2015年夏、世間を騒がせている”人喰いバクテリア”とは、A群溶血性レンサ球菌のことです。
A群溶血性レンサ球菌による感染症で、稀ですが壊死性軟部組織炎を伴い、皮膚が壊死していくことがあることから”人喰い”というセンセーショナルな名前が付けられています。
正式な病名は
劇症型溶血性レンサ球菌感染症( streptococcal toxic shock syndrome:STSS )、です。
劇症型 A 群レンサ球菌感染症( invasive group A streptococcal infection )
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は5類感染症に指定されています。
感染症法第12条の規定により患者を診断した医師は7日以内に指定の届出様式により最寄りの保健所に届け出なくてはなりません。
過去にも、2000 年に“人食いバクテリア”として新聞報道されたことがあります。
近年、 A 群のみならず B 群、 C 群、 G 群による劇症型溶血性レンサ球菌感染症も報告されています。
劇症型A群レンサ球菌感染症の病原性と感染経路
中高齢者によくみられ、死亡率は約 40% 。病状は急激に進行します。
初発症状は発熱、呼吸困難、筋痛で、数時間でショック状態に陥り、急速に多臓器不全又は心停止に進行します。
その他の症状として咽頭痛、消化管症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢 ) 、全身倦怠感、低血圧などの敗血症症状などがありまが、明らかな前駆症状がない場合もあります。
後発症状としては軟部組織病変、循環不全、呼吸不全、血液凝固症状、腎・肝症状など多臓器不全を来します。
さっきまで、ふつうに日常生活を送れていた状態から 24 時間以内に多臓器不全がとなり、死んでしまう程度の進行の早さを示すことがあります。
A群レンサ球菌による軟部組織炎、壊死性筋膜炎、上気道炎・肺炎、 産褥熱は、致命的となりうる疾患です。
播種性血管内凝固症候群( DIC ) 、成人型呼吸窮迫症候群( ARDS) 、腎不全は劇症化した場合必ず起きるのですが、軟部組織壊死の合併は約半数のみであったという報告も見られます。
”人喰い”を表す皮膚壊死が必ず起きるとは限らないのです。
A群レンサ球菌はどこにいるのか?
つまりStreptococcus spp.の常在細菌叢 として、鼻腔、咽頭・喉頭、口腔、小腸・大腸、外陰部・膣などに人間と一緒に暮らしているのです。
仲良くお付き合いしていた隣人が、急に牙をむいて襲ってきたようなものです。
なぜ、A群レンサ球菌が”人喰い”を起こすのか?
劇症型溶血性レンサ球菌感染症が A 群菌の感染で起ることは明らかなのですが、どのようにして病気を引き起こしているのかの機構は未だ明らかになっていません。
感染経路
A群レンサ球菌感染症は、家族内感染を起こしやすいので、接触感染に注意しましょう。
また飛沫などを介してヒトからヒトに経気道的に感染するとする報告も見られます。
治療
抗菌薬としてはペニシリン系薬が第一選択薬です。
また、組織内の菌密度が上昇すると菌の発育が抑制されるので、極端な敗血症病態ではβラクタム系薬の効果が低下する現象が知られています。
そのため、細胞内移行性の高いクリンダマイシンを推奨する意見もあります。
さらに、免疫グロブリン製剤の効果も報告されています。
血圧維持には大量の輸液が必要ですが、輸液量の許容範囲が狭いため、 肺動脈圧の経時的観察が必要です。
壊死に陥った軟部組織は菌の生息部位です。筋壊死による腎不全および代謝性アシドーシスの悪化を防止するため、壊死組織及びその周辺を切除することが必要です。
ショックへの対応は抗菌薬大量投与、軟部組織炎が合併すれば切除が必要です。
カテーテル留置を含む外科的処置は早期に行われます。
滅菌・消毒
またA群レンサ球菌は通常濃度の消毒剤で死滅します。
消毒は、生体毒性が低く、副作用のない安全な消毒薬が適応です。
生体には生体用消毒薬を、環境・器具には環境用消毒薬を選択します。
手洗い・手指消毒
速乾性エタノールローションによる手指消毒。手荒れを防止する(ハンドクリームで保湿 )
使用消毒剤:
消毒用エタノール( 76.9-81.4v/v% )
塩化ベンザルコニウム液( 0.05-0.1% )
塩化ベンゼトニウム液( 0.1% )
グルコン酸クロルヘキシジン( 0.1-0.5% )
ポビドンヨード( 10% )
次亜塩素酸ナトリウム( 125 -1000ppm)