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2014年6月8日日曜日

抗精神病薬の使用は心血管障害のリスク要因







2011年Lancetに"No mental health without physical health"という
論説が掲載されました。


これは、精神科医は統合失調症の患者さんの身体的健康にも、
もっと配慮するようにという内容です。


重症精神障害患者さんの平均寿命は一般の方に比べて16~25年短く
虚血性心血管疾患などでなくなる方が多いと報告されています。


肥満や高血糖、脂質異常症といった生活習慣病は心血管疾患と関連があるため
これらのコントロールを意識的に行う必要があります。


Tiihonen J,et al,(2011)No mental health without physical health.; The Lancet,377, (9766),611
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60211-0/fulltext



統合失調症の陽性症状や陰性症状が生活習慣に直接的な影響を及ぼし
メタボリックシンドロームなどを招くことが考えられます。



しかし、治療薬として用いられる薬剤の影響も無視できません。




ある調査があります。
統合失調症治療薬を投与されている患者さんを、
第一世代抗精神病薬投与群と
第二世代抗精神病薬投与群に分けて
新たにメタボリックシンドロームになる割合を調査しました。




結果は、

第二世代抗精神病薬が第一世代比べて
2倍ほど多くなりました。

Marc De Hert,et al.(2007)A Case Series: Evaluation of the Metabolic Safety of Aripiprazole.Schizophr Bull 33 (3): 823-830.
http://schizophreniabulletin.oxfordjournals.org/content/33/3/823.short






カルテ調査を用いた研究では、
第一世代抗精神病薬を使っている患者さんで3年後、
メタボリックシンドロームになってしまった人が2.5倍になりました。
一方、第二世代抗精神病薬を使っている人は6倍になったという
報告があります。


Marc De Hert,et al.(2008)Typical and atypical antipsychotics differentially affect long-term incidence rates of the metabolic syndrome in first-episode patients with schizophrenia: a retrospective chart.Schizophr Res.;101(1-3):295-303.
http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(08)00093-5/abstract



第二世代抗精神病薬は
錐体外路障害が起きにくい薬として開発されましたが、
メタボリックシンドロームという新たな問題を引き起こしやすいことがわかってきています。







このことについて、
お医者さんはどのように考えているかというと
約90%の医師が統合失調症患者さんのメタボリックシンドロームの問題について
配慮しているというアンケート結果があります。
問題の認識は広まっていることがわかります。


しかし、回答した43%の精神科医は
「糖尿病のリスクは第二世代抗精神病薬のメリットの見返りとして許容可能」としています。
また、体重増加のリスクも半数の医師が許容できるとしています。

Newcomer JW, et al.(2004)The Atypical Antipsychotic Therapy and Metabolic Issues National Survey: practice patterns and knowledge of psychiatrists.J Clin Psychopharmacol.;24(5 Suppl 1):S1-6.
http://journals.lww.com/psychopharmacology/pages/articleviewer.aspx?year=2004&issue=10001&article=00001&type=abstract






精神疾患の治療の引き換えに、身体的健康を損なうことがあってはならないと思うのです。