ストレプトゾシン(商品名:ザノサー)は、アメリカで開発されたニトロソウレア系抗悪性腫瘍剤です。
ストレプトゾシンの作用機序
ストレプトゾシンは、
ニトロソウレア系のアルキル化剤に分類されます。
DNAをアルキル化することで、DNA合成、DNAの正常な二本鎖構造の形成等を阻害します。
そして、細胞周期はG2/M期で停止してしまい細胞は死んでしまいます。
これにより腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。
用法・用量
下記用法・用量のいずれかを選択する。
① 5日間連日投与法(Daily投与法):
通常、成人にはストレプトゾシンとして 1 回 500mg/m2(体表面積)を
1 日 1 回 30 分以上かけて 5 日間連日点滴静脈内投与し、37 日間休薬する。
この 6 週間を 1 コースとして繰り返す。
② 1週間間隔投与法(Weekly投与法):
通常、成人にはストレプトゾシンとして 1 回 1,000mg/m2(体表面積)を
1 週間ごとに 1 日 1 回 30 分以上かけて点滴静脈内投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減し、1 回の投与量は 1,500mg/m2(体表面積)を超えないこと。
Daily投与法とWeekly投与法の使い分け
Daily投与法及びWeekly投与法のいずれもアメリカ及びフランスにおいて承認されています。
海外の各種診療ガイドラインにおいてもいずれかの投与法に限定される旨の記載はありません。
臨床試験では、Daily投与法とWeekly投与法の2通りの用法・用量を設定し、
その結果、いずれの投与法においても奏効例が認められています。
両投与法の使い分けについては、
両投与法において悪心及び嘔吐の発現時期が異なる旨の論文が報告されています。
しかし、明確な使い分けの基準はなく、
いずれかの投与法を個々の患者ごとに選択することが適切だと考えられます。
Weiss RB(1982)Streptozocin: a review of its pharmacology, efficacy, and toxicity.Cancer Treat Rep.;66(3):427-38.
膵・消化管神経内分泌腫瘍
神経内分泌腫瘍(NET:neuroendocrine tumors)のうち膵臓を原発とするものを
膵神経内分泌腫瘍(pNET)といいます。
NETは人体に広く分布する神経内分泌細胞からできる腫瘍です。
種々のホルモンを産生することができます。
神経内分泌細胞は、全身のさまざまな臓器に存在しているので
その腫瘍であるNETも膵臓をはじめとして
下垂体、上皮小体、副腎、甲状腺、消化管、胸腺、肺などに生じます。
また遺伝性の多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)に伴い発生することも知られています。
病理学的には2010年のWHO分類において、
増殖能を示す指標(核分裂像数とKi-67)を用い、
高分化型のNETG1、NETG2と
低分化型のNEC(神経内分泌がん:Neuroendocrine carcinoma)
の3つに分類されました。
NETは、低~中悪性度の高分化型の腫瘍でホルモンの産生・分泌を伴うこともあります。
一方、NECは小細胞がんや大細胞がんを含み化学療法の対象になると言われています。
NETを発症しているヒトは、実際にはかなり多く、
アメリカでは全消化器がんの中で大腸がんに次いで2番目だという報告もあります。
NETの治療法は切除手術が基本です。
しかし、進行した状態で診断されると完全な切除はできません。
薬を使用して腫瘍を抑えこむ必要があります。
エベロリムス(アフィニトール®)やスニチニブ(スーテント)が使用されます。
ストレプトゾシンは既存治療薬(エベロリムス、スニチニブ等)との
臨床的位置付けは明確ではないものの、
国内外の代表的な診療ガイドラインに掲載され、一定の評価を得ている薬剤です。
ストレプトゾシンは膵・消化管神経内分泌腫瘍に対する新たな治療選択肢の一つとして位置付けられます。
ストレプトゾシンのエビデンス
以下の膵神経内分泌腫瘍に対して
- 切除不能で症状を有する、
- 著明な腫瘍量を有する、
- 臨床的に疾患進行が速い
エベロリムス、スニチニブ又はストレプトゾシンを含む化学療法が推奨されます。
また、ストレプトゾシンとドキソルビシンとの併用投与は、
ストレプトゾシンと 5-FU との併用投与と比較して、奏効率が高く、
全生存期間が延長したという報告があります。
Moertel CG et al,(1992)N Engl J Med.;326(8):519-23.
切除不能な膵神経内分泌腫瘍に対して、細胞傷害性の抗悪性腫瘍剤
(ストレプトゾシン、ドキソルビシン、5-FU、ダカルバジン等)は
治療選択肢ですが、全生存期間への寄与に関するエビデンスは乏しいです。
National Cancer Institute Physician Data Query(NCI-PDQ)
膵神経内分泌腫瘍(膵島細胞腫瘍)の治療(PDQ®)
切除不能な肝転移を有する非機能性の膵神経内分泌腫瘍に対して、
ストレプトゾシンと5-FUの併用投与並びに
ストレプトゾシン、5-FU 及びドキソルビシンの3剤併用投与の奏効率は35~40%でした。
ヨーロッパでは1980年代からこれらの併用投与がなされていました。
また、エベロリムス及びスニチニブは、
ストレプトゾシンを含む化学療法後に増悪した患者に対する治療選択肢とされています。
切除不能な肝転移を有する機能性膵神経内分泌腫瘍に対して、
ストレプトゾシンと5-FU併用投与及び
ストレプトゾシン、5-FU及びドキソルビシンの3剤併用投与の奏効率は35~40%程度でした。
また、進行及び多発性の遠隔転移を有する、又は症状を有する消化管神経内分泌腫瘍に対して、
ストレプトゾシン、5-FU及びドキソルビシンの3剤併用投与が推奨されています。
European Neuroendocrine Tumor Society Consensus Guidelines(ENETSガイドライン)(2012)
以上のように海外では、
ストレプトゾシンを含む化学療法を中心とした治療が行われています。
なお、ストレプトゾシンは、アメリカでは1982年に膵島細胞癌、
フランスでは1985年に遠隔転移を有する膵島細胞癌及びカルチノイド腫瘍に関する
効能・効果で承認され、30 年以上の使用経験が蓄積されています。
すなわち、有効性及び安全性が確立された標準的な治療薬であると考えられます。
この薬が、今後日本でも使用可能になりました。
悪心嘔吐の対応
臨床試験において、悪心及び嘔吐は、それぞれ54.5%及び22.7%に認められました。
悪心・嘔吐により投与中止に至った患者は認められませんでした。
悪心は Daily 投与群46.7%だったのに比較して、Weekly 投与群71.4%で発現率が高くなりました。
一方、嘔吐は Daily 投与群で33.3%に認められ、Weekly 投与群では認められませんでした。
5HT3受容体拮抗剤及びデキサメタゾンの予防的投与により、
ストレプトゾシンと5-FUとの併用投与による悪心、嘔吐軽減できたことが報告されています。
Dahan L et al,(2009)Phase III trial of chemotherapy using 5-fluorouracil and streptozotocin compared with interferon alpha for advanced carcinoid tumors: FNCLCC-FFCD 9710.Endocr Relat Cancer.;16(4):1351-61.
また他の臨床試験においては、全例で制吐剤の予防的投与が行われました。
制吐剤として5HT3受容体拮抗剤及びデキサメタゾンの併用投与が20例で行われ、
さらに Weekly投与群の2例のみに選択的ニューロキニン1型(NK1)受容体拮抗剤が投与されました。
選択的NK1受容体拮抗剤(イメンドカプセル)を投与された患者では悪心が50.0%で認められ、
嘔吐は認められませんでした。
悪心・嘔吐の発現頻度及び重症度が海外報告と比較して低かったと考えられることから、
制吐剤ガイドラインに準じ、ストレプトゾシンの前投薬として
選択的NK1受容体拮抗剤と5HT3受容体拮抗剤及びデキサメタゾンの併用投与が推奨されると考えられます。
骨髄抑制
臨床試験において Grade 3 の好中球数減少等が認められています。
海外臨床試験において他の抗悪性腫瘍剤との併用投与により白血球数減少を発現し、
死亡に至った症例が報告されています。
Broder LE, Carter SK (1973) Pancreatic islet cell carcinoma. II. Results of therapy with streptozotocin in 52 patients.Ann Intern Med.;79(1):108-18.
ストレプトゾシンの投与中は定期的に血液検査を行い、
患者の状態を十分に観察する必要があります。
日本臨床腫瘍学会
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膵・消化管神経内分泌腫瘍に対して、
ストレプトゾシンは欧米で使用経験があり、膵原発神経内分
泌腫瘍に対してストレプトゾシンとドキソルビシン投与は良好な成績を示した。