ニンテダニブは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)の受容体型チロシンキナーゼの ATP 結合部位に競合的に結合し、リガンドとの結合を介した自己リン酸化を阻害することにより、細胞内シグナル伝達を阻害すると考えられています。
特発性肺線維症
肺胞隔壁で炎症・線維化病変が起こる疾患です。
特発性肺線維症の発症機序は明らかではありません。
外的刺激や内因的刺激により肺胞上皮と基底膜が傷害され、その修復過程で線維芽細胞が増殖したり細胞外基質が過剰に増えたりすることで線維化病変が形成されると考えられています。
病状が進行すると呼吸困難、肺機能の悪化、急性の呼吸機能低下がおきます。
最終的に死に至る難治性疾患です。
特発性肺線維症と診断された方の生存期間は2~3年との報告もあります。
Raghu G et al.An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 183: 788-824, 2011
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21471066
日本で特発性肺線維症に対する治療薬として承認されている薬剤はピルフェニドン(ピレスパ錠)のみでした。
他の薬物療法として副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、シクロホスファミド水和物、アセチルシステイン等が医療現場では使用されています。
また、薬物療法以外の治療法として肺移植の選択肢もあります。
しかし、日本での肺移植適応は困難なため、新たな特発性肺線維症治療薬が医療現場で強く求められていました。
作用機序
特発性肺線維症等の線維症では、細胞外基質タンパク質を産生する線維芽細胞が正常な制御を受けずに増殖してしまっています。
増殖した線維芽細胞は筋線維芽細胞となり細胞外基質を産生します。
その細胞外基質が肺胞壁に過剰に沈着する結果、肺胞構造の変形やガス交換の障害を来すと考えられています
King TE et al.Idiopathic pulmonary fibrosis. Lancet.378: 1949-1961, 2011http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21719092
さらに、肺線維症の発症には、筋線維芽細胞の増殖、遊走や寿命の延長に対して促進作用を有するPDGFが関与しています。
Bonner JC.Regulation of PDGF and its receptors in fibrotic diseases. Cytokine Growth Factor Rev. 15: 255-273, 2004http://www.cgfr.co.uk/article/S1359-6101(04)00016-4/abstract
特発性肺線維症患者の肺組織中上皮、内皮そして平滑筋細胞/筋線維芽様細胞において FGF 及び FGFR-1 発現の増加や、間質細胞において FGFR-2 発現の増加が認められています。
Inoue Y et al.Basic fibroblast growth factor and its receptors in idiopathic pulmonary fibrosis and lymphangioleiomyomatosis. Am J Respir Crit Care Med. 166:765-773, 2002
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12204879
血清中 VEGF 濃度が高値を示す特発性肺線維症患者の生存率に低い傾向が認めらたと報告もされています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12204879
血清中 VEGF 濃度が高値を示す特発性肺線維症患者の生存率に低い傾向が認めらたと報告もされています。
Ando M et al.Significance of serum vascular endothelial growth factor level in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Lung. 188: 247-252, 2010http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20066538
受容体型チロシンキナーゼであるPDGFR、FGFR 及び VEGFR を選択的に阻害することで特発性肺線維症の病態の進行を抑制します。
オフェブカプセルとピレスパ錠
日本呼吸器学会、米国胸部学会議(American Thoracic Society)、欧州呼吸器学会(European Respiratory Society) 及び 南米胸部学会(Latin American Thoracic Association) の診療ガイドラインにおいて、アザチオプリン、シクロホスファミド及びシクロスポリン等の免疫抑制剤は特発性肺線維症に対する効果が乏しいので特発性肺線維症患者の治療には推奨されていません。
また、特発性肺線維症治療におけるコルチコステロイドの単独投与及び免疫抑制剤との併用使用も推奨されていません。
ピルフェニドン(ピレスパ錠)については、一部の患者では選択肢となり得ると記載されていますが、大多数の特発性肺線維症患者に対して使用することは推奨されていません。
現在、特発性肺線維症に使用可能な主な薬剤はニンテダニブ(オフェブ)及びピルフェニドン(ピレスパ)の 2 剤です。
オフェブとピレスパは、いずれも、努力肺活量(FVC)、肺活量(VC)等を指標に病態の進行抑制効果が示されています。
オフェブとピレスパを直接比較する臨床試験はこれまで実施されていないので使い分けは不明です。
特発性肺線維症の治療に際してオフェブを用いた治療を開始すべきか、ピレスパで開始するかどうかについては、個々の患者の状態を考慮した上で、判断されます。
Raghu G et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 183: 788-824,2011
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21471066
オフェブとピレスパの併用
オフェブとピレスパの作用機序は異なっています。
そのため、併用される可能性もあります。
併用時の安全性について、オフェブカプセルの国内臨床試験で検討されています。
オフェブとピレスパ併用とオフェブ単独の有害事象の発現は併用投与例で悪心及び嘔吐の割合が高くなっていました。
下痢の発現割合は同程度でした。
しかし、症例数が少なく、投与期間も短いデータなので併用投与の可否は慎重に判断する必要があります。