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2013年12月15日日曜日

エビスタとフォルテオ皮下注の併用は可能か




2年前から骨粗しょう症のためにエビスタをを服用されている患者さんが持って来られた処方箋にフォルテオ皮下注が追加されていました。


Rp. エビスタ錠60mg   1回1錠 1日1回 朝食後 28日 
   フォルテオ皮下注キット600μg 1本 1回20μg 1日1回 朝 皮下注射


患者さんからお話を伺うと、検査結果が芳しくなく、骨が折れやすくなているので注射を試してみようということらしいです。

エビスタ錠とフォルテオ皮下注の併用はできるのでしょうか。


エビスタ錠(ラロキシフェン)は選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)に分類されています。
乳房や子宮ではエストロゲン作用を発揮せず、骨などにおいて骨代謝回転関与するサイトカインを介してエストロゲン用の骨吸収抑制作用を示します。


フォルテオ皮下注(テリパラチド)は1日1回の投与で骨形成を誘発します。
適応症は骨折の危険性の高い骨粗鬆症で、投与期間が決まっていて24ヶ月までです。
ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の遺伝子組み換え製剤です。


国内で発売されているテリパラチド製剤はフォルテオとテリボンの2種類あります。
フォルテオは1日1回、テリボンは週に1回皮下投与します。
フォルテオは自己注射が可能ですが、テリボンは通院して使用する薬剤です。
それぞれ特徴があり、患者さんに合わせて選択されます。


骨粗鬆症治療薬は骨密度や骨折部位によって推奨グレードが設定されています。







骨粗鬆症治療薬の併用

骨粗鬆症は多くの因子により発症する疾患であることから、作用機序の異なる薬物の併用は合理的と考えられます。

骨折リスクの高い症例に対し、新規椎体骨折および非椎体骨折の予防のためのアレンドロネートと活性型ビタミンD3製剤の併用は推奨グレードB とされています。

しかし、これ以外の併用療法は、現在のところ推奨度を示すに足るエビデンスは得られていません。


併用療法を行うにあたり、以下のことが証明されなければなりません。


  • 併用により単剤の使用よりも、より骨折予防効果が強いこと。
  • 併用により安全性に問題がないこと。
  • 併用により患者のQOLがより良い状態に維持されること。
  • 併用により骨密度または骨代謝マーカーがより良い方向に推移すること。
  • 併用療法が単剤の使用に比べ医療経済的側面から見て過剰な医療ではないことを証明すること。
  • 併用により一方の薬剤効果が相殺されることがないこと


海外ではラロキシフェンとテリパラチドの併用試験を行っています。
効果が有意に上がったというデータと変化がなかったという結果の両方があります。
しかし、現時点での臨床試験の結果ではラロキシフェンとテリパラチドの併用による骨密度増強効果がテリパラチド単独よりも有意に上回ることは実証しえていない状況です。

Deal C,et al(2005)Combination teriparatide and raloxifene therapy for postmenopausal osteoporosis: results from a 6-month double-blind placebo-controlled trial. J Bone Miner Res. ;20(11):1905-11
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1359/JBMR.050714/pdf


Cosman F, et al (2009)Effects of Teriparatide in Postmenopausal Women with Osteoporosis on Prior Alendronate or Raloxifene: Differences between Stopping and Continuing the Antiresorptive Agent.J Clin Endocrinol Metab,94(10):3772-3780
http://press.endocrine.org/doi/full/10.1210/jc.2008-2719

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版
http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/11_2.pdf



以上を踏まえ、疑義照会したところ、エビスタが削除となりました。


保険上考えても、コメントが入るような事例でしょうね。


ちなみに

テリパラチド製剤(フォルテオ・テリボン)とビスホスホネート製剤の併用もたまに見かける例ですが、こちらは併用により治療効果が減弱させることが知られています。



2013年12月4日水曜日

ノロウイルスの職場復帰目安






同僚の薬剤師が、ノロウイルスに感染してしまいました。


ノロウイルスは人環境にも安定して存在し、強い感染力を保持しています。
感染は18~1000個のウイルス粒子で成立するといわれています。

潜伏期間は1~2日(10~51時間)、症状は突然の嘔吐と下痢が出現します。
下痢、嘔吐のみられない不顕性感染者が約3~5割存在しています。

典型的な有症期間は1~3日です。3日以上症状が続く場合も15%程度います。

発症前に既にウイルスを排泄する場合が30%存在します。
感染すると長期に渡りウイルスを便の中に排泄します。
排泄期間は小児では約4週間、成人では約3週間です。

ノロウイルスの診断は、RT-PCR(reverse transcriptase-polymerase chain reaction)法と
ノロウイルス抗原検出キット:ELISA(enzyme linked immuno solvent assay)法や
イムノクロマト(IC)迅速診断法、があります。

検出感度はRT-PCR法>>>>>>>>ELISA法、ICキットです。
10000倍くらいちがいます。

迅速診断キットで検出できるのはウイルス量が増えている発症後5日以内の便検体です。


職場復帰する時期の目安

典型的な有症期間は1~3日であることから、
下痢、嘔吐期間が3日以上も持続している可能性は低いので、
症状が治まれば便の状態も正常に近くなっていると考えられます。

ですが、便の中にはまだウイルスが存在しているので
感染源となってしまう可能性は大きいでしょう。

したがって、症状がみられない、固形便の確認、を絶対条件として、
トイレの後の丁寧な手洗い、マスク・手袋・ガウンなどの予防着の着用や
標準的感染予防指針の遵守を徹底すれば職場復帰は可能と考えられます。

もちろん、症状などは個人差により異なるので
発症後に何日で症状がなくなるかに関して断定はできません。


迅速診断キットは感度があまり良くありません。
陰性確認は不可能です。
つまり職場復帰などを目的とした検査手段にはなりません。
無意味です。


感染者が薬剤師などコメディカルであれば上の対応でいいと思います。




では、給食関係の職員などはどうでしょうか、調べてみました。


病院給食、学校給食などの集団給食や、
外部の調理・食品サービスセンターなどの調理従事者に対しては、
食品に携わる調理従事者であるために、
関連する法的な遵守事項、いわゆる「大量調理施設衛生管理マニュアル」が定められています。


食品等事業者の衛生管理に関する情報(厚生労働省)

「大規模食中毒対策等について」厚生労働省(平成9年3月24日付け衛食第85号(最終改正:平成25年3月29日付け食安発0329第1号))


「ノロウイルスを原因とする感染性疾患による症状と診断された調理従事者等は、
リアルタイムPCR法等の高感度の検便検査において
ノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、
食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な処置をとることが望ましい」
と推奨されています。

リアルタイムPCR検査による陰性判定までは、
成人の便中ウイルス排泄期間とほぼ同じ、約3週間を要します。

したがってその間、「食品に直接触れる調理作業」は控え、
食品に直接接しない他部署での就業であれば可能と考えられます。

症状が消失したことに加えて標準的感染予防指針を遵守することが
職場復帰の可能性の目安となりますが、
法に則り、最終的にはリアルタイムPCR法検査での陰性確認を優先したほうがよいでしょう。



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