原因となるウイルスはMERSコロナウイルスと呼ばれています。
2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS:サーズ)の原因となった病原体もコロナウイルスの仲間ですが、SARSとMERSは異なる病気です。
発生地域
主としてアラブ首長国連邦、イエメン、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、ヨルダン、レバノンなどの中東地域で患者が報告されています。
このほか中東以外の地域でも患者の報告がありますが、中東地域で感染した人もしくはその患者と接触した人であることがわかっています。
イタリア、英国、オーストリア、オランダ、ギリシャ、ドイツ、フランス、トルコ、アルジェリア、エジプト、チュニジア、フィリピン、マレーシア、韓国、アメリカ合衆国。
MERSの症状
主な症状は、発熱、せき、息切れなどです。
下痢などの消化器症状を伴う場合もあります。
MERSに感染しても、症状が現われない人や、軽症の人もいますが、特に高齢の方や糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患のある人で重症化する傾向があります。
以下のような要件にあてはまる患者で、他の感染症や病因が判明していない場合、MERSの可能性が考慮されます。(ただし、必ずしもこの要件に限定するものではありません。)
(ア)
38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、臨床的又は放射線学的に肺炎、ARDSなどの実質性肺病変が疑われる者であって、発症前14日以内にWHOの公表内容からMERSの初発例の発生が確認されている地域に渡航又は居住していたもの
(イ)
発熱を伴う急性呼吸器症状を呈する者であって、発症前14日以内にWHOの公表内容からMERSの初発例の発生が確認されている地域において、医療機関を受診若しくは訪問したもの、MERSであることが確定した者との接触歴があるもの又はヒトコブラクダとの濃厚接触歴があるもの
(ウ)
発熱又は急性呼吸器症状を呈する者であって、発症前14日以内に、MERSが疑われる患者を診察、看護若しくは介護していたもの、MERSが疑われる患者と同居していたもの又はMERSが疑われる患者の気道分泌液若しくは体液等の汚染物質に直接触れたもの
MERSの予防と治療
現在、MERSに対するワクチンや特異的な治療法はありません。
患者の症状に応じた治療(対症療法)になります。
WHOがMERS患者の臨床管理について暫定的なガイダンスを公表しています。
Clinical management of severe acute respiratory infections when novel coronavirus is suspected: What to do and what not to do(WHOホームページ)
日本感染症学会のホームページ「新型コロナウイルス感染症情報」
MERSの感染経路
人がどのようにしてMERSに感染するかは、まだ正確には分かっていません。
患者から分離されたMERSコロナウイルスと同じウイルスが、中東のヒトコブラクダから分離されていることなどから、ヒトコブラクダがMERSウイルスの感染源動物の一つであるとされています。
その一方で、患者の中には動物との接触歴がない人も多く含まれています。
家族間や、医療機関における患者間、患者-医療従事者間など、濃厚接触者間での感染も報告されています。
海外の感染予防対策の実施が不十分な医療機関等においては、患者から医療従事者や他の患者に感染した例が報告されています。
ただし、季節性インフルエンザのように、次々にヒトからヒトに感染する持続的なヒト-ヒト感染はありません。
消毒方法
消毒薬感受性についてMERSコロナウイルスを用いた検討は行われていませんが、類縁ウイルスにおいて検討が行われています。
コロナウイルスはエンベロープを有するウイルスであり、一般的なかぜ症状を呈するコロナウイルス 229E を用いた検討では、1000ppm 次亜塩素酸ナトリウム、10%ポビドンヨード、70%エタノール、2.0%グルタラール、それぞれ 1 分間の接触により 99.9%以上の不活性化がみられています。
Sattar SA, Springthorpe VS, Karim Y, et al:Chemical disinfection of non-porous inanimate surfaces experimentally contaminated with four human pathogenic viruses. Epidemiol Infect.1989 ; 102: 493-505.
また 2002 年から 2003 年にかけての世界的な流行が大きな問題となった重症急性呼吸器症候群(SARS: Severe Acute Respiratory Syndrome)の原因ウイルスである SARS コロナウイルスを用いた検討では、80%、85%、95%のエタノールを含有する手指消毒薬ではそれぞれ 30 秒以内で感染力の検出下限に達し、ベンザルコニウム塩化物と界面活性剤を配合した環境消毒薬などでは 30 分以内で検出下限に達したとされています。
Rabenau HF, Kampf G, Cinatl J, et al: Efficacy of various disinfectants against SARS coronavirus.J Hosp Infect. 2005; 61: 107-11.
これらのことから、MERS コロナウイルスも消毒薬の感受性は良好と推察されます。
国立感染症研究所は環境消毒に使用する消毒薬として、消毒用エタノール、70vol%イソプロパノール、0.05~0.5w/v%(500~5000ppm)次亜塩素酸ナトリウム等を推奨しています。
中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)に対する院内感染対策: 国立感染症研究所感染症疫学センター、国立国際医療研究センター病院国際感染症センター.
標準的対応フロー (6月4日更新)
参考:
厚生労働省健康局結核感染症課長通知「韓国における中東呼吸器症候群(MERS)への対応について
」健感発 0604 第1号(平成27年6月4日)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150604_01.pdf
厚生労働省健康局結核感染症課長通知「韓国における中東呼吸器症候群(MERS)の発生について」健感発 0601 第1号(平成27年6月1日)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150602_01.pdf
厚生労働省健康局結核感染症課長通知「韓国における中東呼吸器症候群(MERS)の発生について」健感発 0601 第1号(平成27年6月1日)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150602_01.pdf
中東呼吸器症候群(MERS)(国立感染症研究所)