2015年7月15日水曜日

エリテマトーデス治療薬 プラケニル錠(ヒドロキシクロロキン硫酸塩)


プラケニル錠はヒドロキシクロロキン硫酸塩を有効成分とする抗炎症作用、免疫調節作用、抗マラリア作用、細胞増殖抑制作用等を有する薬剤です。



1955年4月に米国で承認されて以降、2015年3月時点では、主にマラリア、全身性エリテマトーデス(SLE:Systemic Lupus Erythematosus)、円板状エリテマトーデス(DLE:Discoid Lupus Erythematosus)、関節リウマチの治療薬として 70 ヵ国以上で承認されています。



日本でも、以前はヒドロキシクロロキン硫酸塩を有効成分とする経口剤が製造許可され販売されていたことがありました。


プラキニール錠やエルコクイン錠の商品名で販売されていました。


これらのお薬はマラリア、関節リウマチ、ランブリア症、円板状エリテマトーデス、多形日光疹等に対し使用されていました。



しかし、1960年ごろヒドロキシクロロキン硫酸塩と類薬である、クロロキンの高用量での使用による網膜症が国内外から報告が相次ぎました。



いわゆるクロロキン薬害事件の発生です。



これにより、日本国内ではクロロキンは1974 年に製造中止となり、誘導体であるヒドロキシクロロキン製剤も販売を中止してしまいました。



しかしながら、海外ではヒドロキシクロロキンを1日平均投与量として 6.5 mg/kg を超えない用量で投与すれば網膜障害を含む眼障害が発現するリスクは低いことが明らかとなり、エリテマトーデスの治療に長年にわたり使用され続けています。





エリテマトーデスとは、

皮膚をはじめ種々の臓器に炎症の症状が現れる自己免疫性結合組織疾患の総称です。


エリテマトーデスには皮膚エリテマトーデスと全身性エリテマトーデス2種類あります。


皮膚症状を主体とするのが皮膚エリテマトーデス(CLE:Cutaneous Lupus Erythematosus)です。円板状エリテマトーデスや深在性エリテマトーデスのように皮膚病変の診断名として使用される場合もあります。



皮膚症状のみならず、発熱、関節痛、口腔潰瘍、日光過敏、貧血、タンパク尿等の様々な全身症状を伴い、多臓器に障害を及ぼすのが全身性エリテマトーデスです。






世界標準から取り残された日本のエリテマトーデス治療



ヒドロキシクロロキンは国際的に有名な医学書(教科書)のハリソン内科学にエリテマトーデス治療の第一選択薬として記載があります。


さらに、海外のエリテマトーデス診療ガイドラインに全身性エリテマトーデスや皮膚エリテマトーデスの標準的治療薬としてヒドロキシクロロキンは位置付けられています。

Kuhn A et al. J Am Acad Dermatol. 65: e179-193, 2011
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20739095

American College of Rheumatology Ad Hoc Committee on Systemic Lupus Erythematosus Guidelines. Arthritis Rheum. 42:1785-1796,1999

https://www.rheumatology.org/practice/clinical/guidelines/Referral_Mgmt_SLE_Adults.pdf

Bertsias G et al. Ann Rheum Dis. 67: 195-205, 2008

http://ard.bmj.com/content/67/2/195.long


一方、日本では、ヒドロキシクロロキンは市販されておらず、エリテマトーデスに対する治療は副腎皮質ステロイドの局所投与及び全身投与が多用されていました。



副腎皮質ステロイドの全身投与による副作用に悩まされているエリテマトーデス患者さんも少なくなく、個人輸入でヒドロキシクロロキンを入手し使用されるケースもありました。



個人輸入による医薬品の使用は、非常に危険な行為です。
偽造医薬品や粗悪品の使用リスクが高く、それらを使用したことによる副作用に対する被害救済も受けることができないためです。



このような背景があり、日本ヒドロキシクロロキン研究会がプラケニル錠をエリテマトーデス治療に使用できるよう要望書を国へ提出しました。



そして、厚生労働省の第6回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において医療上の必要性の高い薬剤に該当するとの評価を得ることができました。



プラケニルは用法・用量に注意しましょう



用量設定は実体重ではなく理想体重です。



プラケニルは投与しても脂肪組織へは移行しにくい薬物です。



そのため、実体重に基づいて投与すると、特に肥満患者では過量投与となる恐れがあります。



過量投与によって網膜障害等の副作用発現リスクが高まる可能性があるため、実体重ではなく、理想体重(下表)に基づいて投与量を決定することになっています。


理想体重は実際の身長から算出します。(ブローカー式桂変法)





用法について、理想体重が46kg以上62kg未満の患者ではプラケニル200mgと400mgを1日おきに交互に投与しなくてはなりません。


とても煩雑です。




【関連】
クロロキン薬害事件とヒドロキシクロロキン