世界では120異常の国々で子宮頸癌予防ワクチン(HPV)は承認され、接種されています。WHOは2013年6月13日に、GACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)をとおして子宮頸がんワクチンの安全宣言をしています。
WHOの公式声明「HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報」の日本語訳(医療ガバナンス学会)
2013年6月19日に米国CDC(疾病対策予防センター)は14~19歳女子のヒトパピローマウイルス感染率が56%減少したとして、子宮頸がん予防ワクチンの有効性を発表しています。
New study shows HPV vaccine helping lower HPV infection rates in teen girls Press(CDC Press Release 2013.06.19)
子宮頸がんのウイルス感染、予防ワクチンで56%低下(Bloomberg 日本版)
さらに2013年8月2日には国際産科婦人科連合(The International Federation of Gynecology and Obstetrics:FIGO)も1億7500万例の接種経験から子宮頸癌予防ワクチンの安全性を表明しています。
Safety of HPV vaccination: A FIGO statement
このような中で、日本は子宮頸がん予防ワクチン接種の勧奨を中止しています。
2013年4月1日から子宮頸がん予防ワクチンが定期接種化されました。しかし、マスコミによる副反応報道などの影響により、2013年6月14日になって厚生労働省が当面このワクチンの接種を勧奨すべきではないと各都道府県宛に勧告しました。その結果、事実上接種が止まっています。
マスコミが行った報道は、有害事象として接種した上腕ばかりでなく四肢の痺れと疼痛のため歩行困難を訴える複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)発症したというものです。
CRPSの発症はこれまでに風疹とB型肝炎の予防接種でも経験され、ワクチンの成分が原因で起こるものではなく、外傷や注射針などの刺激で発症すると考えられています。
子宮頸癌予防ワクチンでのCRPSの発症は、2013年3月31日までに世界的には1億5000万例への接種で5例発症しているとの報告があります。一方、日本では850万例への接種で5例発症したとの報告がありますが、専門家の評価では1例を除きCRPSは否定されています。
第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会配付資料
子宮頸癌予防ワクチンはこれまでの他のワクチンと異なり、皮下注射ではなく筋肉注射によって行います。また、局所に炎症を惹起して抗体産生を促す方法なので、注射箇所に多少の疼痛を伴います。このような生理的とも言える疼痛も含めて有害事象が過剰に宣伝されているように思われます。
厚生労働省は真の副反応と頻度を把握するため、主要病院に指示して調査を行っています。2013年11月と2014年1月に厚生労働省は検討部会を開催し、見解を取りまとめました。
1.海外においても同様の症例報告はあるものの、ワクチンへの安全性への懸念とは捉えられていない。
2.症状のメカニズムとして、心身の反応によるものである。
3.局所の疼痛や不安などが反応を惹起したきっかけとなったことは否定できないが、1ヶ月以上経過して発症した症例は因果関係を疑う根拠に乏しい。
4.慢性に経過する場合は接種以外の要素が関与している。
以上の見解に対応して、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本婦人科腫瘍学会ならびに「子宮頸がん制圧をめざす専門家会議」が早期の接種再開を促す要望書を提出しています。
日本では、新しいワクチンが開発されると有害事象が大きく報道される風潮があります。百日咳や風疹の予防接種がそうでした。ワクチンを中止した結果、百日咳では1万人以上との患者報告があり、風疹では人有の風疹罹患者が
増加しているのが現状です。専門学会では、今回の接種勧奨の差し控えがなければ、これまでに2万例の子宮頸がん発症と、5000例の子宮頸がん死亡を防ぎ得たであろうと推計しています。
平成25年度第7回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成25年度第8回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料