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2014年12月8日月曜日

プロゲステロン経腟投与剤(ルティナス腟錠 100 mg)





ルティナス腟錠は、プロゲステロンを有効成分とする
外用黄体ホルモン剤です。
アメリカのフェリング・ファーマシューティカルズ社が開発しました。

日本国内では50万人近い人が不妊治療を受けられているといわれています。
生殖補助医療は、難治性不妊症に対する重要な治療法と位置付けられています。
生殖補助医療では排卵を誘発させるために調節卵巣刺激という方法を行います。
ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト又は
ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト製剤を用いた
ホルモン管理による卵巣刺激法が最も一般的な方法です。

しかし、この方法は投与時に黄体機能不全が生じてしまいます。
そのため、プロゲステロンを投与して黄体補充を行う必要があります。
そうすることで妊娠率が向上することが期待されています。

調節卵巣刺激法 日産婦誌62巻 9 号

プロゲステロン経腟投与剤は注射剤に比べて、
標的臓器である子宮にプロゲステロンを効果的に投与できます。
さらに、患者さん自身により投与でき、痛みを伴わない等のメリットがあります。

ルティナス腟錠は
生殖補助医療における黄体補充に関する効能・効果で、
2014 年 6 月現在、アメリカ、イギリスなど36ヵ国で使用されています。



プロゲステロン
プロゲステロンは、卵胞から卵が排出された後に卵巣黄体から分泌されるホルモンです。
プロゲステロンは卵胞ホルモンの作用により増殖した子宮内膜に作用します。

プロゲステロンは内膜間質細胞を、
卵の発育に必要な物質を含んだ細胞に転換させるはらきをしています。

胚が子宮内膜に着床すると、
プロゲステロンのはたらきで内膜細胞をさらに膨大させ、
栄養豊富な脱落膜を形成させます。

その後、出産まで妊娠を維持させます。



プロゲステロンのはたらきについて以下の論文報告があります。

動物実験ですがプロゲステロンの皮下投与により子宮腺が発達しました。また、妊娠ラットの卵巣を切除後、プロゲステロンを皮下投与することにより、妊娠が継続されました。
Kumar N et al.(2000)Nestorone: a progestin with a unique pharmacological profile. Steroids 65: 629-636 
http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0039128X00001197

プロゲステロンが子宮筋の自動収縮力を抑制することが報告されています。Anderson L et al.,The effect of progesterone on myometrial contractility, potassium channels, and tocolytic efficacy. Reprod Sci 16:1052-1061 
http://rsx.sagepub.com/content/16/11/1052.long


生殖補助医療におけるプロゲストロンのはたらき
不妊治療には、排卵誘発、卵管手術、人工授精に加えて、
体外受精等の生殖補助医療が行われています。



生殖補助医療は不妊治療の重要な選択肢のひとつです。

生殖補助医療は難治性不妊症に対する治療法と位置付けられています。

近年、生殖補助医療で生まれてくる赤ちゃんが増えてきています。
2010年度には生殖補助医療による出生児数が
総出生児数の2.7%を占めるに至ったという報告があります。

齋藤英和ら、(2012)日本産科婦人科学会雑誌 64:2110-40


生殖補助医療における調節卵巣刺激では、
ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト又は 
ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト製剤を用いた
ホルモン管理による卵巣刺激法が最も一般的です。

ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニストにより
内因性黄体ホルモン(プロゲステロン)の放出刺激が抑制されるので、
卵巣からのプロゲステロンの放出は期待できません。

また、ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニストを使用した場合でも、
アゴニストを投与した場合ほど長期間黄体ホルモンは抑制されませんが、
妊娠維持に必要なプロゲステロンを産生するほどの
急速な黄体ホルモンの回復は期待できません。


このように生殖補助医療において、
治療上妊娠に関与するホルモン分泌の抑制管理を薬剤により行っています。
そのため、胚移植後の着床、妊娠の維持のためには、
外因性のプロゲステロンによるホルモン補充や
hCG(ヒト絨毛性性腺刺激)ホルモン投与による黄体の賦活化が必要です。


しかし、ヒト絨毛性性腺刺激投与による黄体賦活では 
OHSS(卵巣過剰刺激症候群) の発現が懸念されています。

そのため外因性プロゲステロンの投与が、
生殖補助医療における黄体補充療法として国内外で有用な治療法の一つとされています。


膣錠が承認される以前、国内で承認されているプロゲステロン製剤は、注射剤のみでした。

プロゲステロン注射剤による治療では、
治療を受けている女性が連日通院しなくてはなりませんでした。
これは時間的負担がとてもかかるものでした。
さらに連日投与による注射部位疼痛や神経損傷・筋短縮症の危険性等の
身体的負担を強いものでした。

中山アヤコら,(2005)中小病院における院内製剤の品質評価-プロゲステロン膣坐剤-  医療薬学 31(10):802-7

中山アヤコら,(2006)プロゲステロン膣坐剤の有効性と日内変動を考慮した投与設計  医療薬学 32:375-82, 2006


海外ではプロゲステロン経口剤も市販されています。
しかし経口剤では有効血中濃度を得ることが難しく、
注射剤や経腟投与剤と比べて着床率及び妊娠率が低いとの報告もあります。

Smitz J et al.,(1992)A prospective randomized comparison of intramuscular or intravaginal natural progesterone as a luteal phase and early pregnancy supplement. Hum Reprod 7:168-75,



ルティナス膣錠は、
1錠中に有効成分としてプロゲステロン 100 mg を含有する発泡性の腟錠です。

投与方法は1日2回または3回、専用のアプリケータを使って腟内に挿入します。

プロゲステロンの腟内投与では、
子宮内膜組織中プロゲステロン濃度が、
血清中プロゲステロン濃度より高値を示すため、
経口投与や筋肉内投与と比べて、
妊娠をより維持しやすい身体に近づけることができます。


Bulletti C et al.,(1997) Targeted drug delivery in gynaecology: the first uterine pass effect.HumReprod 12:1073-9,


腟内投与では、注射筋肉内投与と比べて頻回の通院が不要になります。
簡便で痛み我慢しないで済みます。
患者さんの時間的及び身体的負担を軽減することができます。

プロゲステロン経腟投与剤は不妊治療において高い有用性が期待できる製剤です。


安全性

卵巣過剰刺激症候群には注意しましょう。

生殖補助医療の調節卵巣刺激は多数の卵を得ることが目的でおこなわれます。
多発卵胞発育を起こさせるので、OHSSを発生しやすい状態になっています。
ルティナス膣錠が直接の原因かは不明ですが、
臨床試験での発生報告があります。

早期に発見して対応することが大切です。
薬による卵巣過剰刺激症候群は原因となった薬を中止することにより
改善することが多いので、
不妊治療中に
「おなかが張る」、
「はき気がする」、
「急に体重が増えた」、
「尿量が少なくなる」などの
症状に気がついた場合は、速やかに医師・薬剤師に連絡しましょう。 



生殖補助医療スケジュール例