吐及び悪心の発現が他のリン吸着薬に比べて高いことが報告されています。

ピートルチュアブル錠で認められている主な副作用は「軟便」及び「下痢」です。

これらの経口リン吸着薬とピートルチュアブル錠との併用時には、それぞれの薬剤に特徴的な副作用が発現する可能性があります。

クエン酸第二鉄水和物は有効成分に鉄を含有しており、主な副作用は、下痢、便秘、腹部不快感等の胃腸障害です。

さらに、クエン酸第二鉄水和物は鉄を含むことから鉄過剰や Hb の過度の増加が懸念されます。

クエン酸第二鉄水和物とピートルチュアブル錠の特徴的な副作用がいずれも下痢であることから、両剤を併用した場合は下痢の発現頻度が増加する可能性があります。

また、ピートルチュアブル錠においても血清フェリチン、トランスフェリン飽和度及び Hb の値が上昇する傾向があるので、クエン酸第二鉄水和物との併用により、血清フェリチン、トランスフェリン飽和度及び Hb が相加的に上昇する可能性は否定できません。



ピートルチュアブル錠

[効能・効果]
透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善

[用法・用量]
通常、成人には、鉄として 1 回 250mg を開始用量とし、1 日 3 回食直前に経口投与する。以後、症状、血清リン濃度の程度により適宜増減するが、最高用量は 1 日 3000mg とする。